ノスタルジーに浸れる写真展のような短編集

 目に浮かぶ情景描写とはよく言うけれど、その先にまで踏み込む作品は珍しい。
 読めば読むほど、かつて見たであろう景色が自然と浮かんで、雨の匂いの記憶や思い出を想起させる短編集です。

 語彙が豊富なこともさることながら、綺麗だけど難しい言葉、日常会話では意図しないと使わない語彙。これらは、使い方を誤ると鼻につき嫌な印象を与えてしまいます。けれど、そんな言葉達を巧みに使い、ショートムービーのように日常の極一瞬を切り取り、読者へ伝える作品です。

 サイフォン式でコーヒーを淹れてくれる喫茶店でゆっくりと時間を忘れて読みたい作品です。

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