第9話 「セックスしないと出られない部屋」が教えてくれるもの
パロディ同人誌などでしばしば用いられるギミックに、「セックスしないと出られない部屋」というものがあります。
どういうギミックかというと、文字通り二人のキャラを同じ部屋に閉じ込め、「セックスをしないとここから出しません」とやるやつです。
閉じ込められるキャラはの関係性はさまざまで、「お互い憎からず思っているものの、こんなシチュエーションでセックスを強制されるのは不本意だ」と思っている場合もあれば、殺したいくらい憎み合っている場合もあります。
このギミックの醍醐味は、キャラの関係性の変化です。
極限状態に陥った二人が、窮地を打破するためになんとかセックスをしようとし、その過程でさまざまな変化が生じるわけですね。
言ってしまえば安易にエロ同人誌を作るためのギミックなんですけど、これ、実は物語作りに対する、重要な示唆を含んでいるんじゃないかと思います。
さて。
「セックスしないと出られない部屋」を用いた作品において、作中のキャラの目的はなんでしょう?
作品によって差異はありますが、基本的には「部屋から出ること」ですよね。
では、読者が一番見たい部分、一番盛り上がる部分はどこでしょうか?
部屋から出るところ? 違いますね。
そう、読者が見たいのは、セックスと、そこに至るまでの過程です。
何が言いたいか。
つまるところ、キャラの目的=読者が求めているものではないということです。
実はこの構図、ほかのいろんなパターンの物語にも当てはまります。
たとえば、映画『君の名は。』で、視聴者が一番心引かれるところはどこでしょうか? 個人差はあると思いますが、瀧と三葉——二人の主人公の心が次第に接近し、自分たちの感情を自覚していく過程こそが、一番の魅力であろうと思います。
ティアマト彗星の欠片が最終的にどうなったか、欠片が降ってきた八年後に主人公たちがどうしているかなんていうのは、おおむね「余韻」とか「答え合わせ」といったようなものだろうと思います。
本当に大事なのは、瀧と三葉の成長や関係性の変化。
これ、作者は意外と忘れがちです。自分もよくやります。
「セックスしないと出られない部屋」でたとえるなら、部屋の扉が開く場面をドラマティックに書こうとしてしまい、肝心のセックスの部分がおざなりになってしまう。
扉が開くシーンをいかに描き込んでも、セックスがつまんなきゃ、読者は喜んでくれない——そんな当たり前のことを、つい忘れてしまうのです。
というあたりで、今日のまとめに入ります。
物語を書き終えて、「構成はちゃんとしているはずなのに、なにかしっくりこないな」と思ったとき。そんなときは、「物語が「セックスしないと出られない部屋」になっているかどうか」を確認すると、突破口が見えることがあります。
・キャラの成長、関係性の変化がきちんと描かれているかどうか。
・変化した後の関係性が、特別なもの、読者にとって魅力的なものになっているかどうか。
この二つを見直すと、作品の弱点が浮かび上がってくることがあります。
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