第12話 隠蔽は、怠れば苦渋を舐めるもの

 ムハメドは、社交的で憎めないキャラクターだった。毎朝、情報を記録したUSBを渡す内に、ふたりはすっかり打ち解けていた。熱心に新型コロナウイルスを把握しようとしているのを見て、ある資料を付帯知識として差し入れてくれた。それは今回の拡散するウイルスの概要のようなものだった。


 武漢市は、全国都市別人口の第8位での常住人口は1108万人。市街区から直線距離でわずか15キロ程の地に、エボラ出血熱のウイルスを含む自然免疫原性ウイルスや、その他新たに発見されたウイルスの研究を行う、中国科学院の「武漢国家生物安全実験室(National Biosafety Laboratory, Wuhan:武漢NBL」がある。人口1000万人超の大都市近郊に危険なウイルスを扱う研究施設を建設するということは通常では考えられない。

 新型コロナウイルスが蔓延した武漢市を封鎖。中酷国内の感染者は政府の隠蔽体質から考えて実際の感染者は10万人超え規模に達している可能性は否定できない。中酷国外でも感染者、死亡者が発生している。

 武漢肺炎を引き起こした新型コロナウイルスが発生した場所として疑われているのは、武漢市江漢区にある武漢華南海鮮卸売市場(「華南海鮮市場」)。ここで販売されていた“野味(野鳥や野獣を使った料理)”の食材である“タケネズミ(竹鼠)”、アナグマや蛇などが新型コロナウイルスを媒介して人に感染させたものとの見方は、いつものこと。信じるに値しない発表だ。

 そこで注目されたのが華南海鮮市場近くに有る武漢NBL。そこから誤って新型コロナウイルスと接触し感染した職員が、華南海鮮市場を訪れ、同市場関係者に接触したことにより、市場関係者が感染し、その人物を介在する形で新型コロナウイルスが人から人へと感染を拡大していったのではないか、という疑いが世界中でもたれている。推測の域を出ないが、前例が中酷にはある。

 2002年11月に中国で発生した「重症急性呼吸器症候群(SARS)」は、2003年7月に終結宣言が出されるまでの約9か月間、有効なワクチンも治療法もない感染症として世界中を恐怖に陥れた。しかし、2004年4月には、北京市や安徽省でSARSに類似した症状の患者が複数回発生したことがあった。その詳細は公表されていないが、中酷政府「衛生部」は2004年7月に「学生の規則違反によりSARSウイルスが実験室から流出したことが原因だった」との調査結果を異例な事に発表。この時、WHOへの圧力を掛けられないでいた。

 2003年7月にSARSの終結宣言が出された前後に、当時の武漢市長であった李憲生と中国科学院副院長の陳竺が、細菌やウイルスなどの微生物・病原体などを取り扱う実験室や施設の最高レベルであるバイオセーフティレベル4(biosafety level-4)「BSL-4」の「生物安全実験室」を建設する計画にゴーサインを出し、中国初のBSL-4実験室を持つウイルス研究施設を武漢市に建設することが決定された。

 2004年10月に訪中したフランスのシラク大統領は、武漢国家生物安全実験室(武漢NBL)と命名された研究施設の建設を支援する協議書に調印。しかし、フランスでは、懸念する声も上がったのも事実。それは、中酷がフランスの提供する技術を使って生物兵器を作るのではないかとの反対意見だ。国家情報部門も政府に対して警告を行っていた。その懸念が現実なものとなった。

 2017年2月23日、武漢市を訪問したフランス首相のベルナール・カズヌーヴが実験室の開所式に出席してテープカットを行い、2018年1月5日に国家認証を取得したことによって実験室は運営を開始する。

 世界の目は厳しかった。そのひとつが2017年2月23日付の英科学誌「ネイチャー(Nature)」の記事だ。開所式を控えた武漢NBLについて、SARSウイルスの流出事故や中酷の官僚主義的な隠蔽体質を理由として、武漢NBLが運用開始後に何らかの人的ミスにより毒性を持つウイルスがBSL-4実験室から流出して中酷社会、或いは世界にウイルス感染が蔓延し、大規模な混乱が引き起こされる可能性があると危険視していた。予測は的中したということになる。


 2019年に起きたウイルス・スパイ密輸事件


 2019年7月14日、カナダのメディアは「7月5日に中国出身の著名なウイルス学者である邱香果とその夫で研究者の成克定および中国人留学生1名が王立カナダ騎馬警察(カナダの国家警察)によって、規約違反の疑いで国立微生物研究所から連行された」と報じた。

 2018年12月1日に中酷企業「「華為技術(ファーウェイ)」の副会長で最高財務責任者(CFO)の孟晩舟は対イラン経済制裁違反の容疑で、米国の要請を受けたカナダ当局によって逮捕。孟晩舟に続く邱香果の逮捕は、カナダと中酷の外交関係に影響を及ぼすとメディアは大きく報じた。その内容は…。

