女神様の、導きを
あたしは目を閉じて女神に祈りを捧げ、呼吸を整えてからゆっくりと目を開けた。いつの間にか辺りは静まって、そこに集まった人々の全てが私の話を固唾を飲んで待っているのが分かる。
自分にカメラとマイクを向けるのはなんとも気恥ずかしいが仕方ない、あたしは覚悟を決めて口を開いた。
「……昨夜、女神エリュンヒルダ様からのお言葉を得ました」
またも、地鳴りのような歓声が上がる。眼下は喜びに満ちていて、もう踊り出してる人もいるくらい。なんだかあまりの騒ぎっぷりにちょっぴりおかしくなってきて、あたしは逆に少しだけ緊張が解れてきた。
「聖騎士コールマン、王女ユーリーン。魔に堕ちた物を薙ぐ勇敢な貴方達の血を繋ぐ御子は、この国に永劫に安定をもたらす豊かな治世を築くでしょう、と」
二人が幸せそうに見つめ合うのがとても微笑ましい。偉ぶるわけでもなく気さくに付き合ってくれた二人には感謝しかない、本当に幸せになって欲しい。
「互いに慈しみ合い助け合うように……貴方達を導く、女神からの贈り物です」
手の中に現れた……これって卵かな? 不思議な虹色に光る楕円形の物を手渡す。
「これは?」
「……神鳥アールサスですって。大切に孵して下さいね」
頭に浮かんだ言葉をそのまま口にする。きっと女神様が教えてくれているんだろう。
「神鳥!」
「お二人の御子を見守ってくれる筈ですよ」
国の未来を明るく照らすための導きアイテムが神鳥とはさすがにスケールがでかい。人々の感極まった歓声を聴きながら、あたしは神官長様に目を移す。
今日も凛としてとても麗しい。
見てるだけで涙でそうになる、愛しい人。貴方がどうか、幸せでありますように。
「神官長ナフュール。……類稀なる祈りの力で全ての魔を祓った真の神の徒。揺るがぬ信仰心と弱き者への慈愛を体現する貴方が統べるこの教会は、やがてこの世を光に導くでしょう」
「勿体無い、お言葉です……!」
「民を導く貴方へ、女神からの贈り物を」
手に現れたのは凝った意匠が凝らされた銀の聖杖。その聖杖を携えた神官長様は凛としてまるで一枚の絵画のよう。貫禄すら感じられるその姿を目に焼き付けたくて、あたしは涙を必死で堪えた。
「女神のご加護は常に貴方と共にある……その証を手に、民を助けよと」
「必ずや……!」
神官長様の麗しいお顔が紅潮して、感動に涙ぐんでいる。いつものアルカイックスマイルではない、生の感情が伝わってくるけれど、それがあたしを通して女神様に捧げられたものだと分かっているから、ちょっと寂しく感じるのは仕方ない。
「最後に、あたしからも贈り物を……」
あたしは目を閉じて女神へ祈りを捧げる。昨夜はちょっと嫌そうだったけど、約束してくれたからきっと大丈夫な筈だ。
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