第三部 さらりとおさらい

topics3 世界最古の三角関係?

 とうとう源氏物語全五十四帖が完結しました。

 朝読用に大長編を1000文字程度に区切った『1000文字源氏物語』も前話で完結、ゴールです。1年に渡る連載でした。最終話までお付き合いくださりありがとうございます。


 源氏亡きあとの「源氏物語」第三部、いかがでしたでしょうか?


 源氏からの主演のバトンを受け取った薫と匂宮の「宇治恋ストーリー」でした。タイプの違うダブルイケメンが恋した女子たちとのラブストーリーでしたね。


「第二部のときも第一部とは全然違うと思ったけれど、第三部もまた違う展開だったね」

 舞台が都から宇治へと移りました。


 知性派で陰のある綺麗系美男子の薫と華やかでいつでも人の輪の中心にいるようなモテボーイの匂宮。


「見た目はふたりともイケメンでモテるかもしれないけれど、匂宮の言動がちょっとねぇ……」

 こまちちゃんの板割りがまた炸裂しましたね。

「なんなんだろう。そんなに薫くんの好きな人を奪いたかったのかなぁ」

「とんでもない悲劇を引き起こしたよね」


 匂宮にしてみれば浮舟を我が物にして薫に対して優越感を感じたかったのでしょうか。


「今でも大テッパンの三角関係なのに胸キュンじゃなかった」

 薫も匂宮のどちらも身を引かず、浮舟だけが追い詰められました

 誰にも助けを求めることができませんでした。


「それにしても寝室乱入が多すぎるよ! 女子の気持ちを無視しすぎてる!!」

 乱入した男は罰されず、それほどまでに思いつめているんだと解されます。逆に女性側は手引きをする女房や警護の弱さを「従者の教育がいきとどいていない」と見なされ、ひいては女性(姫)の評価を下げました。


「ホントにこれだけは許せないよね。力じゃ男子に敵わないのに」

「しかも男子が罰せられなくて、女子の評判が落ちるってどういうことよ……」

 現代では刑事事件ですが、残念ながら今も悲しい事件は起きていますね。


 それから源氏物語は「源氏のことを知る古女房が語る回想」のスタイルをとっているのだそうです。

 ですから第一帖【桐壺】の書き出しが

「いずれのおんときにか、……ときめきたまふありけり」

(いつの時代だったか、……特別ご寵愛を受ける方がいらっしゃったの)

で始まり、最終巻のラストの文が

「……、とぞ本にはべめる」

(……、って語られているようよ)

で締めくくられています。

 これは作者紫式部が物語の地の文を書いているというのではなく、古女房が語る「ノンフィクション」として扱っているんだとか。

 実在の場所やモデルや事件も取り入れているそうですから、当時物語を読んだ読者にとっては登場人物も実在しているかのように受け止めたかもしれませんね。


「あ、わかる。紫式部は実在するのはもちろんだけれど、なんか源氏や紫ちゃんも平安時代に生きていたんじゃないかった思えるもん」

 そんなところもこの物語の魅力かもしれませんね。


 そして紫式部の才能はあらためて賞賛されますね。

「W主演という手法」

「正統派王子様とモテモテチャラ男の二大属性」

「タイプの違うイケメンふたりと美人姉妹の恋物語」

「ダブルイケメンがひとりの女子を取り合う三角関係」

 どれも現代でも定番といえる設定のエピソードでしたね。


 こうした今も受け入れられるテッパン設定があるから千年前の物語とはいえ共感もでき、「昔の書物」で終わらず現代も読み継がれるのかもしれませんね。


 

 最後にこちらも恒例の第三部ざっくりおさらいです。

 第三部に登場した主な登場人物です。

 

