異世界からいらっしゃい
お客様を無事に送り出し、キッチンで黙々と導きアイテムを製作していたら、例の奥の四人がけの席でガチャガチャガチャっと金属やらなんやらが擦れる音がした。
最後に鈍い音と共にカエルが潰れたみたいなくぐもった呻き声が聞こえてきて、あたしは密かに手を合わせる。
なんか知らないけど、異世界からこっちに来る時って、どうも穴に落っこちるみたいな感覚があるらしいんだよね。だから複数人で登場した時には決まってこういうヤな感じのうめき声が聞こえる。
つまり、先に落ちてきた人の上に、次々降ってきちゃうわけだ。
ご愁傷様。
「うおっ!? なんだココは!」
「い、いいから、どいて……」
息も絶え絶えの細身で綺麗なお兄さん? お姉さん? と、その上にがっつり跨ってキョロキョロ辺りを見回す剣士風のイケメンお兄さん。
お姉さんを下敷きにして普通の顔してるなんて想像したくないから、多分下の人は男の人だ。うん、きっと。多分そう。
「いらっしゃいませー!」
「ひえっ!?」
ささっと駆け寄れば、剣士風イケメンはギョッとしたように仰け反った。その拍子に下から「グフっ」という呻き声が聞こえた。そろそろ限界だと思うから、真面目に退いた方がいいと思うけど。
「あたし敵じゃないので、取り敢えずその人の上から退きません?」
できるだけ警戒心を抱かせないよう、満面の笑顔で話しかけた。
どこの世界から来たとしても言葉が通じるのはこれまでの経験で分かっている。多分別れ際に女神様がくれたマジックアイテムのピアスのおかげだと思うんだけど、こんな便利なもんがあるなら、最初にあたしが異世界に行った時に欲しかったよ、女神様。
うっすらそんな事を考えている間、あたしから目を離さないように抜かりなく気を配りながら、剣士風イケメンがゆっくりと綺麗なお兄さん(仮)の上から退いていく。
良かった良かった、あんな鎧とデッカい剣まで背負ってる人の重量なんて考えたくもないもんね。
「君は誰だ? ここは一体……」
「多分あなた達が今までいた世界とは別の世界よ、多分何か困りごとでもあったんじゃないの?」
「!」
明らかに警戒を強めた剣士風イケメンとは逆に、綺麗なお兄さん(仮)はあたしを救世主のような瞳で見つめている。確かに命は救ったかもしれない、今まさに圧死寸前だったもんね。
「お前、何者だ……! 魔の手の者か!」
はい、来た来た。
異世界から来た人達が誰しも通る、ここはどこ、あなたは誰、もしや妙な術を使ったのではあるまいな展開。これだから一般のお客様はお帰りいただく他ないんだよね、時によっては剣振り回したりもしちゃうからさ。
しかしあたしも慣れている。
こういう時は説明するだけして暫く放置だ。こっちが危害を加える気がない事を示す他ないんだから。
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