大切な仲間たち

翌朝あたしは、神官長様がどれだけ喜んでくれるかを想像しては期待に胸を膨らませていた。


その時には既に役目を終えたら日本に帰る事を密かに決意していたから、神官長様ともう二度と会えなくなるという事実から目を背けていたとも言えるんだけど。



「おっ気合い入ってんな!」


「ホント、聖女の正装なんて久しぶりね」



魔を祓う旅の仲間、聖騎士のコールマンと魔術師でこの国の王女でもあるユーリーンが揃って現れた。


この二人と神官長様と、あたし。四人を中心として王家の兵、神兵の精鋭計十名程と側付き一名のそれなりな規模で行われた旅は一年に渡り、二人はその中で徐々に絆を深めて今では誰がどう見ても分かる程のアツアツカップルになっていた。故に一月後には婚姻を結ぶ事になっている。


いいなあ。


正直羨ましい、あたしと神官長様なんて1ミリも進展しなかったのに。


内心ブチブチとグチっていたら、コールマンが爽やかな笑顔でからかってくる。



「なんだ、今日の凱旋披露のためにめかし込んだのか?」



そう、今日はお城のバルコニーから町中の人に、魔を全て祓い私達が凱旋した事を披露する大切な儀式があるのだ。いつもはおちゃらけちゃうあたしだけれど、確かに今日だけは聖女っぽく、神秘的で気高い感じが求められる。


あたしのために作られた、清廉さを醸し出す純白の衣装に身を包み、髪は結い上げてお化粧だって清楚な雰囲気でバッチリ決めてきた。


その雰囲気を保つのはあたしにとっては難題だけど、今日は女神様のお言葉を伝える最後の機会だ。旅の仲間達のためにも、もちろん神官長様のためにも頑張らなくちゃ。



「うん、もちろんそれもあるんだけど、今朝ね、女神様とお話したの」



その言葉に反応したように、長身の白い影がバルコニーに現れた。



「まさか、エリュンヒルダ様のご神託ですか?」


「あっ神官長様、大好きです!」



神官長様を見た途端、思わず口から出たのはいつも通りの言葉だった。



「……魔を浄化しても貴女は本当に変わりませんね、ですが」



愛しの神官長様は、いつものように少し困った眉で言う。だってしょうがないよね、その麗しい顔を見ちゃったら言わずにはいられないよ、だってもう条件反射レベルだもん。


でもね、神官長様が言いたい事なんてちゃんと分かってる。もう耳タコってくらい言われてるし。



「分かってます、我が敬愛の全ては全て女神エリュンヒルダ様に捧げしもの、我が慈愛の全ては困窮の徒に捧げしもの、ですよね。そんなところも大好きです!」


「全くもう、貴女という人は……しかし」


「神官長様」



お小言モードに入りそうな神官長様を遮って、あたしは女神様のお言葉を告げる。



「女神エリュンヒルダ様、とても喜んでいました。神官長様の祈りがこの世界を救ったんだって」


「!」



驚きに目を見開いてしばらく言葉を失っていた神官長様は、震える手を胸の前に組み合わせ一心に祈りを捧げる。


ふふ、そりゃ喜ぶよね。神官長様、本当に女神様大好きだもんなあ。



「さあ、そろそろ始めるわよ」



王女ユーリーンがバルコニーの先の方へ体を進めると、割れるような歓声が場を包んだ。

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