第11話 短編こそキャラが重要なことがある

 短編小説は、長編小説に比べてアイデア(コンセプト)が重視される傾向になります。一瞬で読者の目を引く奇抜な設定や、あっと驚くオチ。短編小説の魅力だろうと思います。


 なのですが。

 短編小説に使えそうなネタを思いついても、うまく頭の中で物語が組み上がらないことがあります。

 アイデアは悪くないはずなのに、いざ小説にしようとしたら筆が進まない。

 あるいは。設定に羅列になってしまう。

 あるいは、盛り上がりに欠ける。プロットの段階ではもっとワクワクしたはずなのに、何かがおかしい。


 そういうときは、物語の中心になるキャラ(語り手、主人公、基本設定の鍵を握るキャラ)の設定を詰めていくことで、問題が解決することがあります。

 そのキャラがどんな外見で、どんな性格をしていて、どんなしゃべり方をし、どういう考え方をするのか。

 それがイメージできるだけで、だいぶ書きやすくなると思います。


 もしキャラの設定が上手くいかないようなら、

 自分がこれまでの書いてきたキャラでも良いですし、のも良いです。

 キャラはどこから持ってきても良いです。引用元と出力先でジャンルを合わせる必要はありません。



 たとえば、ホラー小説の設定を考えついたとします。


 設定自体は非常にエモい。でも読者にエモさを感じてもらうには、かなりの説明を要する。でも説明過多、設定の羅列になってしまいそう。良い塩梅で読者に情報を渡していく手段が思いつかない……。


 こういうときは、無造作に御手洗潔みたらいきよしを作中に放り込んでみます(別に御手洗じゃなくて、元ネタのシャーロック・ホームズや、ほかの名探偵でも良いんですが)。

 御手洗的なキャラなら、どう事件と出会い、どう解決していくかを脳内でシミュレートします。


 たとえば冒頭はこんなシーンになるでしょうか。

 依頼主によって事務所に持ち込まれた、正体不明の一品。御手洗の相棒である石岡和巳の眼には、へんてこな骨董品にしか見えない。

 しかし、名探偵ならこう叫ぶはずです。


「なんてこった! こいつはとんだ事件だぜ、石岡君」


 そしてこんなやりとりが始まるでしょう。


「おい御手洗、急に何を言い出すんだ。これが何かの犯罪の証拠だとでも?」

「なにを寝ぼけているんだ石岡君! 犯罪の証拠? そんなわけないだろう!  依頼者はどこだ? すぐに会わなければ」

「すぐにって、もう午後十一時だよ」

「人の命がかかっているんだぞ、石岡君!」


 これで冒頭の流れは出来ました。なんとなく引きのある導入部分が出来ました。そして、事件は否応なく動きはじめます。


 その後、御手洗は関係者のもとを駆け回り、謎めいた問答をし、警句めいた言葉を吐くでしょう。そして相棒が「説明してくれ」と言っても、「いや、待てよ……。僕は思い違いをしていた。これはもしかして」とはぐらかし、勝手に話を進めるでしょう。

 その間、作者は語り手である石岡になりきって、要所要所で読者のために情報を整理し、時にはミスリードとなる推理を展開する。


 こうすることで、設定の羅列になってしまいそうだったプロットが、ちゃんと緩急のついた話へと変化していきます。


 登場させるキャラはなんでもOK。

 ただし、自分がそのキャラをちゃんと把握していることが重要だと思います。自分の血肉になっているキャラじゃないと、上手く機能しないことが多い気がします。

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