ヒトならざる者、それは
toto-トゥトゥ-
それは、話とは違っていて
いつの頃からかは分からない。
この世には、「人間」とは違う・・・けれど、限りなく「人間」に近い存在・・・「人外」が存在していた。
見た目こそ「人間」とは変わりないが、髪が白く、額には猫の足跡の様な模様があり・・・そして何より、「人間」には無い、角や牙などが体から生えている。
それが「人外」・・・。
そして「人間」は、そんな「人外」を害だと嫌っていた。
何をしたわけでもない、誰が言い出したかもわからない・・・ただ、嫌っていた。
周りに言われ、幼い頃から俺もそう言い聞かされてきた。
「見かけたら逃げろ」、「大きくなったら一緒にボコボコにしてやろう」、「アイツらは存在してちゃいけないんだ」・・・口々に反吐を吐きまくる両親に周りの大人や、それに教わる子供達・・・。
実際に「人外」をこの目で見た事なんて無かった・・・。
せいぜい、大人が語る話で聞くぐらい。
だから思った・・・俺も、いつか普通にこんな事を口にできる「人間」になるのだろうか・・・と。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
十三になる頃に、俺は初めて「人外」を目にした。
友達数名と森に入って遊んでいた。
両親や大人達には、「人外」が出るから入っちゃいけないと言われていた森・・・。
そんな言いつけを守るはずの無い悪友達は、俺を連れてどんどん森の奥まで進んで行った・・・。
・・・・・・気づけば辺りは薄暗く、日の光もあまり当たらない様な場所まで来てしまっていた。
意気揚々としていた友達も、一言も話す事すらしなくなっていた。
流石にこれ以上進んだら迷子になってしまうと、元来た道を戻ろうと友達にそう言おうとした時、後ろに居た一人が叫んだ。
俺を含めた皆がその声に驚き、叫んだ友達を見た。
ガタガタと震え、目は一点に何かを見て涙を浮かべていた。
見つめるその先に視線を移すと・・・・・・薄暗くても視認できる程に、白い髪を揺らす影が立っていた・・・。
「・・・人外」
ポツリと呟いた俺の言葉を聞いた皆は一斉に走り去った。
叫びながら、転びながら、涙を流しながら、一目散に元来た道を走り逃げて行った・・・。
「あぁ・・・あっ・・・」
俺はただ一人、その場に残された。
走る事も、叫ぶ事もできなかった。
これが恐怖から来るものなのか、それとも、初めて「人外」を目にした事でなのかは分からなかった・・・。
ただ立ち尽くす俺に、「人外」は近づいて来た。
距離が縮まる事で、その姿がハッキリとしてくる。
白い髪に、額には模様、着物の様な服を着た、「人間」の女性にも見える、「人外」・・・。
俺の目の前まで来た「人外」は、手を俺に伸ばしてきた。
・・・俺の人生も、此処までなのかな・・・。
頭に「終わり」がよぎった時、極度の緊張と混乱に襲われ、俺は意識を失った・・・。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
目が覚めると、辺りは暗くなっていた。
横を向くと、焚火が火を揺らしていた。
「ここは・・・俺・・・」
起き上がって状況を整理しようとした時、後ろで声がした。
「起きた?」
驚いて振り向くと、あの「人外」が立っていた。
後退る様に尻を引きずって行くと、後頭部に痛みが走った。
手で押さえると、頭に包帯が巻かれている事に気づいた。
・・・まさか、この「人外」が?
頭を押さえる俺の前に屈みこんだ「人外」は、優しく語りかけてきた。
「倒れた時に、頭を石にぶつけた様だったから・・・大丈夫?」
「・・・えっ・・・あの、大丈夫・・・みたい・・・」
「そっか、なら良かった。」
聞いていた話よりも、全然違っていた。
怪我をした俺を手当てしてくれて、心配して声を掛けてくれた。
大人なら、このくらいの事で気を許さなかっただろう・・・けで、俺はまだまだ子供だ。
それだけで、「人外」へのイメージは変わっていた。
皆が言うほど、害なんかじゃないんじゃないか・・・と。
「もう日も落ちてきたし、暗い森の中は危ないから・・・今日はここで休んだ方が良いよ・・・。人外の私と一緒でも良いのならだけど・・・。」
「一緒で良いです。助けてくれたんですから。」
「・・・そっか。」
一瞬、驚いた顔をした「人外」の女性も、笑顔を向けてくれた。
それから日が明けるまで、「人間」の俺と「人外」の彼女で、色々な話をした。
と言っても、ほとんど俺の話を聞きたがっていたから俺の話を笑って聞いてくれていただけだったが。
でも、確かに俺はその時に思った。
「人間」が勝手に、「人外」を害だと思っているのではないかと・・・。
俺の話を聞く彼女の笑顔に、嘘偽りは無く見えたから。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「本当にありがとうございました。」
「ううん、私こそありがとう。楽しかった。」
日が明けた頃、俺達はすっかり仲良くなっていた。
不思議な気持ちだった。
あんなに周りから教えられていた「人外」への気持ちなんて、これっぽっちも残っていなかった。
「この道を行けば、帰れるよ。」
「はい・・・。あの!」
「うん?何?」
目線を合わせてくれる彼女に、俺は言った。
「俺、人外はそんなに悪い存在じゃないって、皆にも教えます!だから、またいつか一緒にお喋りしましょう!」
「・・・うん!絶対にね!」
二人で約束を交わした。
後ろで声がした。
振り返ると、両親や大人達と、昨日一緒に居た友達が俺の元へ駆けて来た。
また前に振り向いた時には、彼女は居なくなっていた・・・。
「大丈夫だったか!?」、「置いて行ったりしてごめん!!」、「何もされなかったか!?」、口々に俺を心配してくれる両親や友達。
俺は昨日あった事を話そうと思った・・・・・・しかし。
「探し出して息の根を止めよう!!」、「そうだ!!」、「やはり害だ!!」・・・・・・そんな事を叫ぶ皆を見て、俺は話すのを止めた。
俺のせいで、あんなに優しい彼女を殺させるわけにはいかない・・・。
皆、勘違いしている・・・・・・本当は何も、「人外」は害なんかじゃ無い・・・。
伝えたいのに、できない。
もどかしさに胸を締め付けられて、俺は、彼女が立っていた場所を見つめる事しかできなかった・・・・・・。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
あれから五年が経った。
俺は国の私有する基地で、監視員として職務を全うしていた。
年月が流れるにつれて、「人間」の「人外」に対する害の感情は大きなっていた。
今では、「人外」を捕らえて実験台にするべく、部隊を出動させている真っ只中・・・。
皆、「人外」の命を、何とも思ってはいない・・・。
それを横目に見る事しか出来ないでいる・・・無力だ。
「人間」と「人外」の懸け橋になりたいと、そう思っていた時期もあった。
けれど、やはり俺には何もできない・・・。
・・・いや、一つだけ、あると言えるのか・・・。
鍵を開けて、中へと入って行く。
薄暗い部屋の中・・・、いくつもの鉄格子が並んでいる。
ピタリと足を止めて、一つの鉄格子の方を向く。
「誓(せい)・・・。」
俺の名前を呼ぶ声が、鉄格子の向こうから聞こえる。
白い髪に、額には模様、そして、体の一部分からは角や棘を生やした存在が三人、俺を見つめていた。
「調子はどう?」
俺は笑顔で優しく、そう返した。
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