第5話 ロダンの考える人、水戸黄門、近藤勇

「ここのテーマパークに来てみたいと言ったのは私よ。その私が言うのはどうかと思うけど、ごめんなさい、イメージと違った」


「ま、いいってことよ」


 とある日曜日、学校の近くのテーマパークにやって来た二人だが、まず始めに乗ったジェットコースターが初木にとっては予想外に怖すぎて、その恐怖からその後、彼女は大体のアトラクションに乗れなかった。観覧車しか乗れなかった。


 というわけで二人は今、観覧車に乗りながら話をしている。


「それにしても安西、あなた優しいのね。私とじゃここにいても退屈でしょうに。アトラクションが私のイメージと一致しなかったばかりに」


「いやいや、楽しいって。そもそも、こういうとこって雰囲気を楽しむものだし」


 安西は初木と居られるだけで楽しい。だが初木は気に掛かる。


「せめてもの無聊しのぎに、イメージと違う話をしようと思うわ」


「おお、そいつは楽しそうだ」


「じゃあ一つ目、グリーンランドという地があるけれど、実はそんな名前に反して氷の島なのよ」


「おお、イメージと違う!」


「なぜ氷の島なのにグリーンランドという名前なのかというと、その昔、開拓民を集めるために緑豊かな地をイメージさせようとそう名付けたのよ。誇大宣伝もいいとこね」


「イメージと違う! 釣られて来ちゃった開拓民はさぞそう叫んだだろうね」


「ノーベル平和賞なんていうけど、ノーベルってダイナマイトを開発販売した史上最悪の死の商人らしいわよ」


「イメージと違う! なんとなく凄く優秀な良い人だと思ってた」


「ロダンの有名な彫刻・考える人って、地獄の火の海で苦しむ人々を上から見詰めているらしいわよ」


「イメージと違う! それ見て何を考える!?」


「水戸黄門って、町相撲で負けるや腹いせに抜刀し相手を裸のまま退散させたり、浅草でふざけて人を斬り殺したりしていたらしいわよ」


「イメージと違う! 人格者の好々爺なイメージだわ」


「新撰組局長の近藤勇って、剣術道場を構えていた頃、道場破りが来ると他の道場へ走って助っ人に来てもらい、代わりに戦ってもらっていたらしいわよ」


「イメージと違う! 全く男らしくないよ!」


「まぁ、真剣勝負は無敵だったらしいけどね。竹刀とは違うのよ」


「ああ、なんだそうか」


「大根役者って、大根は食中毒にならない、つまり当たらない役者という意味らしいわよ」


「イメージと違う! 大根が立ってるみたいに動けなくて芝居が下手って意味かと思ってた! 売れない役者って意味だったのか」


「……こんな話をすることくらいしかできないけれど」


「いやいや、楽しかったよ。すごく」


 ばつが悪そうに言う初木に、あっけらかんとそう答える安西。


「……次は、もっと別の所に行きましょうね」


 と、初木は嬉しそうにそう口にした。それを聞いて、次があるのかと鼻を伸ばして喜ぶ安西なのであった。


 見慣れたはずの町並みも、ゴンドラの窓から見下ろすと美しく、全く違って見えた。

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