それは、神様が与えた

かなりの数の軍車両が出動して行くのが見えた。

「人間」の数で言うと数百名だろうか。

ここ連日、「人外」を制圧、捕虜にする為に出ていた部隊から、住処を発見したとの通信が入っていた。

だが、「人外」の数があまりにも多いため、こうやって何度も新たに部隊を向かわせていた。

それに対して上層部は頭を抱えているらしい。

もう向かわせるだけの人員が少ないのだと・・・。

聞いただけの噂話だが、最悪、ここに居る監視員を頭数として向かわせるだとか何とか・・・。

監視員と言っても、訓練は受けているのだから、いないよりかはマシだと考えているのか・・・。


「・・・嫌、だな。」


もしその話が本当になったのだとしても、俺は行く気になんてなれない・・・。

「人間」に対して何もしていない「人外」に、手を出したくはない・・・。

そんな事にだけはならない様にと願いながら、俺は今日も、三人の所に足を運ぶ。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


鉄格子を間に挟み、三人とお喋りをする。

初めの頃と比べると、随分打ち解けてくれたと思う。

会話が全く無かったわけじゃないけど、親しく話せる間柄でもなかった。

「人間」と「人外」という壁があるんだから、そうと言うば当然だ。

毎日毎日、必死に話題を作って話しかけた。

そっぽを向かれようが、返事が返ってこなかろうが、話しかけ続けた。

結果、俺の努力は報われて、こうやって名前で呼んでくれるようにまでなった。

その得た結果が、「人外」に対しての印象を更に変えてくれる。

話せば分かるんだと、しっかりと意思疎通をすれば、「人間」と変わらないんだと。


「誓さん、何だか嬉しそうですね。」

「えっ。そう、かな?」

「ニヤニヤして・・・・・・そんなに私達と居るのが楽しいか?」

「うん。楽しいよ、とっても。」


クシィは皮肉で言ったんだろうが、俺は本当に楽しいと思っていた。

だから、フィアに言われるまで気づかないぐらい、顔がにやけていたのかもしれない。

躊躇いもせずに言い放った俺に、クシィが顔を真っ赤にする。


「は、はぁ~~っ!!?ば、ばか!!何言ってんだよ!?良くそんな恥ずかしい事平然と言えるな!?」


照れ隠しなのか、大袈裟に反応して見せるクシィ。

そんなクシィを見ていると、少しだけいたずら心が芽生えてしまう。


「クシィ達は」

「あん?」

「クシィ達は俺と居て、楽しい?」


俺の問いかけに、口をパクパクとして更に首まで真っ赤にするクシィ。

我ながら何て恥ずかしい事を言ってしまったんだと思いもしたが、ここまで来たのなら、答えを聞きたくなった。

クシィが俯きがちに顔を伏せると、横に居たミーユが近づいてきて、俺に言った。


「私は楽しい。誓は、他の「人間」とは違う。一緒に居て、とても楽しい。」

「ミーユ・・・。」


反対側に居たフィアも、答えてくれる。


「わわ、私も!誓さんと居ると楽しいです!・・・正直、「人間」とこんな風にお喋りしたり、笑いあったりする事なんて・・・絶対、無理だと思っていましたから。」

「フィア・・・」


今まで生きてきて、こんな嬉しいと感じた事があっただろうか・・・。

そう思えるくらい、俺は嬉しさを隠せなかった。


「ありがとう、二人共。」


二人に礼を言って、クシィを見る。

未だに下を向いて、モジモジしている。

普段は乱暴な事ばかり言っているクシィも、こっちから仕掛けると、こんなにもしおらしくなるなんて・・・。

こんな事を言うと失礼だが、とても女の子らしく見えてきた。

・・・待てよ、クシィも俺よりは年上のはずだから・・・女性らしく?

・・・・・・まぁいいや。

どうしてもクシィの口からも答えを聞きたくて、再度話しかけようとした時、腰のベルトに引っ掛けてあるピッチに通信が入った。

緊急招集。

基地内の全員が集まる様にとの事だった。

俺は了解の返事を返すと立ち上がり、俺を見つめる三人に声を掛ける。


「ごめん、行かなきゃ。・・・クシィ。」

「ん?」

「答えは、またいつかで良いから聞かせてね。」

「・・・・・・分かったよ。」


まだ赤い顔のまま、渋々といった感じで返答をくれるクシィ。

俺はそのまま、部屋を出て行った。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


神様という者が存在するのなら、きっと、「人間」が「人外」を害だと思っている様に、「人間」の事を嫌っているのではないだろうか・・・・・・。

でなければ、こんなにも残酷な試練を与えるはずが無いのだから・・・・・・。


「・・・嘘だろ・・・。」


自室の明かりも点けず、月明かりだけが部屋を照らしている。

そんな薄暗い中、窓際に寄りかかり、手元にある一枚の紙を見る。

今日の緊急招集で渡されたその紙には、監視員数名および残りの部隊員は先に行った部隊との合流を指示する・・・と言った内容の物だった・・・。

噂から出た誠・・・どうしてこうなるのだろうか・・・。

更に最悪なのは、その数名に俺が選ばれてしまった事・・・。

出発は一週間後・・・。

行かなくてはならない・・・「人外」をこの手で、捕らえたりしないといけない・・・。


「・・・言わない方が、良いのかな・・・。」


ミーユ達にこの事は言わない・・・というよりは言えない。

三人は外で起きている事は知らない。

自分達の仲間が「人間」に攻められているなんて知ったら、死ぬほど悲しむに違いない・・・。

ましてやそれに俺が加わるなんて知れば・・・・・・。


「ここを離れている間、三人に顔を合わせられない・・・。」


勘ぐられないだろうか・・・。

考えても考えても、どうするべきなのか、答えは出てこなかった・・・。

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