第6話 チーム、初勝利
今なお続く自由落下。機体を重力に囚われたまま――大地は眼前に迫っていた。
「うおおお~、ぶ、ぶつかる~!?」
間抜けな悲鳴を上げるイサミ。ネイサーは冷静に指示を出す。
「落ち着け! ォリュンポスの主戦場は地中と海中。腕のドリルで地面に潜るんだ!」
ドリルって言うのかこれ。
「お、おう!」
回転する円錐形が大地を砕く。潜航していく機体は、まるで地中に吸い込まれているかのようだ。メガニュートの足元を掘り進み、素早く背後に回り込む。
「ヴォルガンドリル!!」
叫ぶイサミ。高速回転するドリルがメガニュートの外皮を貫く! リンクした機体から確かな手応えが伝わってきた。パワーが足りなくてもこれがあれば――
引き抜いたドリルを何度か空転させ、イサミは上機嫌に言う。
「確かに叫ぶと気合が入るな!」
「だろうよ!」
「それで――」
不意に、イサミの声が殺気を孕む。基地での陽気な彼女からは考えられない変わりぶりだ。ほんの短い間に垣間見た彼女の二面性を、フロウは内心で不気味に思った。
「――俺に策がある。あいつを誘い込むぞ」
今はとにかく全身あるのみ。一抹の不安を噛み潰し、フロウはイサミに従った。心を一つに、流れ込む憎悪を我が物に。
振り向くメガニュート。ヴォルガンテスは再び潜航し、遠くの大地で顔を出す。ドリルを空転させて挑発。
「こっちに来やがれトカゲ野郎!」
「俺が相手になってやる!」
まるで地鳴りのような咆哮。メガニュートは挑発に――乗った。ドシドシと土煙を上げて走る巨体。威圧感に気圧されながらもギリギリまで引き付ける。
間合い三歩、二歩、一歩……今だ。
急速潜航。メガニュートは振り上げた拳の行き場をなくして立ち止まる。そのごく僅かな時間でイサミは "仕掛け" を施した。
「こっちだ!」
再び地面から顔を出す。メガニュートが足を踏み鳴らし振り返る、刹那――足元の地面が音を立てて崩れた!
「そら見ろ、落とし穴だ!」
地中を何度も往復することで、地面を空洞化させたのだ。地表が崩れてしまえば後は一気に土の中。シンプルであるが故に、強力なトラップ。
巨大な穴に半身が埋まり身動きの取れないメガニュート。反撃を封じたイサミは、二本のドリルを高く掲げた。陽の光が鋼の刃を不気味に照らす。対象的に、イサミの顔には影が落ちた。
「覚悟しろドラゴエンパイア。俺が父上の仇を……討つ!」
抵抗するメガニュート。イサミは巧みなドリル裁きで両腕を切断し、厚い胸板に刃を突き入れた。
「藤巴流奥義、
高速回転、心臓部を粉砕! メガニュートは爆発四散した。
※
レジスタンスの撤退を見届け、フロウ達の任務は終わった。機体を降り、ヴォルガンの炎で残骸を焼き払う。彼らの亡骸は、特によく燃えた。
ようやく掴み取った初勝利に、フロウの心は踊る。しかしそれに輪をかけて昂ぶっている人間が、すぐ隣に居た。
「成し遂げたよ、父上」
揺らめき燃え盛る炎を眺め、イサミが独りごちる。
「俺は……やっと父上の仇を討ったんだ……」
拳を強く握りしめ、嗚咽混じりに、それでいて満足気に呟く。しかしネイサーはそんな彼女に残酷な現実を告げるのだ。
「終わってなどいない。この程度の損害、連中からしてみれば、かすり傷にすらなっていないだろう。成し遂げたつもりになられては困る」
顔を上げたイサミの肩を掴み、ぐいと引き寄せる。
「前を見ろイサミ! お前の目指す場所はあの先……ドラゴエンパイアの本拠地にある。連中の総本山を下してこそ、真に仇を討ったと言えるというものだ」
燃える山。マジヌ島の中心地、ユラ火山だ。今も火口からは煙を吹き上げ力強く息づいている。
あまりにも強大な仇の根城を目の当たりにして、イサミは小さく息を呑む。しかし瞳には決意をたたえ、更に強く拳を握り込んだ。
「……そうだよな、博士。俺はあいつらを根絶やしにしてやりたい。この島に生きた痕跡も残らないぐらいに抹殺する。この手で、必ず」
握りしめた拳を見つめ、イサミは言う。ネイサーは満足気に頷いた。
「その意気や良し。ならばお前もヴォルガンチームの一員だ」
試験は合格、ということらしい。イサミとフロウの肩に手を置き、ネイサーは言う。
「ようやくこれで三人揃った。これでドラゴエンパイアへの反攻作戦も視野に入るというものだ」
戦力が揃い打って出る。それはフロウとしても望むところだったし、いち早く行動に移らなければならないこともりかいしていた。しかしフロウは、首を横に振る。
「バカ言え。ババアはヴォルガンテスの動きに耐えられなかっただろ。そんな奴をこれから先コックピットに居座らせておくわけにはいかねえ」
「アレはお前が無茶な動かし方をするからだ」
「アタシはこれからもムチャする予定なんだよ。いいからさっさと次の候補者を探せ。いいや、探させろ」
フロウは覚えていた。フロウよりも先にネイサーが目をつけていた存在のことを。
「どんな奴だろうと、候補に上がるぐらいならババアよかマシだ。老人は体
「誰が老人だ! 私はまだ四十代だぞ!」
今にも取っ組み合いの喧嘩を始めそうな二人の間に、イサミがその大きな体で割って入った。
「まあまあ、二人共落ち着けって。それに、俺も博士は乗らないほうがいいと思う。司令塔がやられたらマズいからな」
「そうだそうだ! 年増は引っ込んでろ!」
便乗したフロウの頭を上から押さえつけ、イサミは言う。
「あんたは少し黙ってろ」
「んだと!?」
ほんの一瞬でボルテージが最高潮に達し、激しく声を荒げた。そんなフロウをなだめるようにイサミは言う。
「頼りにしてるぞリーダー。でもここは俺に任せて欲しい。部下の成長を見守ると思ってさあ」
それはあまりにも白々しい物言いだった。だが、しかし。
「……仕方ねえ。アタシはリーダーだからな」
フロウは単純だった。リーダーと呼ばれただけで気を良くし、イサミの肩をバシバシと叩いて笑顔で言う。
「そんじゃあ、オバサンの説得は任せたぜ。アタシはレジスタンスに顔出してくるからよ」
確実に戦力を増していくヴォルガンチーム。三人目の候補も既に決まっているとあり、事態は順調に進むと思われていた。少なくとも、フロウはそう思っていた。腕っぷしには自信があるし、こちらにはイサミも居るのだ。ドラゴニュートが相手ならともかく、ただの人間を相手に苦戦するわけがない。説得に応じなくとも叩きのめして無理矢理連れてきてしまえばいいのだし。……ぐらいのことは、考えている。
それがまさかとんでもない茨の道であったことなどと、フロウは夢にも思っていなかった。
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