それは、最悪な事で

朝、目が覚めれば昨日の事は夢だったんじゃないかと言い聞かせ、現実逃避をしてはみたものの、そんなに都合のいい様にいく世の中な訳ではなく・・・。

机の上に置かれているその紙切れは、紛れもなく昨日の緊急招集の時に手渡された物・・・。

結局昨日は何も思い浮かばずに眠りに落ちてしまった。

今日三人に会った時に、なんて説明すればいいのか。

俺がここを出た後は、きっと他の監視員が三人の見張りに付く事になるはずだ。

今まで俺以外の「人間」がそんな事をするなんて事は無かったのに、急にそうなってしまったら、間違いなく怪しまれる・・・。

それをどうやって怪しまれずに説明するか・・・。


「・・・後、一週間の内に良い案が思い浮かぶかな・・・。」


不安な気持ちに駆られる中、食事を求めてお腹が鳴ったので、良い案はまた後で考える事にして取り合えず朝食を食べようと、自室を後にした・・・。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


朝食後、監視員としての仕事を始める。

何も三人の事を朝から晩まで見張るだけが俺に与えられた仕事じゃない。

他にも色々としなければいけない事があるので、いつもそれらを終えてから、三人の元へ向かう。

今日も順調に仕事をこなしながら、空いた時間に色々と考えてはみたものの・・・・・・、


「・・・全く浮かばない・・・。」


与えられた仕事をこなす事はできるが、どうも自分で考えて物事を進める事が苦手だ・・・。

よくそんな頭で監視員に何かなれたなと言われても、反論できない・・・。


「いくら考えても思い浮かばないなら仕方ない。・・・三人の所へ行こう・・・。」


もしかしたら明日以降にでも急に思いつくかもしれない・・・・・・、明日以降の自分に丸投げする事にした・・・。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


ミーユは相変わらずボーっとしているし、クシィは乱暴な言葉を怒鳴り散らして、それをフィアがプンスカと注意している。

この光景を当分の間見る事ができなくなると思うと、何処か寂しささえ覚える・・・。

そして同時に、これから向かう場所で行うであろう事に罪悪感を感じる・・・。


「誓、何かあった?」

「どうして?」

「悲しい顔、してる。」


分かりやすく表情に出ていたのか、ミーユにそう言われる。

いっその事、正直に話してしまおうかと、喉から出かけた言葉を飲み込み、無理矢理に笑顔を作る。


「ううん、何も無いよ!ただ、昨日の緊急招集が思ったよりも長引いて、まだちょっとだけ眠いだけだよ!」

「・・・そっか。」


そう言って誤魔化すと、ミーユはボーっと俺を見つめ続けていた。

フィアは喜怒哀楽が分かりやすいと言ったが、どうやら俺も似ている所があるようだ・・・。

心配を掛けない様に配慮して、いつもの様にお喋りをして、時間が過ぎて行った。


「じゃあ、今日はそろそろ戻るよ。また明日ね。」

「また、明日。」

「まだ良いじゃん!もうちょっと居ろよ!」

「クシィ!ごめんなさい誓さん、また明日!」


全く違う反応をする三人を見て苦笑いをする。

手を振りながらドアの方へ歩いて行く・・・・・・と、ドアが勝手に開いた。

ドアの向こうから、二人の監視員が入ってきた。

顔馴染み、同じ時期にここへ来たいわゆる同期ってやつだ。

二人を見たミーユとフィアは、さっきまでとはまるで別人の様に無表情になり、一言も話さずに黙っていた。

クシィは、鋭い眼光で二人を睨みつけていた。

そして、同期の二人は、そんな三人が見えていないかのように俺に話しかけてきた。


「分かったから、此処じゃ無くてもいいだろ?」


流石にこんな所で話すわけにもいかない・・・何より、三人の前で居心地が悪くなってしまう・・・。

そう思って此処から出る様に言った時、一人が聞いてきた。

「出発の準備はもう済んだのか?」・・・・・・と。

俺はそいつの口を塞ぐよりも先に、三人の方を振り向いた。

今まで見た事のない様な表情で、俺を見ていた。

何の話だ・・・と。

どういう事だ・・・と。

言葉にしなくても、そう訴えかけてくるのが分かった・・・。

・・・・・・最悪は、それだけじゃ無かった。

三人の反応を面白がってか、声のボリュームを上げて、もう一人が言った。

「楽しみだよなぁ!「人外」の住処に攻め込むの!」・・・・・・と。

これ以上何も言わせないために、二人の胸倉を掴もうとした。

・・・・・・その手は、二人の上げた小さな悲鳴によって止められた。

俺の後ろを見ながら、顔が恐怖に歪んでいくのが分かる・・・。

手足が震え、立っているのがやっとの様に見える・・・。

俺の後ろ・・・三人の方を振り向いた・・・。


「っっ!?」


「人間」じゃなかった・・・・・・。

そこに居たのは、紛れも無く、「人間」ではない・・・・・・「人外」の形相をした三人だった・・・・・・。

その眼光だけで、殺されるのではないかと思わせる程に、深く突き刺さる様な眼をしていた・・・・・・。

動けずにいた俺の横で、一人が声を上げながら、腰に掛けていた銃を抜いた・・・。

そして、その銃口を・・・・・・鉄格子の向こう側に居る三人に向けた・・・。


「やめろっ!!」


叫び、三人を庇うように銃口の前に飛び出した俺に向かって・・・・・・引き金が引かれた・・・・・・。

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