 (a) 2019年3月31日、カナダの国立微生物研究所の科学者がカナダ航空会社「エア・カナダ」の航空機でエボラウイルス、ヘニパウイルスなどが入った貨物を秘密裏に中酷・北京市宛に送付した。

 (b)2019年5月24日、カナダ政府「保健省」から上記貨物に関する通報を受けたマニトバ州警察当局が、邱香果と夫の成克定に対し捜査を開始。

 (c)7月5日の連行を踏まえて、王立カナダ騎馬警察は国立微生物研究所の職員に対して、「邱香果夫婦は国立微生物研究所を一定期間離れて休暇を取る」と通告し、同僚たちに彼らと連絡を取らないように警告を与えた。一方、匿名の国立微生物研究所職員によれば、研究所は邱香果夫婦と中国人留学生1名に対し、BSL-4実験室への通行証を取り消した。これを受けいち早く、研究所のコンピューター技術者が事務室へ侵入し、証拠隠滅のため邱香果のコンピューターを交換。邱香果は定期的に訪問していた中国への旅行日程を取り消した。

 (d)この後、国立微生物研究所は邱香果夫婦を解雇。邱香果夫婦および中国人留学生1名が「連行」後にどうなったのかは何も報道がない。「逮捕」というのも一部のメディアが報じたものであり、実際に逮捕されているのか、取調べを受けているのかも不明。なお、定期的に訪中していた際に、邱香果が度々武漢国家生物安全実験室を訪問していたことは間違いのない事実である。


 王立カナダ騎馬警察が邱香果夫婦と中国人留学生1名を研究所から連行した表向きの容疑は「規約違反」。実際は感染力が強く、致死率の高いウイルスや病原体などを中国へ密輸した容疑であり、彼ら3人は中酷のためにスパイ行為を働いていたと考えられる。


 更にその後の展開も推察されていた。


 カナダから中酷・北京市宛てに航空便で送付された危険な貨物はどこへ行ったのか。カナダ当局は危険な貨物の宛名を把握しているはずだが、この点については無言を貫いている。ただし、受領した貨物の危険性を考えれば、貨物の受領者は速やかに貨物を安全な場所へ送るはずである。中酷国内でこうした感染力が強く、致死率が高いウイルスや病原体などを収容する場所として考えられるのは、武漢国家生物安全実験室と中国農業科学院ハルビン獣医研究所の2カ所しかない。優先的に考えられるのは中国科学院傘下の武漢国家生物安全実験室であると推察された。

 邱香果夫婦によってカナダ国立微生物研究所から盗まれた危険なウイルスや病原菌などは、北京市から武漢国家生物安全実験室へ送られ、厳重に保管すると同時に研究されていたものと思われる。

 それが武漢国家生物安全実験室職員による何らかのミスによりコロナウイルスの一部が外部へ流出し、人から人への感染によって急速に拡大して武漢市全体をパニックに陥れ、武漢市を起点として中国酷の国内外へ感染を拡大していると考えれば何となく辻褄が合うように思える、と。


 2002年11月から始まったSARS騒動の際も、ウイルスの元凶は広東人が“野味”の食材とするハクビシンだという説が流れ、相当多数のハクビシンが殺処分された。その後の調査でハクビシンの元凶説は否定され、ハクビシンの「潔白」が証明された。

 今回の武漢肺炎でもタケネズミ、アナグマ、蛇などが元凶の容疑をかけられているが、”野味“料理は中国で古くから伝統的に食べられて来たもので、武漢肺炎を引き起こしたコロナウイルスの元凶とは思えない、とある。


 この仮説が正しいか解明されないだろうが、人為的なミスにより新型コロナウイルスが武漢国家生物安全実験室のBSL-4実験室から外部へ流出したというのであれば、全世界の人々に大きな犠牲を払わせる極めて残酷な出来事ということができる。また、中酷政府の顔色を伺い、新型コロナウイルスの感染拡大に対する「緊急事態」宣言を1月30日まで先送りした世界保健機構(WHO)の責任は重い。その最大の責任者は元エチオピア保健相のテドロス・アダノム・ゲブレイエスス事務局長だ。彼は、出身国のエチオピアに対する中酷の巨額援助がWHO事務局長としての判断を怠り、武漢肺炎の蔓延を助長するのであれば、自ら事務局長の職を辞任すべきではないだろうか。と括っている。


 2004年7月、SARSの際、WHOに圧力を掛けられず、中酷政府「衛生部」は「学生の規則違反によりSARSウイルスが実験室から流出したことが原因だった」との調査結果をっ苦渋の選択として発表した。その轍を踏まない隠蔽、揉み消しへの圧力だけは、怠ることなく実施した、それが中酷共産党だ。

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