第518話 終話

[まえがき]

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

最後までよろしくお願いします。

毎度のことながら、あとがきが長いので最終話の字数は多めです。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 街道を駆けてくるアスカとめでたく再会できた。俺からすれば、単純に自分の家に帰っていただけだが、アスカからすれば、俺がどこにいるのかもわからなかっただろうし、随分心配かけたに違いない。


 しかし、俺がこんなところにいるとよく分かったものだと感心していたら、


「マスターが元の世界に戻ってしまった可能性が高いと思っていました。ですが、マスターにいただいた指輪が北西の方向に向いたときわずかに光ることに気づいたので、もしやと思い駆けてきました」


 そういえば、『魔界ゲート』を最初に見た時、アスカが『俺が元の世界に戻らないよう全力でゲートを壊す』とか言ってたものな。やはり、ずいぶん心配かけてしまったんだ。


 俺もその指輪の片割れを着けているけど指輪が光ることなんて全然気づかなかった。


「指輪の発光自体は非常に弱い物でしたから、真っ暗闇の中でもなければ識別は難しいでしょう」


「でも、アスカには識別できたわけだ」


「方向しか分かりませんでしたから、一種の賭けでした」


「俺に好都合な賭けなら、たいてい勝つようになってるんだ」


「そのようです。みんなも心配していますから、マーサの通信機で屋敷に連絡しておきます」


「そうだな。

 それじゃあ、連絡が終わったら急いで帰ろう」


「はい!」



 そのあと、アスカと屋敷まで風を感じながら久しぶりに高速走行をした。いままで以上に体が軽く気持ちよく走れる。


 ダッダッダッダ、ダッダッダッダ。


 ダッダッダッダ、ダッダッダッダ。


 二人の足音が重なって街道に響いた。


 ダッダッダッダ、ダッダッダッダ。






『魔界ゲート』が閉じてもう何十年にもなる。俺はアスカと好きなことをして過ごすことができた。


 マーサたちソルネ人とアデレート王国の技術者たちのおかげで、アデレート王国を中心としてこの大陸で近代化が急速に進んでいった。その中心はやはり鉄道網と通信網だろう。その結果、この世界は俺から見て中世と近現代が混交こんこうした不思議な世界となってしまったのだが、住んでいる人たちから見れば、一様に明日への希望に満ちたモダーンな世界といえると思う。



 むかし、俺とアスカがひょんなことで見つけた油田には採油ポンプが林立して、近くには精製工場までできている。まだまだ石油は採掘可能だそうだし、他にも北の砂漠地帯や西の砂漠地帯に油田が見つかっている。いまのところ、石油は燃料としてより、化学原材料としての利用が多いそうだ。



 ラッティーはセントラル大学を卒業したあと国に帰って数年後、アトレア王国女王リリム一世として即位した。そしたら、知らぬ間に俺は名目だけだがアトレア王国の公爵になっていた。


 ラッティーの帰国に合わせ、大学教育を受けさせたエルザたち六名のうち四名が、セントラル大学を卒業したあとアトレアにおもきラッティーの補佐としてアトレア王国の官僚となった。残り二人はアデレード王国の官僚になった。


 六人は、付属校在学中に孤児奴隷から解放している。


 もちろん、鉄道もキルンまでの鉄道敷設が完了した後引きつづきアトレアに向けて鉄道を伸ばしていったため、ラッティーが即位して五年後には単線ではあるが全線開通した。




 シャーリーを始めみんな結婚もせずに孤児奴隷を買ってその子を養子として育てている。ちなみにシャーリーの今の正式氏名は、シャーリー・エンダー・コダマ伯爵だ。俺が隠居した後コダマ家の当主だったが、今はシャーリーも隠居してシャーリーの養子がコダマ家の当主となっている。俺が死んだ後、シャーリーは伯爵から侯爵に陞爵しょうしゃくする。


 シャーリーは俺とそんなに歳が離れているわけではないのだが、いまのシャーリーの見た目は四十代前半だ。おばさんでは失礼なのでレディだ。



 フレデリカ姉さんの見た目はいつまでたっても二十代。全然変わらない。そうすると、フレデリカ姉さんの師匠のアルマさんは一体いくつなのか見当もつかない。



 リリアナ殿下は十八歳で王位に就いた後、未婚のまま三十年ほどの在位で、異母姉のマリア殿下の長子に王位を譲り引退してしまった。異母弟には継がせたくなかったようだ。陛下の在位中、短い間だったが俺も宰相にされてしまった。宰相の職務のほとんどをアスカに丸投げしていたので、無難に務めを果たせたと思う。


 リリアナ陛下は退位後、トンネル東口に新しく建てたうちの屋敷の隣に小さな館を建てて、結局うちの屋敷と繋げてしまった。陛下の唯一のペット、白ちゃんは長生きで、新しい陛下の館の専用温室の中で二十年ほど生きていたそうだ。俺が一度だけ陛下の館の落成式で温室に案内された時は十メートルほどの大蛇だった。怖くてそれ以来一度も見ていない。そのリリアナ陛下はシャーリーと同い年だったはずだが数年前に亡くなった。



