第13話 隠蔽は、相手の弱みを匠に利用する
エドワードは、ムハメドとやり取りを繰り返すうちに、自らが今回の出来事に強く興味を抱くようになっていることに興奮を隠しきれないでいた。地上勤務のエドワードにとって、不謹慎であることは十分に把握しているが「007シリーズ」のジェームスボンドになったような気持ちは抑えられないでいた。
ムハメドもエドワードと話す時間は、至極の時間となっていた。隔離され、他人と話すことのできる貴重さをまざまざと感じさせられたからだった。
エドワードにとっても、最新の情報をムハメドに差し入れ、その感想を語り合う時間は至極の時間になっていた。
中酷共産党中央委員会は湖北省党委員会書記(省のトップ)蒋超良氏の後任に秀劤弊国家主席の側近、応勇・上海市長を、武漢市党委員会書記(市のトップ)馬国強氏の後任に山東省済南市党委員会書記、王忠林氏を充てる人事を発表した。明らかな更迭人事だ。秀劤弊にとって、隠蔽出来る範疇が狭まれてきていた。
世界を巻き込むパンディミックの責任が自分に向くかが気掛かりで仕方がない。側近を配することで、内部からの不満を押さえ込むのに必死だった。しかし、側近を宛が得たことは、その失態が自らの失態となるまでは考えが及んでいないのも事実。自己保身が第一。力と金でねじ伏せる根回しはお手の物。反逆の綻びの火種は、粛清の名のもとに潰す。革命など起こるはずがないという自負があった。それこそが本質を欠いた主導者の実態だった。
感染の広がりの深刻さは、独断の範疇を遥かに超えていた。発生した地区、人民を火薬工場やガス管の大爆発を装って亡き者にしたい、それが本音だった。それが出来ないほど世界から視線が向けられていた。
こんなはずではなかった。親に歯向かう子を静めるため、お灸をすえる。苦しむ子に救世主のように手を差し伸べて、逆らうべき相手ではない、と分からせるだけの話だった。それが中酷の諜報員の人選ミスから、思いもしない展開に。天に向かって唾を吐く。まさに災いは自らを窮地に追い込んでいた。
隠ぺい出来る範疇を逸脱し、制御が出来なくなっていた。そんな中、新型コロナウイルスの死者や感染者の発表数が突然、急増した。世界からの疑惑を払拭するための言い訳、辻褄合わせだった。中酷は、上から目線、被害者意識で独自の基準から国際基準に近づけたものだと主張。メッキが剥がれれば、更にメッキを塗り直す、それが中酷共産党のお家芸だった。大胆な行動を、いや希薄な行動は、崩壊すれば解決策などない。今は人民の命より、国の面子の問題が最優先。経済の中心に君臨する自負を如何なる手段を用いても崩すわけにはいかない。そこで秀劤弊は、世界保健機関(WHO)のテドロス事務局長を呼びつけ、発症そのものが中酷ではないと告知するように迫った。そして、発表はされた新型コロナウイルスの病名は「Covid-19」。
世界保健機関(WHO)のテドロス・アダノム・ゲブレイェスス事務局長は、2020年2月11日、新型コロナウイルスの病名を公式に命名。新型コロナウイルス肺炎の流行を「非常に重大な脅威」と位置付け、国際社会に協力を呼び掛けた。
困惑したのは、先に研究を進めていた国際ウイルス分類委員会コロナウイルス研究グループだった。新型コロナウイルスそのものについて、今までの事例に倣ってSARSの姉妹種「SARS-CoV-2」と名付けいた。既に研究現場では新型コロナウイルスの配列データベースの共有が始まっており、混乱を招く恐れは否定できなかった。
通常、ウイルスの名前を付ける際、「主要症状」(呼吸器症状、神経症状、水様性下痢など)が示されていて、更に「重症度や季節性などの追加情報」(進行性、若年性、重症、冬型など)を含む。また、病原体が既知の場合には、ウイルス名なども加えることが推奨されていた、それに基づいた命名だった。
SARSは中酷を連想させる。だから「SARS-CoV-2」というウイルス名ではなく「Covid-19」という病名を普及させようとテドロス事務局長が働いた。中酷はSARSが流行した時に容赦なく叩かれた。WHOにも反省がある。しかし、それは自然発生の場合で、自然由来のも出ない疑いがあるものへの対応とは違う。
