8

「これで今後の方向性が見えた。和子さんのおかげだよ。ありがとう」


 病院の廊下。並んで歩きながら、満面の笑顔で田上さんが言う。


「そんな……私は何もしてないですよ」


 私は首を横に振る。


「そんなことないよ。君の一言で、僕はカスパロフのことを思い出すことができた。やっぱり、君は僕にとって特別な存在だ」


「……」


 私の顔が赤く染まる。こんなことを言われたのは初めてだ。彼は照れくさそうに続ける。


「今度の金曜、一緒に……竪町たてまちにペアリングを買いに行かないか。ダメかな……」


 応える代わりに私は、田上さんの右手を握る。


「!」


 彼の驚いた顔が私に向く。私は彼に寄り添い、そして……小さくうなずいた。

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