それは、「女王」の話す真実

約束を果たす事が出来た。

また会おうと、自分からした約束・・・。

・・・・・・まさかそれが、こんな形で果たされるとは、あの時の俺も・・・今この状況に置かれている俺も、思ってもみなかっただろう・・・。

捕らえられた「人間」と、そう命じた「人外」の「女王」・・・・・・歪な形で果たされた、約束・・・。

喜ぼうと思ってもそうできない・・・、話に聞いていた「女王」が、彼女だったんて・・・。

反して彼女・・・、ルアーフは、本当に俺に会うのを待ち焦がれていたのか、抱き着いたきり離れようとしない。

フィアやその周りに居る皆も見ていて、それが気になって仕方がない。

・・・・・・いや、それ以上に気になっている事があった・・・。


「ちょっ、ちょっと待って・・・!本当に・・・あの時に会ったのは君なの?」

「そうだよ!どうしてそんな事聞くの?」


俺の問いかけに、やっと離れてくれたルアーフ。

間近で見たその顔は、やはりあの時のままで・・・・・・。


「だって・・・あの時と、全く変わっていない・・・。」


それが疑問だった。

あの時に俺が見た彼女は、俺よりも少し上ぐらいに見えた。

なのに、今俺の見ている彼女は、俺と同じぐらいに見える。

俺の背が伸びて身長が追いついたのなら分かる・・・だが、あの時から全くどこもかしこも変わらないなんて事があるのか・・・。


「それは、「人外」の成長過程がそれぞれ違うからよ。私みたいに一定の容姿で成長が止まって、歳だけ重ねていく子もいれば、生まれてから数時間で成長する子、逆に物凄く成長が遅い子だっているわ。長寿と言っても、容姿まで年老いていく訳じゃないの。」

「ミーユだってあんなに小さいですけど、実際はあの容姿で成長が止まっているだけなんですよ。」


ルアーフに続いてフィアが俺の後ろから説明を足してくる。

長寿だとは知っていたが、まさか成長が一定で止まるなんて・・・。

なら、やっぱり彼女があの時の・・・。

同一人物だと分かって、更に心が締め付けられる。

彼女の優しさに触れ、「人外」は「人間」の害なんかじゃないと思う事が出来た・・・・・・なのに、その彼女が「人間」を「排除」しようだなんて言い出した本人なのだという事も分かってしまった・・・。


「・・・助けられた時に思えたんだ・・・こんな優しさを持っている「人外」が、害なんかじゃないないって・・・。なのに、なんで「人間」を・・・・・・それに、どうして「人間」の一人である俺をここに連れて来たんだ・・・。」


