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「そうです、こいつに金箔作りの職人技を教え込んでやって欲しいんですよ」
そう言って、金沢大学大学院自然科学研究科 電子情報科学専攻 博士前期課程二年の田上竜一さんは、傍らのロボット――KINTA-01 の頭に右手を置いた。
KINTA(Knowledge INheritance for Traditional Arts:伝統工芸における知識継承)-01――「キンタ」と名付けられたロボットは、ぶっちゃけ、まさにロボットという感じの代物だった。それも上半身しかない。円筒形の胴体の左右に、いかにもロボットアーム的な腕が取り付けられていた。移動は底部の四つのタイヤで行う。頭部にあるのは小型の液晶モニターだ。そこに顔が表示されている。それも非常に単純な。
「ハジメマシテ」
うわ、しゃべったよコイツ……だけど割と普通のアクセントだ。私はあらためてコイツの創造主の顔を見上げる。
身長は一七五センチくらいかな。かなりのロボットオタクという話だが、ステレオタイプなオタクって感じじゃない。眼鏡はかけてないし、やせてもいないし太ってもいないが、筋肉質でもない。
だけど、確かにあんまり外見に気を配らないタイプではあるみたい。もう夕方だというのに、未だに髪に寝癖が付いたまんまだ。もっとも、髪型が崩れてきた私もあまり他人のことは言えない。今はそういう時期なのだから仕方ない、ということにしておこう。
この人は、ロボットに伝統工芸の技術を継承させる、という研究をしているのだという。しかし、ロボットが作る伝統工芸は、果たして本当に伝統工芸と言えるのか。そういう議論ももちろんあるのだが、そんなことをしてる間にもどんどん職人が少なくなっている、という現状を考えると、今はとにかくロボットでもいいからとりあえず技術を継承しておくべきだろう、ということらしい。文化財をデジタル化して記録・保存するデジタル・アーカイブというものがあるが、これはそれのスキル版なのだ、と。
最初は渋い顔をしていたおじいちゃんだったが、これが科研費(科学研究費)という国の補助金が付いた研究で、学会でも優秀発表賞を受賞していることや、地元のテレビ局も注目していて頻繁に取材に来る、などと言われると、根がミーハーな彼は喜んでしまい、なんとキンタの弟子入りを認めてしまった。
だけど、私は内心、大丈夫かなぁ、と思っていた。というのは、実は過去に一回おじいちゃんは弟子を迎えたことがあったのだ。
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