 セントラル港は俺が主体となって浚渫しゅんせつを進め、大型船も着岸できるようになり荷役にやくが格段に楽になった。その結果、海運業も盛んになった。



 王都セントラルの人口が百万を超えたあたりから、王都周辺に家屋が増えるようになり、王都を囲む外壁が取り払われた。実際は宰相だった当時の俺がぱらったわけだが、今では外壁のあった内側を旧王都、その外側を新市街、全部合わせてグレーター・セントラルと呼んでいる。



 冒険者学校のある露天掘り跡地は、東側まで王都側から造成が進められて、今では大アリたちの住む西側だけを残した形になっている。鉄道トンネルも露天になった。造成で余った土石はセントラル港南側の埋め立てに使った。


 冒険者学校の校舎も大きく立派な建物に生まれ変わっており、ペラ自身は校長ではあるものの今も現役で新人冒険者たちの訓練を自分の教え子だった教官たちと一緒に行なっている。



 ブラッキーとホワイティーはそれぞれ相手を見つけて巣立っていったのだが、数年に一度家族を連れてうちに遊びに来ていた。あるとき、だんだん家族が増えてきたが、狩場が狭くなって困っていると相談された。


 そこで、マーサの宇宙船ソルネ4を設置した階層の下に新しくフィールド型ダンジョンを作ってやりそこに住まわせることにした。俺が何日も通って魔素をコアに注ぎ込んだので、かなり広大なフィールド型ダンジョンができ上った。


 今では一族郎党そろって、そのフィールドに引っ越している。そのなかで数匹がつがいになるグリフォンを探すため大陸中を飛び回っている。



 俺自身は、コダマ家のことをシャーリーたちに任せておくことができ、おかげさまで政界?引退後、安心してアスカとそれこそこの惑星中を飛び回っていろいろな冒険をすることができた。大いに満足している。


 これまで『万能薬』のおかげで一切病気もせず、いわゆる健康寿命を寿命いっぱいまで伸ばすことができたのだが、一月ほど前から、急に体力が衰えたきた。


 自分で自分を鑑定したところ、諸々もろもろのステータスが一般人以下になっていた。そして、数日前から自分の最期の時がすぐそこまで迫ってきていることがなぜかはっきり分かるようになった。


 収納庫の中のものは専用の倉庫を作ってそちらに数年前に移しているので、今収納庫の中にはほとんど何も入っていない。エンシャントドラゴンの血などは、専用の巨大冷凍庫をソルネの連中に作ってもらった。俺が逝ってしまっても収納庫の中のものがあふれ出て迷惑になることはないだろう。





 最期の日。


 朝のうちに屋敷のみんなとは最期のお別れは済ませている。いま部屋の中にいるのはベッドに横になった俺と隣に立つアスカの二人だけだ。


 アスカは薬指に指輪をめた俺の左手を両手で握ってくれている。俺の指輪がアスカの左手の薬指に嵌った指輪に触れているのが分かる。


 心残りは特にない。最期にアスカに看取られてける。俺は最期まで幸せな男だ。


『魔界ゲート』を最初に見た時、アスカが『マスターが元の世界に戻らないためにも全力でこの門を破壊します』と言ってくれた。最期の時を悟ってからあの言葉を何度も思い出した。


 元の世界に戻るわけではないが、こればかりはどうしようもない。


 く前にこれだけはアスカに言っておかないと。


「俺はこの世界で生まれたわけじゃないけど、この世界で幸せに暮らせたのは全部アスカがいてくれたおかげだ。アスカ、今までありがとう。これからは自由に生きてくれていいんだからな」


「マスターのおかげで、わたしは人の気持ちを理解できるようになりました。私の願いは、マスターにいつまでも元気に生きてもらって一緒にいて欲しい。ただそれだけでした。こちらこそありがとうございます。それと、マスターとの約束ですから、ちゃんとコダマ家の面倒は見ていきます。安心してください」


「ありがとう。

 最期に一つ、もう俺に合わせて老け顔を作らなくていいから、最初の時の十八歳くらいの顔に戻ってくれるかい? それで俺に笑って見せてくれるか?」


「はい、……。

 これでいいですか?」


「そう、その顔だ。ありがとう。でもそれじゃあ泣き顔じゃないか?」


「これは、笑い顔です。まだ泣いていません。私が泣くのはマスターと別れる時だけです。……。

 マスター! ……」



 さようなら、アスカ。





ショウタ・コダマ、享年きょうねん九十四歳。

 アデレート王国、侯爵。元宰相

 アトレア王国、公爵

 パルゴール帝国、名誉伯爵

 ルマーニ王国、名誉子爵、のちに名誉伯爵

 大陸冒険者ギルド名誉ギルドマスター

 アデレート王国商業ギルド名誉総裁

 アデレート王立セントラル大学名誉学長

 その他多数。


 その死に顔は四十くらいにしか見えなかった。うっすらとほほ笑んだ寝顔のままこの世を去る。




 アデレート王国、王都セントラルの王宮正門横にはショウタとアスカが並ぶ銅像が建てられている。こちらの像は計画ではアスカと二人で駆けているところを銅像にしたいという王宮からの希望があったが、形が難しいため、二人が無難にならんで立っている像となった。