聞けば分かる・・・彼女が全て知っている・・・。


「・・・良いよ、教えてあげる。誓・・・。」


ルアーフは、あの時の事を話し始めた・・・。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――


いつからかは分からない・・・。

「人外」は害だと、「人間」達は私達を嫌っていた。

姿を晒せば石を投げられたり、棒で突かれたり、酷い時には命すら・・・。

どんどん数が減っていった・・・。

長寿だと言っても、命を持った限りは・・・死というものが近づく。

いつかは来る死を、「人間」が持ってくる・・・。

私達の命など、無い様に扱ってくる・・・。

本当は私達の方が強いという事なんて知っていた・・・・・・けど、誰もやり返そうとはしなかった・・・。

臆病になっていた、殺意すら湧かないほどに。

中でも私は無気力だった。

「人外」には何かしらの「能力」がある・・・。

なのに、私には何も無かった・・・。

角や棘が生えているわけでもなく、「人間」に近い見た目をしていた。

本当は「人外」じゃなくて、憎むべきはずの「人間」なのではないかと、思う様にさえなっていた・・・。

どうして「人外」なんかに生まれてきたのだろう・・・・・・生きる意味すら分からなくなっていた・・・。

そんな時だった・・・・・・彼に出会ったのは。

普段は絶対に「人間」が入ってこない様な森に、「人間」の子供が居た。

意味も無く近づいたら、悲鳴を上げて逃げて行った。

当然の反応、これが成人の「人間」なら、逆に私が逃げる羽目になる・・・。

・・・なのに、一人だけ逃げもせずに残っている子供が居た。

大方、怖すぎて足が動かないんだろうと思って、至近距離まで近づいたら、気を失って倒れた。

どうやら頭を石にでもぶつけたらしく、血が出ていた。

・・・「人間」は憎むべき相手・・・、だけど・・・。

放っておく事が出来ず、手頃な場所まで連れて行き、手当てをした。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――


離れた所で寝ている彼を見ていると、目が覚めたようで起き上がった。


「起きた?」


声を掛けて近づくと、後退りされた。

急に動いたからか、頭が痛むらしい・・・頭に触れて、包帯が巻かれているのに気づいた様だった。


「倒れた時に、頭を石にぶつけた様だったから・・・大丈夫?」

「・・・えっ・・・あの、大丈夫・・・みたい・・・」

「そっか、なら良かった。」


「人間」と会話をするなんて初めての事だった・・・。

なのに、何故か普通に会話をすることができた。


「もう日も落ちてきたし、暗い森の中は危ないから・・・今日はここで休んだ方が良いよ・・・。人外の私と一緒でも良いのならだけど・・・。」


一応、配慮はしたつもりだった・・・。

これでこの場から逃げても、彼に罪は無い・・・・・・そう思っていたけど・・・。


「一緒で良いです。助けてくれたんですから。」

「・・・そっか。」


その言葉を聞いて、自然と、笑顔になった。

それから「人間」だとか、「人外」だとかは忘れて、楽しく話を聞いていた。

お互い名前も知らなかったけど、そんな事も気にならなかった。

・・・・・・どれだけ時間が経ったのか、気づけば彼はまた寝息を立てていた。

焚火に照らされている彼の顔を見ながら、考えていた。

「人間」が皆、彼の様に優しければ、私達「人外」は、こんな思いをしなくて済んだんじゃないか・・・と。

そして同時に思った・・・・・・無理だと。

彼が特別なんだと・・・。

彼以外、「人間」は皆憎むべき存在だと。

彼なら、彼だけは、彼じゃなければ・・・・・・。

・・・・・・彼への気持ちが込み上げてきた。


――――――彼が欲しい――――――。


私なんかに笑顔を向けてくれた。

楽しい時間を与えてくれた。

逃げないで一緒に居てくれた。

・・・ダメだとか、マズいとか、そんな我慢はできなかった・・・。

・・・・・・私は全く起きない彼と、・・・・・・体を重ねた・・・・・・。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「・・・それから、誓と別れて決意したの・・・「人間」は貴方以外「排除」しようって。・・・誓だけが居れば十分なのよ。」

「私達も全力で誓さんの事を調べたんですよ?名前も、今何処で何をしているのかも。それであの基地に居るのが分かったから、「女王」の命でここまで連れて来たと・・・・・・誓さん?どうかしましたか?」


・・・・・・二人が、何か言っている・・・・・・・。

・・・話が耳に入ってこない・・・。

・・・何を話していた・・・?

俺と・・・・・・何をしたって・・・・・・?


「ねぇ、誓。私にもね?「能力」がちゃんとあったのよ?」


息が苦しい・・・・・・。

頭が・・・ガンガン鳴り響いている・・・。


「貴方と繋がった後に、それが何か分かったの。そしてそれが、私が「女王」と呼ばれる由来。」


ルアーフが、また俺を抱きしめる。

体が小刻みに震える・・・・・・。

耳元で・・・ルアーフが呟いた・・・。


「私の「能力」は・・・・・・「人外を産む能力」・・・だよ❤」


俺は、ルアーフから離れ・・・その場に倒れた・・・。

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