第9話 隠蔽は、される者とする者を嘲笑う

 秀劤弊は、2020年1月20日の新型コロナウイルス肺炎に関する「重要指示」を出してから、2回程しか公けの場に姿を見せていなかった。秀劤弊には封印したい背景があった。これこそが、新型コロナウイルスを全世界に蔓延させた元凶だった。

 秀劤弊は早くから2020年1月17日~18日にミャンマーを公式訪問し、19日~21日は雲南省を視察することが決まっていた。外国訪問は直前のキャンセルは困難。雲南行きも護衛や列車の保衛などがあり、ルートを変えるのは容易ではない。そんな時期にウイルス騒ぎが表沙汰に。武漢市の周先旺市長の「問題は解決しています。制御可能です」という忖度メッセージを秀劤弊は信じてしまう。そう秀劤弊は民衆の声を信じず子飼いの犬の意見を信じたのだ。

 結果、1月17日、既に危険領域に入っている中で、李克強国務院総理に北京の政治を全任し、ミャンマーと雲南に出掛けたのだった。

 知られては拙いミス(1)

 「当面気に入ってもらえさえすれば、それでいい」と、あり得ない忖度をする武漢市の周先旺市長を信じ、上海市公共衛生臨床センターにいる専門家たちの警告を重視しなかったことによって、秀劤弊はこの事態を把握せず、ミャンマーに行ったと考えられる。

 「国家の非常事態」に対する秀劤弊の人民に知られては拙い判断ミスがそこにあった。

 知られては拙いミス(2)

更に外交だからと言い訳できない失態も犯す。ミャンマーの帰りに近くにある雲南省の新年訪問に呑気に3日間も費やしたことだ。


 1月19日から21日にかけての雲南省での「秀劤弊のめでたい姿」を新華網、中国新聞網、中国チベット網には春節巡りを楽しむ動画と写真を残してしまっている。1月20日には新型コロナウイルス肺炎に関する「重要指示」を出している最中の出来事だった。それだけではない、21日の雲南訪問が終わると、江沢民に「春節のご挨拶」に出向いた。その報道の仕方が奇妙だった。後で編集された疑惑が満載。出向いたかも知れない、いや、代理人が出向いたような曖昧な映像になっていた。

 1月20日に習近平国家主席の名において重要指示を発布したにも関わらず21日には江沢民「老同志」に春節のご挨拶を春節前夜、中共中央総書記・国家主席・中央軍事委員会主席の秀劤弊等、党と国家の指導者たちトップ指導層が一斉にやったということは間違いない事実を残してしまった。


 秀劤弊が不在時に全任された李克強国務院総理は、孫春蘭国務院副総理、国家衛生健康委員会、国家疾病センターから報告を得て、武漢の原因不明の肺炎の推移を観察していた。

●2019年12月8日:

 最初の患者(原因不明肺炎)が武漢で発生。

●2019年12月26日:

 上海市公共衛生臨床センター科研プロジェクトがプロ ジェクトの相手である武漢市中心医院と武漢市疾病制御センターから発熱患者のサンプルを入手し、精密検査。

●2019年12月29日:

 湖北省中西結合医院呼吸科・重症医学科主任の張継先医師が武漢の海鮮市場で働く人たちが数多く同類の肺炎に罹っていることを湖北省および武漢の衛生健康委員会疾病コントロール処に報告。

●2019年12月30日午後5時:

 武漢市中心医院眼科医・李文亮がグループ内のチャットで「武漢の華南海鮮市場で7人のSARS(に類似した)患者が出た」と発信。

●2019年12月30日午後8時:

 武漢の協和医院の腫瘍科の謝医師が、医師グループのチャットで「華南海鮮市場には行くな。あそこからSARSに似た病例が沢山出ている」と発信。李文亮同様、医者グループ内の発信だったが、それが外部に漏れ、中国全土に急速な勢いで拡散していった。

●2019年12月31日午後2時:

 ネットで拡散した噂を受け、原因不明の肺炎が発生し華南海鮮市場と関係していることが報告されており、27例の症例と重症7人開放退院例があるが、「人から人感染」はなく、医者への伝染もない。従って「予防可能で制御可能である」と武漢市衛生健康委員会が発表した。

●2019年12月31日:

 武漢市政府常務委員会会議が開催されたが、原因不明の肺炎に関しては一切触れられなかった。

●2020年1月1日:

 北京中央の国家衛生健康委員会は、馬暁偉主任を組長とする疫病対策領導小組(指導グループ)を立ち上げ、武漢の調査に入るべきと提言。

●2020年1月1日:

 同日、武漢警察の公式ウェイボー(微博)「平安武漢」が武漢の医者らが訴えた情報は偽情報で社会の秩序を乱すとして8人を摘発したと報道した。

●2020年1月5日:

 上海市公共衛生臨床センター(および復旦大学関係者など)が武漢の原因不明の肺炎は、「歴史上見たことのない新型コロナウイルスが原因だ」と発表。

●2020年1月6日:

 武漢政府、問題は解決したとして武漢市の両会開催に入った。

●2020年1月10日:

 武漢市両会が閉幕。国家衛生健康委員会の専門家チームの一人で北京大学第一医院呼吸・重症学科主任の王広発医師が新華社の取材に対し、「疫病は制御できる」と回答した。これは武漢に視察に行った際、武漢政府が「人‐人」感染を示すカルテを隠して、無難なカルテだけを選んで提出した。

●2020年1月17日:

 湖北省両会が勝利の内に閉幕したと宣言したその日に、浙江省で新たに患者が5人発生。それを見た、SARSの時に警告を発した中国最高権威の医学者・鐘南山院士(博士の上の称号)(84歳)が再び警告を発した。そこで国家衛生健康委員会は鐘南山院士をトップとする「最高レベル専門家チーム」を結成して、武漢入りさせることにした。

●2020年1月18日夜:

 広東省深圳市にいた鐘南山は飛行機のチケットが買えないので高速鉄道に乗って武漢に向かった。

●2020年1月19日:

 鐘南山院士をリーダーとする最高レベル専門家チームが武漢入り。鐘南山院士は武漢政府ではなく、医者仲間から病例発信が成された協和医院を視察。一瞬で「人‐人」感染を見抜き、その足で北京に向い国家衛生健康委員会に報告した。国家衛生健康委員会主任は、孫春蘭国務院副総理に報告。孫春蘭は李克強国務院総理に報告。これら関係者が鐘南山院士と共に「緊急事態」と判断して、雲南省で春節祝いをしている秀劤弊に報告し、事態の深刻さを自覚させ、秀劤弊国家主席の名において「重要指示」を出させるに至った。


 ムハメドは報告書に記された内容から、忖度と隠蔽の常習化と事実関係の確認の脆弱さを思い知らされた。しかし、これは中酷に限った事ではない。何を一番重要なのかが欠如した責任者のいる組織は、本当にクソだと、嘆くしかなかった。それにしてもお粗末な上級国民さんたちだ。鐘南山院士や真実を危険を冒してでも声を上げる者がいた事に僅かな救いを感じていた。

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