凱旋披露
バルコニーの下には見渡す限りどこまでもどこまでも人の波。誰もが何か叫んでいて、熱狂している。人々のパワーがこっちまで伝わってくるみたい。
この国の王である、ユーリーンのお父様が威厳たっぷりに姿を表すと、熱狂は最高潮に高まった。もはや人々が叫ぶ声は地鳴りのように響いている。
「アカリ、頼むわね」
「任せといて」
あたしはスキルを発動した。
女神様から授けられた、極めて特殊なスキルだという『ビジョン』と『拡声』。見せたい映像と音声を人々の脳裏に直接送る事ができる、なんともお告げ向きの能力だったりする。
王様が一歩前へ歩み出たのを受けて、あたしは王の姿と声を人々に送った。
気分は敏腕テレビクルー。カメラワークも音声もスイッチングも一人で行うから頭の中は割と大忙しなんだよね。
はい、準備OKです! 王様、どうぞ!
そんな気持ちで目配せすれば、王様はおもむろに口を開いた。
「見よ!」
王様の重低音の素敵ボイスが響き渡る。
人々の頭にも、この王様の荘厳な姿と重々しい声がリアルに映し出されたのだろう、一瞬驚く程の静寂が訪れた後、爆発したように拍手と歓声が巻き起こった。
「見よ、この抜けるような青空を」
見れば、どこまでも澄んだ青い空。
あたしがこの世界に来た当初は、どんなに快晴でも空気に黒い粒子が混ざったように世界は全て黒ずんでいた。
空を見上げても黒ずんでいて爽やかさなんか微塵もなかったし、何より太陽の光が遮られて作物の実りも悪くて飢饉が頻繁に起こるし、気温が下がる一方なのに暖も取れないというまさに危機的状態だった。
各地を回って魔に取り込まれた物を討伐したり魔を払ったりする毎に、黒の粒子は薄まって空が少しずつ青さを取り戻していくのが嬉しかった。
「見よ! 魔は全て祓われた!」
バルコニーの下から割れるような歓声が響く。みんな、とっても喜んでくれているのが分かって凄く凄く幸せな気持ち。
「此度の魔を祓った英雄達を紹介しよう、皆の者、篤き感謝を」
王様に紹介され、聖騎士コールマンが、神官長ナフュールが、王女ユーリーンが、それぞれ人々に向けてメッセージを送る。そのどれもが熱狂を以って迎えられ、場はヒートアップしていく一方。
それでもあたしたちのメッセージが人々にちゃんと伝わっていくのは、この『ビジョン』と『拡声』のスキルのおかげだ。なんとも便利である。
「最後に、女神エリュンヒルダの声を聴きこの旅を導いた聖女アカリよ、前へ」
王様に促され、あたしはバルコニーの一番前まで進みでる。眼下の人々の熱狂は物凄くて、少したじろいでしまうほど。
でも、今日は怖気付いてはいられない。最後のお役目を全うしなくては。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます