第4話 未知との遭遇 4

 行き止まりの扉を開けると、女は中に入れと言わんばかりに顎をしゃくった。神様、この女の顎が三日月のようにしゃくれますように。

「お連れしました」

 俺たちの背後で、しっかりと鍵のかかる音がした。女はニヤニヤしながら、いくつものモニターを見つめている白衣の少年の横に並んだ。少年が振り向いた。

「はじめまして、博士です」

 思わずケイスケの顔を伺った。死んだ魚の目をしている。ちょっと、何? どういうこと? 雰囲気は博士感出てるけど、10台並んだモニターってこれケーブルテレビじゃね? カートゥーン流れてない?

「まずは右手をごらんください」

「いやいや? なに? 博士? どこが?」

 女が鬼の形相で銃口を突きつけてくる。今どこに地雷があったの? ここ単なる子供部屋だろ?

「あんたは言われた通りにしてればいいのよ。いい? ひとつだけ忠告しておくからね? この方はマイクロコーポレーション社の頭脳にして、御曹司。機嫌を損ねたら、問答無用で」

 乾いた音がして壁に穴が開いた。オーケイ、次はないな。三度目の正直だものな。

「ハルルン、もういい? 喋りたい」

「申し訳ありません、博士」

 それでね、と博士は笑顔で右手を翳した。

「右の手首にシールがありますか?」

 腕時計を嵌める辺りに、カボチャマークのシールが貼ってある。

「それを押してみて?」

 手の甲にマイクの形のホログラムが浮かび上がった。マイクのようだが、なにこの技術すごい。

「そのマイクにね。うん、じゃあ1号君、お手本見せて?」

 誰だよ1号。ケイスケが気怠そうに立ち上がった。お前かよ1号。

 ケイスケは右手のマイクに向かって、向かう前にちらりと俺を見てから「ピンポンパンポンパンプーキン」と未だかつてないほど投げやりな声で、確かにそう言った。

 ケイスケの右手からオレンジ色の光が溢れ、彼の体を包み、ポンと小さく爆発して薄い煙が晴れると、全身白タイツでカボチャを被ったケイスケが現れた。巷で流行のハロウィンスタイル、ジャックオーランタンのお出ましだ。

「ジュンペイ、今日から僕らはパンプキンヘッド1号2号だ、笑えよ」

 ほんとごめん、全然ついていけてない。嗚呼違う、ついていきたくない。どういうこと? こいつ特撮ものみたいに変身したんだけど? マンガじゃん。すごいよ? すごいけどなんでパンプキンヘッドなの? いやそれよりもなによりも、1号2号ってなに? 誰だよ2号。あの女が? 

 眼鏡をくいっと直しながら、女はニヤニヤ見つめてくる。なるほど、今までのニタリ面はこういう意味だったわけか。俺が2号って訳か。このビッチが!

「なあ、笑えってば」

 絡んでくるケイスケを払いのける。

「うるせえよ。絶句してんだよ……言ってるお前の目が笑ってねえだろうが」

 そりゃひとりじゃ辛いだろうさ。なにが悲しくてこんな。こんなことして何になるって言うんだ。

「さあ、次はあなたの番じゃなくて? お2号さん?」

 なにがお2号だクソビッチが。大した煽りだぜ。俺を怒らせるとはね。煽りのライセンスでも持ってんのか?

「じゃあ、1号くんと同じようにやってみてください」

 博士が言うんなら仕方ない。聞かないと大事な体に穴が開いてしまうからね。

 カボチャのシールを押してマイクを呼び出し、ピンポンパンポンパンプーキン。ようしパンプキンヘッド2号見参ですよ。いやいや、本当に出ちゃったよ。出ちゃったけどさ。

「ジュンペイ、オンリーブリーフ! 変態か!」

 ゲラゲラと笑い転げるケイスケを後目に、確かにお肌が剥き出しというか、カボチャ頭にパンツ一丁で少々心許ないのではあるが、この状況で爆笑できる親友の神経を疑う。博士も笑う、ビッチも笑う。みんな笑ってる。今日もいい天気って逃避してる場合か。

「うーん、決めポーズを考えた方がよさそうですね」

「よくないですね、博士。博士。これ失敗じゃないですかね? というか、状況が全くわからないですね」

「失敗ではないです。手術は成功です」

「手術とは」

「腕に生体デバイスを移植してみました」

 すごく軽い感じで足されてた。臓器持ってかれたんじゃなくて、余計なもの足されてた。嘘だろ?

「さて、君たちにはやってもらわなければならないことがあります」

 そんな事言われても二の句が継げない。理解が追いつくと思ってんの? ちょっとした改造人間じゃんこれ。いや改造人間だわ。

「あんたたち返事」

 カメラ回すか銃構えるか、どっちかにしろ。二丁拳銃気取りですか、このビッチは。というかなんでカメラ回してんだ? 

 でも分かるよ。俺だって回す。かたや白タイツ、かたやブリーフ一丁のパンプキンヘッドが雁首下げて子供のいいなりだ。俺たちの人権はどこだ?

「お返事は?」

 イエッサーと勢いだけで返しておいた。銃には逆らえない。隣の1号氏から生命の波動を感じないが、果たして大丈夫なのだろうか? 人の心配をしている場合ではない。心拍数が異様に高くなってきた。これが胸騒ぎか。

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