 南の経済大国アトレア王国にも銅像が建てられている。こちらの像はショウタとアスカ、並んだ二人の周りをたくさんの子どもたちが囲んでいる像だった。


 どちらの銅像も二人の左手の薬指には同じ指輪が彫り込まれていた。




(完)






[あとがき]

2021年5月25日

 あらためて最終話までお読みいただきありがとうございます。

 ブックマーク、☆、応援ハート、感想、誤字報告、レビュー、みなさんありがとうございました。

 適当に書き進んんだもののため、いただいた感想などから逆にアイディアをいただいたり、自分で失念していたものを思い出させていただいたりして最後まで書けました。ありがとうございます。


 この作品は、前作(「真・」の付かないなろうで掲載していた「巻き込まれ召喚」:大人の事情で削除済み)の終了時、決戦前の一年間をすっ飛ばしてかなり不評でしたので、端折った部分を追加し、エンディングを「ショウタ帰還」から「ショウタ帰還せず」に変更したものです。

 なろうには、『巻き込まれ召喚。 収納士って最強じゃね!?短編集』(これも大人の事情で削除済み)を出していますが、1話から6話が「ショウタ帰還」後のちょっとした小話になっています。


『真・巻き込まれ召喚。 収納士って最強じゃね!? IF』

https://kakuyomu.jp/works/16816700426217227360


に旧作のエンデイングと追加エピソードと共に収録しています。短編集の7話以降はこの「真・~」に収録しています。


 それと、フーですが、役目を果たし、ショウタの身代わりとなって現代日本に帰ってしまいました。中身空っぽの鎧姿でフラフラ出歩いているのかは分かりません。



 公開日が2020年3月14日、一年以上前でした。その時はこんなに長く続くとは思わず軽い気持ちで書き始めたのですが、結局百三十万字を越える謎の大作?となってしまいました。


 素人の作文なのでかなりいい加減な作品ですが、

 勇者召喚に巻き込まれて召喚された一介の男子高校生の精神的な成長。

 戦闘機械マキナドールが人と接していくことで、人間的になっていくところ。

 そして、定命の人間とほぼ不死ともいえるマキナドールのふれあいと別れ。

 この三つがなんとなく描けたかなと思っています。


 もちろんこの三つは今思いついた全くの後付けです。ワハハ。


 ツイッターで自作のテーマミュージックについて話題が流れていたので考えてみました。


最終話のテーマミュージックとして、作者が勝手にチョイスしました。

オープニング

『南風』 下川みくに

https://www.youtube.com/watch?v=qaCBBwUwHwI

エンディング

『それが、愛でしょう』 下川みくに

https://www.youtube.com/watch?v=DtNVerryoMM


全体のテーマはいろいろ考えましたが、バグパイプ音楽

勇敢なるスコットランド (Scotland The Brave )

https://www.youtube.com/watch?v=TxlvRxBlnj0




筆者の、その他の作品もよろしくお願いします。

https://kakuyomu.jp/users/wahaha7


2021年8月5日、完結、異世界ファンタジー『ASUCAの物語』

https://kakuyomu.jp/works/1177354054916821848

本作の前日譚になります。

内容はSF風ミリタリー系中編(全42話11万字)です。


異世界ファンタジー『魔術帝国、廃棄令嬢物語』

https://kakuyomu.jp/works/16817139556324470653

これも本作の前日譚になります。全7話、1万7千字の短編です。


本作500万PV達成、700万PV達成感謝SS、いまのところ5話。

『真・巻き込まれ召喚。 ショタアス探検隊』

https://kakuyomu.jp/works/16816700426623939160



2021年8月6日より投稿開始、少し真面目風異世界ファンタジー

『キーン・アービス -帝国の藩屏-』

https://kakuyomu.jp/works/1177354055157990850

魔術の天才キーン少年が成長していく物語です。(全333話92万字)


追記:

この物語に対して、

『ASUCAの物語』は8千年ほど前

『魔術帝国、廃棄令嬢物語』は4千年ほど前

『闇の眷属、俺。~』とその続編『常闇(とこやみ)の女神~』は2百年ほど前の話になります。




2021年7月27日

第488話 年末行事2、ドライゼン帝国金貨

https://kakuyomu.jp/works/1177354054894619240/episodes/16816452219755211355

ここで、アスカがドライゼン帝国と人類の行く末について言及していますが、『ASUCAの物語』に合わせて若干修正しています。

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真・巻き込まれ召喚。 収納士って最強じゃね!? 山口遊子 @wahaha7

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