それは、「人外」の話

「人外」には、全てにおいて頂点に居座る「女王」という存在がいる。

「女王」の命令は絶対であり、「人外」はそれに従うのが普通の事。

「人間」が「人外」を害だと嫌う反面、「人外」も、「人間」の事を嫌悪している。

その中でも「女王」は、特にその嫌悪さは随一で、「人間」を残らず「排除」すると宣言したのも、「女王」の意志だった。

簡単な事だった。

「人外」からすれば、「人間」なんて取るに足らない存在。

「人間」は「人外」の事をただの異形だと思っている様だが、その認識が命取りになるとも知らず。

さっそく行動を起こそうとした時、「女王」が言った。


あの人だけは、生きて連れ帰りなさい。


「あの人」が誰の事なのかはすぐに理解できた。

「女王」が口癖の様に呟く「人間」の名前。

会いたいと願っている「人間」の男。

その「人間」だけは、他とは違うと、長らく教えられてきた。

いつしか私達も、会ってみたいと・・・そう思う様になっていた・・・。

だから、初めて出会った時から感じているこの人の優しさは・・・・・・一生忘れることは無い・・・。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「・・・「女王」・・・だって・・・?」


そんな存在がいるのかと、話を聞き終えてからも、驚きを隠せない。


「そうです。だから私達三人は、わざと基地の周辺で捕まって、内部に残っている「人間」を「排除」してから、誓さんを連れ帰ろうとしていたんです。・・・誰かさんが暴走して、予定よりも早くなっちゃいましたけどね。」

「しょーがないだろ!誓が目の前で撃たれたんだぞ!?あの「人間」はいち早く殺すべきだったんだ!!」

「結果オーライ。」


「人間」の「人外」に対する無知さがこんな事を招くなんて・・・・・・気づいた時には、もう遅かった・・・。

完全に、相手の思う壺だった・・・。

・・・だが、まだ分からない・・・。

何でその「女王」というのが・・・俺を・・・。


「・・・・・・何で・・・俺を、連れ帰るんだ・・・」

「それは、「女王」本人から聞いてください。私が話せるのはここまでです。行きましょう、誓さん。私達の住む場所に。」


俺の手を取ったフィアは、肩の翼を大きく広げた。

日の光が反射して、輝いている・・・。

このまま、飛び立とうというのか・・・・・・。


「・・・!?フィア、「人外」の住むその場所には・・・部隊員達が向かっていたはずだ!!・・・皆は、どうした・・・・・・。」


そうだ、と、思い出したかの様にフィアに告げる。

もう何か月も前から、かなりの数の部隊員がそこに攻め入っているはずだ。

俺も、あと数日後にはそこに向かわせられるはずだった・・・。


「あぁ、それなら全員「排除」しましたよ。・・・一人残らず。」

「!!?・・・なんだ・・・って・・・」


悪い予感が的中した・・・。

まさかと思ったが・・・あの数を・・・。

・・・いや、待て・・・ならおかしいぞ。

つい最近まで、向こうから通信が入っていたんだぞ・・・。

それで基地内に残っている部隊員隊を向かわせていたんだ・・・。

・・・あの通信は・・・誰が・・・。


「嘘を、吐いているんだろ、フィア・・・。」

「?私は誓さんに嘘なんて吐きませんよ。」


フィアは顔に出やすい・・・・・・そう言ったのは俺だ。

今のフィアは、嘘を吐いている様な顔には見えなかった・・・。

困惑する俺を見て何か勘づいたのか、フィアが話してきた。


「気になっているんですか、誓さん。どうして最近まで通信が入っていたのに・・・って。」

「!!?・・・あぁ。」


見透かされている・・・。

フィアは俺に、ある事を教えてくれた。


「ねぇ誓さん、私達「人外」は、皆それぞれある「能力」を持っているんです。」

「・・・「能力」?」

「はい。私の場合は、この翼を伸縮自在にできる・・・といった能力です。」


そう言って、肩から生えている翼を言った通りに大きくしたり、見慣れていた小ささにしたりして見せた。


「因みに私は、体の硬化が自慢だ!」

「私は、怪力。」


横から胸を張るクシィと、拳を握るミーユがアピールしてくる。

だからか、弾丸が聞かなかったのも、簡単に防壁を粉砕したのも・・・。


「そして中には、声帯を変化する事のできる「能力」を持った「人外」も居るんですよ。」

「・・・それ、じゃあ・・・」

「はい。考えている通りですよ。」


あの通信は全部、向こうに来させるための・・・・・・。

こっちから死にに向かっているみたいなものじゃないか・・・。

もしかしたら、まだ生き残りが居て・・・何て考えは、脆く崩れ去った・・・・・・。


「そろそろ本当に行きましょう。「女王」が、首を長くして待ってますよ。」


掴んでいた俺の手を離し、背中に回り込んで俺を抱きしめるフィア。

フィアが翼を羽ばたかせると、俺の足は地面から離れていた。

そのままどんどん高度が上がっていく・・・。


「それじゃあ先に戻ってるね。後の事はお願い。」

「分かってるって!」

「了解。」


残ったクシィとミーユが返事を返す。

更に、他の「人外」達は基地内に侵入していった・・・。

・・・まだ、残っている基地内の「人間」を殺すつもりだと、分かった・・・。

それを止める事ができないまま・・・俺はフィアに抱かれ、煙の上がる基地から空へと離された・・・。

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