 光源氏 故人。彼の子孫たちが恋模様を繰り広げる。彼の造営した二条院、六条院は第三部でも登場。

 紫の上 故人。光源氏の最愛の妻。特に可愛がった孫の匂宮に二条院を託す。


 女三宮 光源氏の正室。薫の母。表向き薫の父は源氏だが実は柏木とのあいだにできた子供。薫を出産後出家。父の朱雀院に譲られた三条の宮に住む。


 夕霧  光源氏の息子。ハツコイ婚の雲居の雁と三条の屋敷に住み、女二宮の住む六条院にも通う。藤典侍との娘の六の君を匂宮と結婚させる。

 冷泉院 表向きは桐壺院の皇子だが真実は源氏と藤壺の宮との子。今は退位して薫を我が子のように可愛がる。


 薫   表向きは源氏の次男。母は女三宮。自分の出生の秘密を知り愁い戸惑う。俗聖の八の宮のもとに通ううちに娘の大君に恋をするようになる。大君を亡くしたあとは浮舟を身代わりに愛そうとする。

 匂宮  帝と明石中宮の三男。祖父譲りの恋愛体質。祖母の紫の上から譲られた二条院に愛妻中の君を迎えるが、夕霧の六の君とも政略結婚し、薫の想い人の浮舟まで略奪しようとした。


 八の宮 桐壺院の皇子で朱雀院、源氏の異母弟にあたる。政争に巻き込まれ宇治で隠棲している。娘ふたりを育てながら仏道に修行している様子は「俗聖」と呼ばれ薫から慕われる。


 大君  八の宮の長女。宇治でひっそり暮らしていたが薫に見初められ求婚されるが、気持ちに応えることなく病死。

 中の君 八の宮の二女。薫の思惑で匂宮と結婚。二条院に夫人として迎えられるが匂宮の浮気癖に悩まされる。匂宮の長男を出産。

 浮舟  八の宮が女房に産ませた娘。母と地方に行っていたが帰京。中の君から薫を紹介され付き合うことになるが、匂宮とも関係を持ってしまい罪の意識から自死を選ぶ。けれども死にきれず尼君に救われ出家する。出家後に薫が訪ねてきたが会おうとはしなかった。


 

 全五十四帖がこれで完結です。どこまでも続くと思われた物語ですが、終わってしまいました。でもあのような終わり方でしたから、読み手はまだその先を想像したりして「源氏物語」は終わらないのかもしれませんね。源氏を初め愛すべきキャラクターたちは紫式部の脳内だけでなく私達の脳内でも生き生きと動き回るのでしょう。そうして皆さまの脳内や心にキャラクターが生きている限り「源氏物語は終わらない」のでしょう。


 時代を経て

 国境を越えて

 きっといつまでも終わらない物語



 そして別作者による二次創作が伝わっています。鎌倉時代に書かれたようです。第五十四帖以降が描かれており続編という感じです。よかったら源氏物語エッセイで紹介されているので閲覧なさってみてくださいね。


【別冊】源氏物語のご案内

topics48 えっ? 続編?!

https://kakuyomu.jp/works/1177354054881765812/episodes/1177354054887618241



 最後になりましたが、ここまでお読みくださりありがとうございました。


 生徒、学生の皆さん、ご進級ご卒業おめでとうございます。4月からの新しいステップ、ステージでの更なる飛躍を心から応援しています。こまちちゃんも高校2年生ね。こまちちゃん、1年間のサポートどうもありがとう。こまちちゃんの豊かな喜怒哀楽リアクションでさらに源氏物語を身近に感じることができたのではないでしょうか。


「源氏物語がこんなに面白い物語だなんて思わなかったよ。なぎさちゃん、どうもありがとうね! それから読んでくださった皆様もどうもありがとうございました!!」

 こまちちゃんの『こまちの1000文字源氏物語レポート』も最終回ね。


 元学生の皆さん、わたしたちも向上心と好奇心を胸に楽しく頑張りましょう。いくつになっても謙虚にそして学ぶことの楽しさを忘れずにいきましょう。

 巡りくる春。千年前から変わらず桜咲き、鳥さえずる爛漫の春。柔らかな日ざしはわたしたちの心をも温める。紫式部も「やまとの国の春」を愛でたことでしょう。


 麗しき春来たり

 芳しき春来たり


 言祝ぐ千年の春。源氏の時代の春に想いを馳せ、今年の春を慶び、そして未来の美しい春を願い……。

 またどこかでお会いできますように。


『【朝読】1000文字源氏物語♬』完

                                  有栖川渚

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【朝読】 1000文字源氏物語♬ 桜井今日子 @lilas-snow

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