第12話

干川ひがわ採石場跡地~


「ここか・・・」


 剛は採石場に入り、車の中から外を見渡す。


「前と同じで通信が遮断されてるし、近くにいるはずなんだけど・・・ん?」


 剛は大きな足音のような地響きを感じ、車から降りる。

 地響きは積み上げられた石の山の裏から聞こえてくるようだ。

 剛は警戒しながら石山を回っていく。

 すると――


「‼」


 剛が目にしたのは体長が10mほどもありそうな石の巨人。

 まさしく、ゲームで出てくるゴーレムを彷彿させる姿だ。


「間違いなく、エビルヒーローだな。よしっ!」


 剛はゴーレムの前に颯爽と飛び出すと、ゴーレムに向かって叫ぶ。


「君はエビルヒーローデバイスを使っているな! それがどれだけ危険なものか理解しているのか? すぐに変身解除して――」


ドゴン‼

 ゴーレムの剛腕が叩きつけられ、剛が飛びのく。


「っと、まぁおとなしく聞いてくれるとは思ってないけど!」


 剛は身を翻し着地するとデバイスポーチを開く。

 取り出したのはとあるベルトのバックル。

 剛が昔、憧れ、目指したヒーロー。

 このバックルは剛がずっと大切にしていたヒーローの変身アイテムを模した玩具だった。


「俺の理想って言ったらこれくらいしか思いつかなかったんだよな――さぁ、行くぜ!」


 ゴーレムが体勢を立て直している隙にバックルを握りしめ、自分の腰にあてがう。

 しかし――


「あ、あれ? あれ? つ、つかない?」


 バックルに付いているベルトは明らかに子供用であり、成人男性の胴回りには小さ過ぎる。

 ヒーローデバイスは使用するために二段階の認証が必要であり、剛は認証の第一段階を身体に装着することにしてしまった。

 すなわち、身に着けられなければ剛はヒーローになることもままならない。


「ま、まずいぞ! これは想定していなかった!」


 剛が右往左往している間にゴーレムは体勢を立て直し、大岩を持ち上げる。


「あぁ! ちょっと・・・待って‼」


 焦る剛にゴーレムは大きな唸り声を上げながら掲げた大岩を投げつける。


「うわぁぁぁ!」


 剛は身体を丸くし、衝撃に耐える構えを取ったが一向に岩が当たる気配はない。

 恐る恐る目を開けると大岩は剛の目の前で真っ二つに割れていく。

 そしてその岩の間には――


「情けないぞ! 覚醒したというのは嘘っぱちだったのか?」

「り、凛さん‼」


 そこにいたのは凛。

 まだヒーローに変身していない凛だが、その手に握られた日本刀が大岩を切り裂いたのは間違いない。

 剛が呆気にとられていると、聞き覚えが無い声が響く


「そんなに驚くことは無い。覚醒したヒーローデバイスを使えば、ヒーローの姿にならずとも力の一端が使用できるものだ。それよりも、君も早くヒーローになるが良い!」


 剛は辺りを見回すが、声の主は見つからない。


「す、すみません。デバイス認証の一段階目ができない状態でして・・・」


 剛が情けなく答えると、今度は凛が刀を鞘に納めながらため息を吐く。


「お前の事だ。面倒くさい条件にでもしたんだろう? まぁいい、お前は見ていろ。これが覚醒したヒーローの姿だ‼」


 凛はそう言うと居合を放つがごとく刀を構え直す。


〝一段階認証を確認。二段階認証に移行〟


「ディア・ロード・・・いざ、参る‼」


 言葉と共に凛が刀を抜き放つ。

 その瞬間、凛の身体は眩い光に包まれ、その光の中から何かが飛び出した。


「し、鹿⁉」


 剛が目にしたのはまるで本物かのように飛びまわる鹿。

 鹿は凛の光からこぼれる光の柱を足場に天高く飛び上がると凛へと吸い込まれる。

 光が一気に爆ぜると凛の姿はディア・ロードへと変わっていた。


「しかと見ておけ! これがヒーローの戦いというものだ!」


 ディアは刀を構え直すと、ゴーレムに向かって走り出す。

 そのディアに対し、ゴーレムは岩山を崩し行く手を塞ごうとするがディアは止まらない。


「こんなもの‼ 私に通用すると思うなよ‼」


 ディアは飛び上がり土砂を避けると空中の一点を睨む。

 すると、ディアが睨んだ先には半透明の板の様なものが現れた。


「私の道を妨げることなど誰にもできやしないぞ‼」


 ディアがその板に乗り走り出すと、それに合わせるように光の道がディアの先に延びていく。

 これがヒーローデバイスが引き出した芯道 凛の固有能力であり、ディア=鹿が持つ脚力と合わせ規格外の走破力を持つ。

 その走破力に加え、ヒーローデバイスとして強化された日本刀と凛の剣才が分厚い鉄板でも一刀両断に切り裂くほどの攻撃力を生んでいるのだ。


「す、すごい・・・これが本当にヒーローの力!」


 剛が感心しているうちに凛はゴーレムの懐まで潜り込んだ。

 ゴーレムは拳を振り下ろすが、凛は身を翻すと刀で拳をいなした。

 凛はそのままゴーレムの腕を駆け上がり、脚力を生かした飛び蹴りをゴーレムの後頭部へ叩き込む。

 ゴーレムはそのまま前へと突っ伏し、地面へめり込んだ。


「斬るのは簡単だが人間が中に入っている可能性もあるからな。出てこないというなら少しずつ外装を剥がしていくしかあるまい」


 凛はゴーレムの背中に乗りながらもがくゴーレムを睨みつける。

 剛はその神々しい姿にただただ見惚れるのだった。

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悲惨なヒーローetc. ROM-t @ROM-t

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