お知らせがきたようです
朝食を取りながら、歯磨きしながら。延々と冷やしてがっつりお化粧して。
だいぶ目の腫れぼったさがおさまったところで、ようやくあたしはお店を開いた。
朝は朝食がわりにサンドイッチとコーヒー類、サラダ系を注文するお客様が多いから数をこなせていいんだよね。フレンチトーストやワッフル含め、手がかからない物が多いし皆出勤前で急いでるから回転も早いし。
その代わりレジも調理もウエイトレスも一人でこなすあたしはとにかく大わらわだ。
席数もそんなに多くはないから何とかなるけど、この朝のラッシュが終わったらいつだってちょっぴりぐったりしちゃうんだよね。
この店は亡くなったおじいちゃんから受け継いだもの。
なんの因果か勤めていた会社が倒産していきなり無職になった上、当時付き合ってた彼氏にも別れをそれとなく切り出されるというかなり精神的にヤラレてた状態で故郷に帰ったあたしに、運命はさらに過酷だった。
子供の頃からめっちゃ可愛がってくれていたおじいちゃんが、余命宣告を受けたんだ。
だって、ついこの前まで元気だったのに。
夜にトイレが近くて困るとか確かにそれまでも言ってたけど、「血尿が出た」って慌てて病院に行って検査を受けるまでは本当に普通だったから、気づけなくて。
それから一年も経たずにこの世を去ってしまったおじいちゃんは、そんな状態で落ち込んで帰郷したあたしの将来を心配して、このカフェをあたしに遺してくれたんだって、おじいちゃんが亡くなって2週間くらいが経ってから漸く聞いたの。
おじいちゃんが大切にしてたお店。
前にあったときには、皆別に仕事を持ってるんだから、継がなくても大丈夫だよって笑ってた。
でも、ちょっと寂しそうだったの知ってる。
今なら確かに時間的にはたっぷりあるから継げるには継げるんだけど、なんせ困った事に知識がない。
できるかどうかは別として、まずはおじいちゃんが遺してくれたお店にいってみよう、そう思ってお店の中を見て回っていた時だった。
一番奥の、目立たない場所にある四人がけの席。
そこの床が突然光って、あたし、異世界に召喚されたんだよね。
なんて、そんな事をいきなり思い出したのにはちゃんと訳がある。
なぜなら今まさに、脳裏にある物が浮かんだからだ。
こうして対象になりそうな人もいないのに急に何か物が浮かんだ時は要注意、それは異世界からの旅人が来る合図なんだから。
あの奥の四人がけの席、決まってあそこに現れる。
今いるお客様がお帰りになったらお店を締めなくっちゃ。
あたしはこれ以上お客様が入らないよう店のドアに「準備中」のプレートを下げ、いそいそと異世界からのお客様を迎える準備に入る。
前は頭に物が浮かんだと同時に手の中にそれが握られているという親切仕様だったけど、日本に戻ってきてからは、現物は支給されないのだ、自分で用意するしかない。
なんでか知らないけど、女神のご加護は微妙にランクダウンしているのだった。
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