第6話

 剛は廃工場の中心の開けた場所まで来た。

 周囲に細心の注意を払いながら、敵の攻撃を警戒する。

 凛の報告では四方から飛来したという事であったが、工場の中は閑散としている。


「どこに隠れてやがる! さっさと出てこい!」


 剛は精一杯に声を張り挑発をするが、その声は反響し徐々に消えていく。

 剛の耳にその反響が届かなくなったと思えば、その代わりに複数の高周波が聞こえてきた。

 その耳をつんざく様な振動は明らかにこちらに向かってくる。

 今のヒーローに残された数少ない能力・感覚強化。

 そのおかげで剛には迫りくる高周波をよりクリアに聞き取れる。

 剛がその音に意識を凝らしていると周囲の物陰から円盤のようなエネルギーの集合体が複数現れた。

 それらはカッターのように周囲の物を両断しながらかなりのスピードで剛に迫る。


「クッ‼」


 剛はとっさに身を翻し、一つ目のカッターを回避する。

 その後も身体の反応が追いつくものは回避し、避けきれないものは腕の装甲で叩き落したがその数は多く、捌き切れるものではなかった。

 ナイフでは傷一つつくことが無いヒーローの身体に一撃で血をにじませるこの攻撃、まともに食らえば致命傷になるのは必定だった。


「このままじゃ・・・やばいな」

 剛は致命傷を何とか避けながら打開策を練るが、敵の姿も見えないこの状態では打破する糸口が見つけられない。


(凛さんは負傷者を連れ出せただろうか?)


 剛は少しずつ身体を削られるような痛みに襲われながら、ひたすら動き続けるがふとした時、攻撃が止んだことに気付いた。


「‼」


 剛が肩で息をしながらふと顔を上げるとカッターが空中にホールドされていた。

 その瞬間、剛はこれが一斉攻撃の準備だと悟った。

 体力をかなり削られたこの状況で一斉に攻撃されてはひとたまりもない。


「はぁ・・・逃がしてはくれないか」


 ため息をついた剛は拳をしっかりと握り直した。


(まだ、死ねない・・・俺は、まだヒーローに・・・)


 カッターが一斉に剛に向けて動き出す。

 全くと言っていいほど隙が無い。

 剛が構えをより固くしたその時だった。

 目の前でカッターが爆ぜた。

 それにより出来た抜け道から鍵島が飛び出し、剛をさらう。

 鍵縞と剛はそのまま物陰に滑り込んだ。


「おい! 生きてっか?」


 鍵縞は剛に向き直り、声をかける。


「ス、スクウィード・・・助かりました! でも、どうして?」

「ハハハ・・・情けないけど足が動かなくてよ。逃げることすらできなかった」


 鍵縞は傷だらけの剛から目をそらしながら言った。


「おまえを助けられたのはあいつのおかげだよ」


 鍵縞が見つめる先に一人のヒーローが降り立った。


「ヒーローさん、大丈夫ですか?」


 降り立ったヒーローはスラリとしたフォルムにガンポッドのような腕の手甲に独特な腰飾り、  そして鳥の飾り羽のような模様が刻まれているマスクがとても美しい姿だ。


「遅れて申し訳ありません。トゥルー・ピーコックです。よろしくお願いします。」


 マスクにより少しくぐもっているが確かに女性の声であることはわかる。


「おかげで助かりました。」


 剛はお礼を言い、改めて自分の状態を確認してみる。

 全身のところどころに傷はついているが、深い傷はなく動くことはできそうだ。


「とにかく、いったん体勢を立て直しましょう! 本部に連絡を」


 トゥルー・ピーコックはあたりの状況を伺いながら二人に促す。


「それがよ・・・ここら辺一体に変な磁場が発生してて、長距離通信ができないみたいなんだ」


 鍵縞が首を横に振りながら話す。


「それに、そんな余裕は与えてくれないみたいだ!」


 鍵縞がそう呟くとまたあの高周波が耳をつく。


「来るぞ‼」


 目の前のタンクを切り裂き、大型の円盤が飛び出してくる。


「で、でかい‼」


 避け場がない、剛がそう感じた時だった。

 トゥルー・ピーコックは腕のガンポッドから光の帯のようなものを発生させるとそれを振りかざし、カッターを両断する。


「へぇ・・・それが能力か、あながちヒーローもまだ死んじゃいないみたいだな」


 その声のする方へ眼を向けると一人の男がコンテナの上に座りケラケラ笑っていた。

 歳は剛と同じくらいで背丈は少し小さいが、右腕が禍々しく変化し金属のような光沢を放っている。


「しかしまぁ・・・少し能力を発動させただけでぞろぞろと・・・ゴキブリかよ」

「おまえがヒーロー・システムを盗んだ野郎か‼」


 剛は睨みを利かせると男はその睨みを嘲笑するかのように笑った。


「人聞きが悪いなぁ、俺はある人に大枚はたいてシステムデバイスを買っただけだよ」


 肩をすくめながらひょうひょうとした態度で放たれた言葉に三人の顔は一気に曇る。

 今の言葉が真実ならば、このような危険な力が量産され、ばらまかれた可能性を示唆するからだ。


「もうこんなことはやめてください! すぐに能力を解除し投降すれば危害は加えません!」


 トゥルー・ピーコックが呼びかけるが男は応じない。


「いい気持ちで新しい玩具の使い心地を試してたのにほんとやかましいなぁ! それに・・・」


 男はそう言うと、掌から無数のエネルギーの弾を発生させるとそれを浮遊させる。

 浮遊するエネルギー球は男が指を振ると円盤形になり、高速振動を始めた。


「このシステムが流通した原因はお前たちヒーローのうちの誰かが金で売ったからだそうじゃねぇか! そんな奴らにヒーロー面されたくないんだよ‼」


 男はそう言うと腕を振り上げた。

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