【第二幕 ヒーローに信念は必要か?】
第10話
一人の男が薄暗い研究室のような部屋に入って来た。
「スライサーがヒーローたちに敗れました。」
男は奥へ進むと立ち止まり、大きな装置の前に立っている研究者風の人物に報告する。
「システムデバイスはどうなりました?」
「計画通り、ヒーローたちの手に。」
「そうですか、ならばよろしいでしょう。」
報告を聞き、研究者風の人物は装置の方を向きながら満足げな表情を浮かべる。
「これでようやく、あの人の思い描く通りに動き出すというわけですね・・・世界が!」
研究者風の人物は装置を優しく撫でながら胸を躍らせるのだった。
~英雄省 東日本本部~
剛がブリーフィングルームの自動ドアをくぐるとそこには長官の姿があった。
「お疲れ様です、長官。」
「やぁ、空幸君。何か用事かね?」
「いえ、そういうわけではないんですが、特にすることもないので待機しておこうかと思いまして」
「君は真面目だね。そういう事なら一杯付き合ってもらおうか! 酒というわけにはいかんがね。」
長官はコーヒーを二杯持ってくると、剛をテーブルの向かいに座らせた。
「先ほど、エビルヒーロー・デバイス・・・簡略にエビルデバイスということになったが。その解析の経過報告が上がってきてね。君たちにも情報を共有しようと思っていたんだ。」
「あのシステムについて、何か分かったんですか?」
剛はコーヒーを受け取り、長官に質問した。
「今回新しく分かったことは二つ。一つは、エビルヒーローと君たちヒーローの変身機序は根本的に同様であり、自分が持っているイメージを媒体にしているという事。違うのは変身の様式だが・・・」
「たしか、俺たちヒーローは身体への負担を軽減するためにスーツのように身に纏う様式をとっているんですよね?」
「そうだ。しかし、エビルヒーローは身体そのものを変質させることによって超人的な力を得ているようなんだ。」
「確かに、スライサーの奴は自分の身体を変質させていたように見えました。」
長官は苦々しい表情を浮かべながらうなずく。
「そしてもう一つ、エビルシステムは非適合者も使用できるように、とある機能が追加されている。自分の一番強い感情、欲望というべきか。それを増幅し、暴走させることでその力への依存性を高め、無理矢理に適合率を引き上げる機能だ。」
「そ、そんな・・・」
「あぁ、まさに悪魔の所業だな」
しばしの沈黙の後、剛がおもむろに口を開く。
「鍵縞さんの家に行って来ました。」
「そうか・・・私も先日、深谷君の御宅と同じ日に伺ったよ。」
「深谷さん?」
「そうか。君は面識がなかったね。この前の事件で亡くなったもう一人のヒーローだよ。」
あの事件から一週間、現場の検証・捜索を行ったが爆風の中に消えていった鍵縞の遺体は発見されなかった。
「殉職という事になるからな・・・」
またしばらくの沈黙が続く。
「ところで剛君!」
長官が思い出したかのように話を切り出した。
「君のヒーローとしての能力の登録が完了してね。専用デバイスとデバイス開放用のキーワードを設定できるんだが・・・」
「専用デバイス? キーワード?」
「何だ、知らんのかね? ヒーローとしての能力を覚醒させたものに適用される、いわば特権のようなものだよ。思い入れのある物をデバイスに、好きな言葉や言いやすい言葉をキーワードにすればいい。」
長官はそう言うと剛に挨拶をし、ブリーフィングルームを後にした。
「思い入れか・・・」
剛が思い悩んでいると――
「おう! 何ぼんやりしているんだ?」
「うわぁ!」
いきなり大きな声をかけられ、剛は飛び上がった。
「そんな驚くことはないだろう?」
「り、凛さん・・・すみません。少し考え事をしていたもので。」
声の主は剛の先輩ヒーローである芯道 凛だった。
「ところで今、暇か?」
凛がおもむろに切り出す。
「え、えぇまぁ、特に予定はありませんが—―」
「ならちょっと付き合え!」
凛は強引に剛の腕を掴むと引きずるように外に連れ出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます