それは、悪夢の始まり

鉄格子が並んだ薄暗い部屋に、銃声が響き渡る。

弾丸を発射した銃口からは、小さく煙が立ち上がっていた・・・。

血が、滴り落ちる・・・・・・。


「誓っ!!」


誰よりも早く、声を張り上げたのはミーユだった。

いつもボーっとして、何を考えているのか分からないミーユの大声を、初めて聞いた気がした・・・。

血が流れ出る腕を押さえる。

弾丸は腕を掠めただけで、致命傷にはなっていない。

だが、足に力が入らず、その場に膝まづいてしまう・・・。


「大丈夫だよ・・・掠っただけ・・・。三人は、大丈夫?」


鉄格子の柵を握りしめて俺の心配をする三人に大丈夫だと告げ、三人は無事かと確認する。

掠めていった弾丸は、壁にめり込んでいた。

三人の無事を確認した俺に、恐怖で震えていた同期の二人が近づいてきた。

「おい大丈夫か!!」、「お、俺はそんなつもりじゃ・・・すぐに治療室に連れて行くからな!!」・・・・・・二人の肩を借り、何とか立ち上がる。

部屋を出て行く際に見た三人の顔は、悲しみと絶望の混じったような表情だった・・・。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


治療室へ向かう際に、銃声を聞いて駆け付けた数名の部隊員とすれ違った。

血を流している俺を見て、「人外」に何かされたのかと聞かれたが、誤射だと伝えて三人の元へは向かわせない様にした。

そのまま治療室へと運んでもらい、手当てをしてもらう。

掠めただけだったが、無理に動かす事はしない様にと言われた。

あと数日後には、出動しなければいけないという事も添えられて・・・。

同期の二人は土下座する勢いで謝ってきたが、見かねてそれは止めさせた。

二人のした行動は最低な事だったが、俺が謝られるのは違うと思った。

できるのなら三人に謝りたかったが・・・・・・、言った所で、「人間」が「人外」に頭を下げる事なんてしないだろうと思って、二人にはそれ以上、何も言わなかった・・・。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


今日一日は安静にする様にと、上官に言われた。

同期のした事は話さなかったので、お咎めも無いだろう・・・。

自室へと戻った俺は、包帯で巻かれた腕を押さえながらまた、答えの出ない考えを繰り返す。


「はぁ・・・バレた・・・。今度、どんな顔して会えばいいんだ・・・・・・。」


状況は悪化していくばかりだ・・・。

まさかあんな形で三人にバレるとは思わなかった。

「人外」は「人間」の害だと教えられてきたであろう同期を責める事はできない・・・。

「人間」にとって、その考えが普通なんだから・・・。

逆に言えば、周りからすれば、俺がおかしいのかもしれない。

三人と居ると楽しいし、「人外」を害だと思っている「人間」の考えなんて分かるはずも無かった・・・。


「・・・けど、それでも・・・。」


それでも、俺はあの時に受けた「人外」の優しさを忘れない。

あの時の笑顔を忘れない。

あの時にした約束を、忘れない。

だからいつか、きっと・・・・・・。


「いつか「人間」に「人外」の事をちゃんと知ってもらいたい。」


懸け橋になりたいと、そう考えていた時の様に、決意を言葉にする。

腕に力が入りすぎて、ズキっと、痛みが走った・・・・・・。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「・・・うん、もう痛みはほとんどないな。」


一夜明けて、腕の痛みもほぼ無くなった。

無理はするなと言われたが、この程度なら大丈夫だろう。


「念の為に、一応具合を見てもらってから仕事に移るか・・・それから、三人の所へ行こう。」


正直、昨日はあのまま別れたきりだから、今日会うのは少し躊躇いがある。

何て説明すればいいのかもまだ明白では無いし、どう思われるのかも想像がつかない・・・・・・だが、そうも言ってられない。


「監視員として、どの道、顔を会わさないといけないしな・・・。」


うだうだするのは止め、頬を叩いて気合を入れ直す。

バレたのなら堂々としているしかない。

ドアを開けて、自室を出る。

・・・・・・瞬間、

ビーッ!!ビーッ!!ビーッ!!

基地内に警報が鳴り響いた。


「っ!?何だ!?」


鳴り響く警報の後に、アナウンスが流れる。

「基地内に捕虜として捕えていた「人外」が脱走!!部隊員は直ちに武装し・・・」

脱走・・・・・・その一言を聞いた時には、俺は走り出していた。


「はぁ、はぁ・・・!!まさか・・・そんな・・・!!」


ありえない、あの三人がそんな事をするなんて・・・。

信じたくないという気持ちと、何故そんな事をという気持ちが入り乱れる・・・。


「会って・・・話を・・・!!」


他の誰かが三人を見つける前に、俺が話をすれば、何とか・・・。

全力で三人を探す。

まだそう遠くへは行っていないはずだ・・・。

角を曲がろうとした・・・・・・その時。


「っっ!!?」


「何か」が、曲がり角から飛んできた。

曲がって来たんじゃない・・・勢いよく、飛んできた・・・。

走るのを止め、ゆっくりと、その「何か」に近づいて行く・・・。

赤い・・・・・・全身が赤い・・・・・・これは・・・血・・・?

「何か」の前でペタリと膝をつく・・・。

ありえない方向に腕や脚は曲がり、顔はほぼ原形を留めていなかったが、俺にはそれが何か分かった・・・・・・長い付き合いなんだから。


「嘘・・・・・・だろ・・・」


それは、あまりにも変わり果てた姿の・・・同期だった・・・。


「おい!!しっかりしろ!!おい!!」


声を掛けるが返事は無い・・・。

息があるのかも分からない・・・、只々、何が起きたのか理解できなくて、声を上げる事しかできなかった・・・。

誰か・・・誰か呼ぼうと、ピッチを手にした時・・・・・・同期の飛んできた方向から声がした・・・。


「誓、見つけた。」


顔を向けると、ミーユが立っていた・・・・・・手の中に、ぐったりとした、もう一人の同期の頭を掴みながら・・・・・・。

手にしていたピッチが、同期の流した血だまりに落ちた・・・・・・。

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