それは、信じたくない現実
俺は一体・・・・・・何を見ているんだ・・・。
血を流している同期を・・・・・・ピクリとも動かない同期の頭を掴んでいるミーユを・・・・・・どんどん溜まっていく血だまりを・・・・・・。
「っく!?・・・はぁっ!??」
急な眩暈に襲われた・・・。
脳がこの現状を、今見ている事を、整理しきれていない・・・。
できるはずが無かった・・・・・・。
「その「人間」はもう死んでるよ。こっちも。」
目の前がぐらつく俺のすぐ傍に、手に掴んでいた同期を投げ飛ばした。
ドサッ・・・、と、まるでゴミの様に投げ捨てられた・・・。
ぐったりとして、動かない同期を見て、胃液が逆流するのを感じた・・・。
手で口を押さえながら、何とか吐きそうになるのを押し止めた・・・。
「っはぁ・・・はぁ・・・!!何でだミーユ!?一体、何がどうなってこんな事を!!?」
「私達「人外」のため・・・そして、お前の為だよ・・・誓。」
答えたのはミーユではなく・・・、反対側の通路にいつの間にか立っていた、クシィだった・・・。
いつもの乱暴な言葉や素行をしては、フィアに注意を受けているクシィのはずなのに・・・凛とした顔立ちに、何かを成し遂げようとする意志の籠った目をしていた・・・。
「クシィ・・・!!どういう意味だ・・・俺の為って・・・」
「それは私達に付いて来たら教えてやる。・・・まぁ、嫌だと言っても無理矢理連れて行くけどな。私達は元々、その為に来たんだから。」
訳が分からない・・・クシィが話す内容の全てが理解できない・・・。
連れて行くって、一体何処にだ・・・・・・。
・・・それに、「来た」って・・・・・・わざと捕まったみたいな言い方は、どういう事だ・・・。
「いっぱい来た。」
ミーユのその言葉で周りを見渡すと、通路の向こう側から走って来る大勢の部隊員・・・。
ミーユの後ろにも、クシィの後ろにも、そして、俺の後ろや前にも、基地内に残っていた部隊員がミーユ達に銃を向けている。
一瞬にして、完全に包囲された。
更に、鉄でできた防壁が作動し、通路を塞いだ。
逃げ道は、何処にも無い・・・・・・。
脱走しただけでなく、「人間」を殺した・・・・・・その証拠が、俺の目の前にある・・・。
このままでは間違いなく、この場で二人は殺されてしまう・・・。
今この場には居ないフィアも、見つけ出されて殺されてしまう・・・。
俺がそう考えているのなら、周りにいる部隊員達は、間違いなく「殺す」と考えているだろう・・・・・・。
じゃあミーユは・・・クシィは・・・・・・何を考えて・・・・・・。
「ははは!!あっははははは!!!」
笑っていた・・・。
取り囲まれて、逃げ道をなくしているのに・・・。
「・・・。」
ボーっと立ち尽くしていた・・・。
沢山の銃口が、自分たちに向けられているのに・・・。
「ミーユ・・・クシィ・・・。」
二人の名前を呟いた瞬間・・・・・・数えきれない程の弾丸が飛び交った・・・。
俺は身を低くして、耳を塞いでいた。
目を固く閉じ、耳を塞いでいても聞こえてくる銃撃音が止むのを待った・・・。
時間にして約一分・・・撃ち尽くしたのか、銃撃音が止んだ・・・・・・。
目を開けた時・・・目に移る二人の事を想像すると、心が痛む・・・。
何もできない自分を・・・・・・心底、憎む・・・。
ゆっくりと、目を開く・・・・・・。
「・・・・・・え」
小さく、そんな声が漏れた・・・。
目にしたのは・・・驚き、後退る部隊員達・・・。
・・・そして、無傷で立ち尽くす・・・・・・ミーユとクシィだった・・・。
血どころか、掠り傷一つ付いていない・・・言葉通りの「無傷」。
あれだけ撃っていたのに、・・・それにこの距離・・・一発も当たっていないわけが無い・・・。
見ると、通路には無数の空薬莢が落ちている・・・。
・・・立ち尽くすクシィの足元には、潰れた銃弾・・・・・・。
「無意味。」
ミーユが握っていた掌を開くと、そこから形を変えた銃弾がポロポロと床に落ちて行った・・・。
目を閉じていた俺にも、その異常さが分かる・・・。
この場の誰かが言った・・・・・・「人外」・・・と。
「そうさ、今更何言ってんだ?お前らが相手にしてるのは「人外」だ。「人間」ごときじゃ私達には勝てない・・・そんな事も知らなかったのかよ?」
「想像以上に無知。」
「確かにそうだな。なら良い事教えてやる。本当に「人外」の事を害だと嫌うなら、もっと良く調べとくんだな。こうならない為にも。・・・・・・まぁ、知ったところで意味無いけどな・・・」
クシィが後ろを向いて、更に後退る部隊員に言い放つ。
「・・・「人間」は全員・・・排除するからな。」
刹那、クシィの一番近くに居た部隊員の一人が、首から血を吹き出しながら倒れた・・・。
クシィの肘から生えている棘には、血が滴っている・・・。
悲鳴を上げ、逃げようとする部隊員を一人、また一人と切り裂いていく・・・。
おぞましいその光景を見ていた俺の後ろで、別の悲鳴が聞こえた・・・。
悲鳴に驚いて振り返ると・・・・・・ミーユが部隊員を殴り、その体に風穴を開けていた・・・・・・。
腕が吹き飛び、首と胴体が離れている者もいる・・・・・・。
泣き叫びながら逃げようとする部隊員達・・・・・・だが、通路は塞がれている・・・。
・・・・・・逃げ道を無くしたのは・・・「人間」の方だった・・・。
そう気づいた時には・・・この場で生きている「人間」は、もう俺一人だけだった・・・・・・。
「誓。」
返り血を浴び、顔も手も・・・全身が赤く染まったミーユが俺に近づいて来た。
俺は動けない・・・。
目の前でミーユが・・・クシィが・・・「人間」を殺した・・・。
害など無いと、皆にいつか伝えたいと思っていた・・・それなのに、たった今、目の前で・・・・・・。
後ろに、気配を感じた。
ゆっくりと、その気配の主を目にする・・・。
「なぁ、誓・・・」
「・・・・・・クシィ・・・どうして・・・」
俺を見下ろすクシィもまた、血に染まっていた・・・。
見た事を信じたく無くて・・・・・・動かない皆を見たく無くて・・・・・・この現実から、目を背けたくて・・・・・・クシィに、問いかけた・・・。
「前に言ってた答え、今、伝える。」
前に、言ってた・・・?
「一緒に居て楽しいかって・・・。」
「・・・・・・クシィ・・・」
しゃがみ込み、俺に顔を突き出すクシィ。
鉄格子の向こうに居た時には、あり得なかった距離に、クシィの顔がある。
そして・・・、
「楽しいよ・・・私達は、誓の事が・・・大好きだからな。」
血を帯びた笑顔で・・・・・・そう、答えた。
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