全体に読み易い文章で、その場面で何が起こっているかとても思い浮かべやすいです。
序盤は、「年上の養子」というちょっとキュンとする設定の下でラブコメ風に軽やかに展開していきます。ところが! 読み易い文章と親しみやすいキャラに惹き込まれていると、いつのまにか「ひえ~」と慄くようなドロドロ展開に。この時には既にキャラ達に感情移入済みですから、物語の中の人物になったかのようにドキドキハラハラを味わうことになりました。展開がダイナミックで「え? どういうこと?」「えええっ! そんな!」と読みながら何度も悲鳴のような声を上げてしまいます。
平安時代がモデルですが、史実に縛られず、本当にドラマティックな世界が広がっています。ファンタジー小説を読む楽しみがぎっしり詰まっている作品です!
歴史・時代・伝奇というジャンルの奥深さを感じられる物語です。
「桜の宮」と名付けられた架空の宮廷を舞台にしている事、異世界ファンタジーとも取れるのですが、主眼としているのは貴族の生活と愛という歴史モノの定番である宮廷ロマンがあり、魔という存在は異世界ファンタジーのモンスターではなく、伝奇だと感じさせられました。
物語の登場人物は皆、宮廷人ですから、それぞれに一般人が持つ感覚とは解離している部分が多々ありますが、それを補って余りある貴人の矜恃、嗜好というものが表現されていて、愚かかも知れないけれど、決して間違いとは言い切れない人の業とでもいうべきものを感じられます。
兎角、この歴史・時代・伝奇というカテゴリーには、いずれかの要素が含まれているだけのものが散見される中、あらゆる要素を取り入れ、「このカテゴリーしかない」と感じさせられるのは、この物語の特筆すべきものです。
和風の架空世界を生きる貴族の物語で、多少の取っ付きにくさは感じられるのですが、読んでいけば、そう感じて立ち止まる事は無粋であると感じられる雅さがあります。
厳密に善人といえる人物はどこにもいなく、皆、どこか傲慢で、自分勝手さがあって、しかしそれらを肯定的に捉えさせられる魅力、また有能さが描かれています。
皆、どこか自分勝手で、そういう風に生きていて…だけど宮中という場所には抗えない力というものもあり、それに立ち向かおうにも振り上げられるのは蟷螂の斧に等しい…そう思うのは、これが人間ドラマであるからでしょうか。
また、いずれくるであろう、それぞれが原因となる別離や終幕も、まるで蟷螂が愛し合っているかのような、危うさ、憐れさを感じる事もありました。
残酷であるから美しく、美しいからこそ残酷でなければならない、そんな空気を纏う物語です。
貴族。
我々庶民とは別世界の住人。
彼らにとって貴方はどんな印象を持つのでしょうか。
傲慢? 貪欲? ドロドロ?
ええ、あり得ましょう。一説には子どもを育てる事などはなから興味の無いご婦人が早々に乳母に全てを任せてしまう……そんな事もあったそうです。
――ではそこに愛など存在しないのでしょうか。
彼らは策略と嫌味に生きるのでしょうか
――、――
それでは余りにも息苦しいではありませんか。
そこにあるのはただただ、愛深き故に胸を何度も押し返した愛しき愛しき我儘。
そこに必ず伴う「罪」に彼らの思いが、深く、絡まる。
星、このエンドを皆さんに共有したくて堪らない。
この物語に会えて、良かった。
子をなさぬまま、夫を亡くした桃。世継ぎのために、養子をとることになるが、それは自分より年上の陵駕という青年だった……。
序盤から、世界観の構築の仕方と、登場人物の関係性に驚かされ、そのまま世界に引きずり込まれてしまいます。
貴族社会の美しさと儚さ、そして残酷さ。全ての良さがぎゅっと濃縮されています。
最初は桃の持ち前の明るさや陵駕の少し意地悪な性格、桃の妹・桜のけなげさなど、主要人物の良さが存分に描かれ、なんとなく和みます。
息苦しい貴族社会の中でも、生きていける。楽しいことはある。彼女たちが今までどうやって生きてきたのか、それがわかります。
でも、それは作者の罠でした。
読者を苦しめるための罠だったのです。
いいですか、序盤で騙されてはだめですよ。
中盤以降、どんどん苦しい展開になっていきます。
まだいじめたりないのか、と言いたくなるくらいに、登場人物たちは追い詰められていきます。
鬼畜、鬼畜だよ……!、と何回叫びたくなったかわかりません。キャラに対する愛が歪んでいます(笑)
ただ、苦しみの中で、決断していく、そして生きていこうとする彼女たちは、とても人間味があって、美しかったです。
揺るがない信念がある。どうしてもそれをつかみ取りたい。その熱量にますます胸が痛み、頑張れ、と応援したくなります。
そんな彼女たちの、ひとつの結末を見届けてみませんか。
きっとラストは胸が痛くなり、そして熱くなります。
舞台は平安、登場人物は貴族。
高校あたりで古典をやっていれば、おそらくこれだけで中々ドロドロした話を想像されるでしょう。
本作も貴族特有の政略や、それ故の叶わぬ恋というのがメインとなっております。
そしてそれが、現代の私達にも分かりやすく描かれているのです。
本作を読むのに古典の知識はほとんど必要ありません。
多少見慣れない言葉があっても、ルビと共に「あ、あれのことね」と簡単に思い浮かぶような描写をしてくれています。
しかも全体を通して美しい文章で描かれており、セルフレイティングは3つとも堂々の有りですが、「なにこれ美しい……」と思わされる程です。
ここまで文章のことを言いましたが、個人的なおすすめはドロドロした舞台設定故の、ゴリゴリ心を削ってくる精神攻撃でございます。
展開を予想して心の準備をしていても、それでもゴリゴリゴリゴリ精神が削られます。
でもご安心ください。これは嫌なやつではなくて、「もうやめてあげてぇ……!」と登場人物についつい感情移入してしまう方のやつです。
そして読んでいる途中にそう感じるからこその読後感。
もし辛い展開に目を背けたくなっても、是非最後まで読んでください。
登場人物達のこれからの人生が、きっと良いものでありますように。
自然とそう思わせてくれる作品です。
桜の宮という平安貴族をモデルにした架空の宮廷を舞台に、仕来りにより禁じられた愛に苦しむ貴族の男女と、その親族や従者が繰り広げる壮絶な人間ドラマ。
愛のために何を犠牲にできるか。
登場人物それぞれが持つ形の異なる愛。その愛のために彼らは罪を犯し犠牲を払います。全編を通して心臓を握りしめるような展開が続き、貴族の仕来りの窮屈さや一見冷淡で人間性を失ったかに思える周囲の人物たちの行いに歯痒さがつのりますが、目を背けずに最後までお読み頂きたいと思います。押し込められた分、最後に生まれるカタルシスは他では味わうことの出来ない大きな充足感をもたらします。
とても愛に満ちた物語です。
愛とはただ優しいものだけではない事をあらためて実感させられるような、残酷で美しい作品でした。
最大級の賛辞を贈らせて頂き、拙いレビューを締めたいと思います。
才能に嫉妬!!!