第9話 It's SHOWTIME! 4
オレンジ色の光が俺を包み、純白のコック服にパンプキンヘッドの自称正義の味方は、宙返りをして悪の組織と対峙した。
「愛梨さん、そして会場にいるよいこの諸君。君たちの願いが、正義を愛する心が、インターネットの闇に埋もれていた私の魂を解き放ち、マイクロ社のテクノロジーで復活を遂げることができた。ありがとうみんな。なに? カボチャ? そうカボチャだね。なぜかって? 少年、いい質問だね。それはね、新作のプリプリプリンはカボチャプリンだからなのだよ。愛梨さんのお父さんを想う気持ち。大迫社長のプリンへの愛情。そのマリアージュが形となったのが僕、すなわちパンプキンマンなのさ」
会場はあっけに取られている。これは辛い。胃が痛い。お父さんが必死に笑いを堪えている。それも辛かろう。確かに逆の立ち位置なら俺もそうなる。
『続けて。子供の目の輝きが変わったわ』
俺は目が滲んで前が見えないけれども? 心で号泣してるわけだけれども? ただまあそれでも? 全身タイツじゃなくてよかったし、これでもしオンリーブリーフだったら大惨事だし、株価暴落まったなしだったな。
博士の言うアップデートは割とまともに機能している。胸元の赤いスカーフが結構おしゃれである。さらに身体能力も飛躍的に補正されるらしく、でなければ宙返りなどできるはずがない。
「ようし、貴様ら。正義の力を思い知れ! バルカン発射」
バルカンと口にしたら、心の底から暗い感情が沸き上がってきた。ギザギザに割れた口から、無数の弾丸が飛び出して下っ端どもをなぎ倒す。
「説明しよう! パンプキンマンは体内に星々の力を宿しているのだ。メテオボンバーは星々の正義の怒りなのである!」
ケイスケがマイクを手に力説すると、子供たちはメテオボンバー大合唱である。あの野郎、勝手にアドリブ入れやがって。シードバルカンじゃねえのかよ。
というか博士博士、アップデート凄いです。でもこれ本当に実害ないですよね? 役者の人ピクピクしてますけど。
『狼狽えない! ウチのは訓練されてるから!』
お前ら劇団も抱えてるのすごくない? 執事業と関係なくない? というか会場盛り上がってきて怖い。
「これはこれは愉快なヒーローの爆誕だ。ではこれでどうかな?」
おもむろに悪役のボスはバズーカを構えた。いや、おもむろには出さないでしょ、バズーカって。拳銃飛び越えてバズーカて。ヒーローショーじゃなかったっけ?
M1だと? ってお父さん興奮気味におっしゃってますけど、お詳しいんですか? もしかして本物ですか? こいつらリアルアサシンなんで、あり得るんですけど。
パンプキンマン危ない! メテオボンバー撃ってえって子供たちの声援がすごいです。うん、本当に危ないかもしれない。
『来るわよ! ハードスキンで防いで!』
なるようになれとスカーフを引き抜く。俺たちの前に赤い光の壁が現れた。
「オーロラルグロー。それは極光の輝き。全ての攻撃を包み込む宇宙の神秘。これこそが宇宙戦士パンプキンマンの奥義なのである!」
おいケイスケ、宇宙戦士ってなんだ。パンプキンマンは大地の使者って設定じゃなかったっけ? ハルまで、これはありかもしれないってアホか。なんでカボチャが宇宙戦士だよ。プリンどこ行ったよ。
「消し飛べパンプキンマン!」
容赦なく役者はトリガーを引く。笑えないバックブラストが巻き起こり、こいつは本物だという確信が全身の毛穴を開放した。光の壁が砲弾を包み込む。衝撃はこない。
「オーロラルグローは敵の攻撃を吸収して、パンプキンマンのパワーに変えることができるのだ! さあ今だパンプキンマン! 奥義クリムゾンバスターを撃つのだ!」
子供たちの声援はうれしいけれども、俺はケイスケ、お前に向けてぶっ放したい。
まあなんだっけ? メテオボンバー? それと同じく口から出るんですけどね。ほら、色が白から赤に変わってるでしょう?
閃光に紛れて悪役の人が袖に引っ込んだ。とりあえずこれでフィナーレだ。
「愛梨さん、大迫社長、ご無事ですか?」
「ありがとう、パンプキンマン。私は平気です。けれど父が」
大迫社長、迫真の瀕死体である。この人本当は役者なんじゃないかなという気がしてならない。
「ご安心を。プリプリプリンを食べさせなさい。私の力が宿ったプリンを」
お嬢さんが社長を抱き起こし、プリンを食べさせる。途端に、というか台本通りに社長は息を吹き返した。
「おお、愛梨! 無事か?」
お父様と泣きながら、ご令嬢は実父の胸に飛び込んだ。さあ、最後の決め台詞だ。
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