第9話 【第一幕 ヒーローに誇りは必要か? 終幕 】
~英雄省 東日本本部~
状況は思わしくなかった。
剛たちが男(公式にスライサーと呼称)と戦闘している最中も管轄地域内の複数個所にエビルヒーローの反応が確認され、視認はできなかったものの剛たち以外のヒーローはその対応に追われていた。
政府はシステムの流出という失態を隠すためにこの事態を公表しないことを決めている。
「つまり、俺たちに公になる前に事態を終息させろってことですか・・・」
ブリーフィングルームで現状についての説明を受けていた剛はいらだちを募らせる。
他のヒーローたちはすでに解散し、残っているのは事後処理を終え、遅れて本部に戻って来た剛だけであった。
「実直に言うとそういうことになるな・・・他のヒーローたちにも同じようなことを言われたよ。」
長官は剛の目をまっすぐ見つめながらそう告げる。
「今回の事件だけで二人の仲間が死んだんですよ‼ それなのに・・・このまま能力を解放せず戦えば更なる犠牲が出ることになります!」
エビルヒーローに対しての危機感に現場と上では大きな違いがあることが伺える決定であった。
特に目の前で鍵縞の死を目撃した剛にとってはどうやっても受け入れがたかったのである。
「それが政治というものだ・・・不確定要素のために現場の状況など考えてくれるものではない・・・」
長官は深いため息をつきながら剛を諭す。
「幸い、三段階中一段階目の開放は私の権限で行えるように取り計らってもらった。それで十分とは言えないが今はそれでしのいでもらうしかない。」
長官の言葉を聞き、剛は少しうつむくとおもむろに立ち上がった。
「すみません、言葉が過ぎました。俺はこれで失礼します。」
剛はドアに向かい部屋を出ようとした。
「待ちたまえ、君にはもう一つ話がある。」
長官が剛を呼び止めた。
剛はドアの前に立ったまま、振り返る。
「話?」
「君は先の戦闘でヒーロー・システムの覚醒を経験したね。それによりデータベースに君の能力と ヒーロー名が登録されたんだ。」
ヒーロー・システムが覚醒すると自動的に英雄省のデータベースに能力とヒーローとしての名前が登録されるようになっている。
また、これによりヒーローとしてのランクが確定するのだ。
「じゃあ、俺は・・・」
言葉を失う剛に長官が告げる。
「こんな時にとは思うが、おめでとう。これからは〝ブランク・ウルフ〟として力を貸して欲しい。」
剛はその長官の言葉をしばし噛み締めた後、一礼し、部屋を出た。
「これで俺は…ほんとにヒーローになれたんだな。」
剛は不思議と静かな気持ちを感じながら、拳を見つめる。
「俺は・・・絶対にヒーローを、ヒーローとしての誇りを守る‼」
剛は心の中で強く誓うと前を向いて歩き出した。
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