伝統を継ぐもの
Phantom Cat
1
"弁当忘れても傘忘れるな"
これは、この地方で暮らしていれば必ず耳にするフレーズ。そして、その言葉が示すとおり、今日も金沢は雨だった。まあ、梅雨時期だから当然と言えば当然だけど。
この時期に限らず北陸は天気が悪い日が多い。特に冬は毎日鉛色の空。私は生まれてこの方それが当たり前だったからなんとも思わないけど、太平洋側から来た人には結構辛いらしい。
だけど、そのおかげで発展した伝統工芸がある。
金箔作り。
そもそも「金沢」の名の通り、ここは元々「金」に非常に縁の深い場所なのだ。
金沢の名前の由来となった「芋掘り藤五郎」の伝説は、金沢に生まれ育ったものなら誰でも知っている。奈良時代、
金沢の金箔作りには四百年の歴史がある。あの京都の金閣寺に使われている金箔も金沢で作られたものだ。現在でも日本で作られる金箔の九十九パーセントは金沢産だ。
一万分の一ミリに満たない厚さの金箔は、たやすく静電気に影響されてしまう。しかし、金沢は年中湿度が高いので静電気がたまりにくい。さらに、伝統的な金箔の製造工程では
だけど、正直言って、人間にはあまり優しくない……特に女の子には。
この時期はいつも朝起きると頭が爆発している。髪がなかなかまとまらない。スタイリングに時間がかかってしまうし、スタイルを決めても時間が経つと崩れたりする。肌も湿気でベタベタするし……ホント、カンベンして欲しいよ……
と、心の中で愚痴を言ってる間に、私は目的地に到着していた。
引き戸を開ける。とたんにリズミカルな機械音が耳に飛び込んでくる。機関銃の発射音……というと物騒だが、そんな感じの音だ。それに負けないくらいの声を、私は張り上げる。
「おじいちゃん、来たよ」
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