それは、背を向ける程の残酷

地べたに倒れ、見上げる先・・・。

当然の様に、俺と・・・・・・体を重ねたと話すルアーフが、心配そうに俺を見つめている。

・・・かと思えば、すぐに俺の傍まで近づき、俺の肩を抱いてきた。


「大丈夫、誓?今の話を聞いて驚いた?」

「そうですよ「女王」。誓さんは眠っていたんですから、そんな事聞かされたら驚きますよ。ね、誓さん?」


違う、そう言う話じゃ無い・・・。

眠っていたとか・・・起きていたらだとか・・・そんな話じゃない・・・。


「・・・・・・なん・・で・・・そんな・・・事・・・」


冗談だと・・・言い切ってほしかった・・・。

質の悪い・・・冗談だと・・・。


「ごめんね、どうしても誓の事が欲しかったの。きっとこれは運命なんだって思えた。・・・だから、我慢なんてできるはずがなかったの。」


ルアーフの細い指先が、俺の額を撫でる。

くすぐったさなど感じず、ゾワゾワとした感覚が背中を走った・・・。


「私達「人外」には、女の個体しかいないのは、誓も知ってるよね?なら、どうやって繁殖するか・・・・・・「人間」と同じだよ。・・・けどね、私達にはそれができない・・・だから一人、また一人と数が減っていった。「人外」を嫌う「人間」なんかとするなんて考えられないし、そんなの私達だってお断り。」


悲しそうな顔で話すルアーフ。

けれど、次の瞬間には微笑みを浮かべていた。


「だから、誓に出会えた時に「本当の幸せ」っていうのを感じたの。この人しか考えられないって・・・。」


横たわる俺の頭を、座り込み、自分の膝の上に乗せるルアーフ。

サラサラと、髪の毛に触れられる・・・。


「幸せはそれだけじゃなかった。「能力」で、一度体を重ねただけで、多くの子を産んだの。その子達も、誓に会いたがってるんだよ?後で会ってあげてね、誓❤」


頭を撫でるルアーフの手を掴んで振り払う。

足に力を入れ、何とか立ち上がり、ルアーフから距離を取った。


「・・・・・・らないよ、・・・分からないよ!!何でこんな事になって!?話を聞いても、何も分からない!!?」

「誓さん・・・・・・。」


フィアが、俺に近づこうとしてきた・・・。

後ろに引き、更に距離を取る・・・。


「嘘なんだろ?なぁ・・・?・・・・・・頼むから嘘だって言ってくれよ・・・!!」


信じたくなかった・・・・・・あの日から信じ続けていた「人外」の優しさを、温かさを、笑顔を・・・それが全部消え去っていく様に感じさせる「真実」・・・。

祈る様に、願う様に、ルアーフに問う・・・。

「嘘」だと・・・たったその一言で、俺は救われるというのに・・・・・・。


「誓・・・。誓は、私に助けられたって言ってたよね?・・・けどね、本当に助けられたのは私の方・・・。誓のおかげで、今の私が・・・私達がいるんだよ?」


なんだよ、それ・・・。

それじゃあ・・・それ、じゃあ・・・・・・。


「・・・俺が・・・「元凶」じゃないか・・・」


背を向けて、走り出した・・・。

語られた「真実」からも、居るに堪えないこの場からも・・・・・・何もかもに背を向けた・・・・・・。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


走る・・・。


「はぁ・・・!はぁ・・・!」


まだ走る・・・。


「うぐっ・・・!はぁ・・・!ごほっ・・・!」


苦しくても、走るのを止めない・・・。

ここから逃げよう・・・。

これ以上ここに居たら・・・・・・俺はオカシクなってしまう・・・。

微かな記憶を頼りに、元来た道を走る。

あのトンネルさえ抜ければ、後は森に身を潜め、見つからない様に行方をくらませればいい・・・。

今はただ、一刻も早く、ここから・・・。


「いた!!あそこ!!」


後ろから聞こえた声。

角を曲がる際、声のした方に目を向ける。

さっきの広場に居た、武装した「人外」達が俺を追って来ていた。

捕まるわけには、いかない。

それだけを頭に、無我夢中で走り続けた・・・。

走って走って・・・そして、見覚えのある道に出た・・・。


「ここは・・・はぁ、はぁ、・・・確か、ここを真っ直ぐに・・・」


ヘトヘトのなりながらも走り、時折追っ手を確認する。

まだ追って来ている・・・けど、距離はある・・・。

そうやって逃げている内に・・・、


「・・・あった、あそこだ・・・!!」


ようやくあのトンネルを見つけた。

振り向くと、もう追っ手がそこまで迫って来ていた。

俺のスピードが落ちてきたからか、どんどん近づいてくる・・・。


「早く・・・トンネルを、抜けないと・・・」


トンネルに足を踏み入れる。

ここさえ抜け出せば、後は森に・・・。

一瞬、皆の顔が浮かんだ・・・。

ルアーフ、ミーユ、クシィ、フィア・・・・・・。

楽しい時間を過ごした・・・、あの時には、戻れない・・・。

あんな話を聞かされても、「人外」を害だとは思っていない・・・・・・だが、受けた「傷」はあまりにも深く・・・、俺の心を蝕んだ・・・。

浮かべた頭を振り、前へ突き進む・・・。

先に光が射している・・・・・・出口だ。


「はぁ・・・はぁ・・・」


さようなら・・・・・・。

言葉にせずに、別れを告げる・・・。

後もう少しで、トンネルを抜ける・・・・・・はずだったのに・・・。

影が二つ、俺に向かって伸びていた・・・。

出口の前に、立ち塞がる・・・。


「何処に行くの、誓。」


ミーユとクシィが、行く手を阻んでいた・・・・・・。

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