第488話 年末行事2、ドライゼン帝国金貨


 ドラゴンの財宝から、枚数の多そうな金貨を取り出して、アスカの作ってくれた小箱の中に一枚ずつ入れることにしたのだが、かなり見た目が立派な金貨だったので、鑑定してみたところ、


「ドライゼン帝国金貨」

ドライゼン帝国の記念硬貨。純金。通貨価値は十ドライゼンに相当する。


 ということが分かった。


 柔らかい純金製の割に硬貨がそれほど傷んでいないのは、記念硬貨だけに最初の持ち主に大切に扱われていたのだろう。


 ドライゼン帝国がどこにある国なのか知らないが、同じ硬貨を何千枚もドラゴン一匹で集めていたところを見ると、相当数の記念硬貨が発行されたのだろうから、ドライゼン帝国はかなり大きな国なのだろう。


 その硬貨の表側には、頭の良さそうな感じの男の人の横顔が描かれていて、数個の記号が顔の下に小さく書かれていた。男の人の名まえかなにかなのだろう。裏に書かれていたのは記号だけで、十ドライゼンとか書いてあるのだと思う。



 俺が並べた小箱の中に、その金貨を入れていたら、アスカが俺の部屋にやってきた。


「マスターは、ビンゴの賞品を箱に詰めていたところでしたか」


「まあな。とりあえず空箱を作らないように、先に全部の箱の中に、ドラゴンの財宝ひかりものの中にあったこの金貨を一枚ずつ入れているところだ」


 そう言ってアスカにその金貨を見せてやったところ、急にアスカの感じが変わった。こういったことは今までになかったことなので俺も驚いてしまった。


「アスカ、どうかしたか?」


「はい。私はこの硬貨について知っていますし、描かれた男性は私の知っている人物です」


「えっ?」


「はい。この方は、私の生みの親の一人。当時ドライゼン帝国の皇帝、ニコラ・ドライゼンです」


「アスカの生みの親は、エンダーさんじゃなかったっけ?」


「マーガレット・エンダーはニコラ・ドライゼンの助手でした。二人とも天才でしたが、マーガレット・エンダーが今世紀最高の頭脳と呼ばれていたのに対して、ニコラ・ドライゼンは有史以来人類最高頭脳と自称していたようです。自称ですがマーガレット・エンダーを含め周囲もそれに異を唱える者はいなかったようです」


「そんな天才が何で皇帝に? まさか悪の天才科学者設定で世界征服しちゃったとか?」


「いえ、ニコラ・ドライゼンはもともとドライゼン帝国の皇帝の次男に生まれた非嫡子でした。帝位に全く興味がなかったようですが、めぐりあわせで皇帝になってしまったようです。

 帝位に就いたのちも、皇帝らしい仕事はせず、専らわたしの開発をマーガレット・エンダーと続け、その結果私が生み出されました。

 私が生れ、二年も経たずマーガレット・エンダーは敵国の策動による皇帝暗殺騒ぎに巻き込まれ、ニコラ・ドライゼンの身代わりになったような形で殺害されました。

 その数十年後ニコラ・ドライゼンが世界統一を果たしています。この硬貨は世界統一を記念して発行された硬貨です。ニコラ・ドライゼンはまぎれもない天才でしたが後継者を指名しないまま急逝してしまい、彼の没後、三十年ほどで帝国は分裂し、融合兵器の撃ち合いの末、世界は暗黒時代を迎え、文明は崩壊していきました」


「アスカはその帝国の最期については知らないのか?」


「ニコラ・ドライゼンの葬儀の後、私は帝都を去り人知れぬ秘境で過ごしていましたが、融合兵器の撃ち合いだけは目撃しました。その時点で帝国はおろか人類のほとんどは死滅したと思います。その後一時機能を停止して休眠していました。数百年後、再起動したときには、人類は絶滅から免れ、個体数も増加していましたが、文明は石器時代にまで退行していました。それから長い年月を経て人類文明は復興し、そこから以前では考えられない魔法文明を築きあげました。その期間私は傍観者ぼうかんしゃに徹していました」


「その魔法文明というのが今の文明なのか?」


「いえ、その魔法文明も発展を続けていき、無限に資源を生み出せるダンジョンと移動手段や娯楽のためのドラゴンが開発されました。

 魔法文明は栄華えいがを極めたのですが、ドラゴンが兵器として使用されるにおよび、その文明は滅びました。現在、ダンジョン産ではなく地上で生存している野生のドラゴンはこの時代のドラゴンの末裔になります。

 魔法文明時代のダンジョンには今のような敵性のモンスターなど出現しませんでしたが、魔法文明崩壊後、ダンジョン自身は独自の進化を遂げ、見境のない敵性モンスターが現れるようになりました。

 私はドラゴンを狩ってみたり、興味本位でダンジョンに潜ってそういったモンスターを狩ってみたりしていましたが、それも飽きてきたところで、深淵の迷宮に潜り、最深部でコアのガーディアンのまねごとを始めました。

 ですが数十年間、誰も最深部まで到達しなかったため、休眠状態に移行し最深部を攻略する者の出現を待っていたところ、マスターに撃破されてしまいました」


 そこで、俺と出会ったわけか。一体全体アスカは何歳なんだ? 二つの大文明の崩壊を見て、そして今が三つ目の文明だとすると、数千歳は超えていいるんじゃないか? 怖いから絶対に何歳なのか聞くことはできないな。


 アスカの過去をこれほど具体的に聞いたことは無かったのだが、やはり俺など考えの及ばないような歴史を持っていたようだ。だからと言ってそれはそれだけのことで、アスカはアスカ。俺のアスカであることには変わりない。



[あとがき]

ドライゼン帝国は『ASUCAの物語』https://kakuyomu.jp/works/1177354054916821848という超前日譚の設定になります。


出だしだけ、


 私がマスターに出会って、名前をアスカと名付けられた時には正直驚いた。いえ、運命を感じた。


 私が忘れかけていた名前、ASUCAと同じだったから。

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