新型コロナウイルスが見つかるまで、人に感染することが知られているコロナウイルスは6種類しかなかった。その内、四つは軽度の風邪を起こますが、2002年以降、その四種類では説明できない動物ウイルスに由来する重度のSARSと中東呼吸器症候群(MERS)が出現した。説明しがたいウイルスの存在は認知されても、その発症源は永遠に闇の中に葬られる。叩く者も叩かれる者も双方の巨人の思惑の中にあるのは否定できない。
中酷の国家衛生健康委員会は14日、中酷国内で1716人の医療従事者が感染し、いち早く異変を医師仲間に知らせた武漢市の李文亮医師(34)ら6人が死亡していることを明かした。湖北省の医療従事者の感染は1502人にのぼり、「医師は兵士、病院は戦場」(人民日報)になっている実態を浮き彫りにした。中酷共産党の報道管制、情報統制が感染者と濃厚接触せざるを得ない医療従事者に感染を広げてしまったことは否定できない。
その教訓は、日本で建造され、停泊しているUK(英国国籍)のダイヤモンドプリンセスに活かされないでいた。その結果、艦内感染を拡大させた。情報の隠蔽により、後手後手に回った政府の対応は、医療関係者に広がり、乗船客にも広がり、食い止めるべきタイミングと処置を逃したことが悔やまれていた。
日本への非難は世界から容赦なく注がれた。事情も調べず、目に見える事実で他人を叩く。人間の醜い姿のひとつだ。嘆かわしいものだ。交通機関の発展により世界の距離感は狭まった。それによって、その国の法律、権限が及ばない場所も数多く生まれた。まさにダイヤモンドプリンセスはそれだった。UK(英国)の国籍を持つダイヤモンドプリンセスは、権限という観点から動かなければならないのは、UK(英国)であり、運航責任のある所有会社と大型客船が加盟する組織の危機管理の対応の甘さ脆弱さが露呈したものだった。
元世界保健機関(WHO)西太平洋地域事務局長の尾身茂・独立行政法人地域医療機能推進機構(JCHO)理事長は2月13日、日本記者クラブで行われた記者会見で尾身氏は以下のように述べている。
「エチオピア出身のテドロス氏は中国の武漢市や湖北省の初動の遅れが感染拡大を招いたのは明らかなのに「中国はよくやっている」と称賛を繰り返し、政治的に中立であるべきWHOの伝統と信頼を損ねています。2002~03年にSARS(重症急性呼吸器症候群)があった。それまで感染症は日本で言えば厚生労働省の管轄。SARSで香港などへの経済的なインパクトが強く、あれ以来、国際社会は厚労省の枠を超えて各国の首脳、外務大臣が同じことを繰り返すまいと強い関心を持つようになった。 2003年から2年半はSARSと同じことをいかに繰り返さないかという議論しかWHOでは行われなかった。国際保健規則が改正され、決まったことが一つある。どうも普段と違うような状況があれば病原体や原因が分からなくてもすぐにWHOを通じて国際社会に報告することだ。中酷もその議論に十分参加していた。SARSの時は中国政府の意図的な情報非公開が半年間にも及び、WHOが2003年4月に香港や広東省への旅行延期勧告を出した。それに比べると今回、中酷の秀劤弊国家主席の対応は早かった。中国が一生懸命、本気でやっているのは間違いない。しかし、中酷はSARSを起こした同じ国。国際保健規則を巡る議論を湖北省の衛生担当者が知らないということはあり得ない。昨年12月初旬から(原因不明の感染例の報告が)もっとあったはずだ。初動が遅れたということについて中国はSARSで反省をしているわけだから」
と、中酷を礼賛するWHOのテドロス・アダノム事務局長に苦言を呈した。
国際機関はすべてにおいて中立でなければならない。しかし、その運営には莫大な費用が掛かる。多額の資金援助ができる国に対して忖度が働く。この構造が変革されない以上、公的な発言の信用度は向上しない。地球規模で活動する企業から強制的に徴収する国際規約が急がれる。
隔離された部屋で関連する記事を目の当たりにし、ムハメドは世界を俯瞰で見る新たな境地に好奇心を注いでいた。
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