第3話 未知との遭遇 3
裸電球が等間隔にぶら下がっている。色気もそっけもないし、もちろん人の気配もない廊下をグレースーツのドS女を先頭に俺たちは歩いている。なるようにしかならない気持ちになってくる。いつか映画で観たな。死刑囚がこんな風に連行されていくシーンがあった。
「あの名画を思い出すよな」、ケイスケがぼそりと言った。お前はエスパーか。気色悪いから俺の思考を読むな。
「言うな。現実が迫ってくるだろうが」
「でも『グリーンマイル』とは違うな。牢屋がない」
「どうでもいい」
「僕はショーシャンク派だけどね」
「どうでもいいわ、そんな話……それよりな?」
目で合図をする。隙をみて、女の銃を奪って逃げるしかない。ケイスケが『無理』と口を動かすのと同時に女が振り返った。
「あんたたちもついてないわね。よりによって」
笑いをかみ殺している。このドSメガネが。人の不幸を笑う時、不幸もお前を嗤っていることを知れ。もしこの先俺をむごたらしく殺しでもしたら、8代前のご先祖やらなにから総出の上でとり殺してやる。
「でも仕方ないわ。それだけの損害だもの」
「車1台で大げさじゃないですかね」
「確かに全損した車は1台だけ。でもね、積み荷の方がね」
女が片手を広げた。500万500万しつこい女だ。金の亡者が。なんだ、ヤクでも積んでて灰になったのか。だとしても知ったことか。
「これも何かの縁だと思って、諦めることね。男にとっては肝心だもの」
「生憎あきらめの悪い男なので」
あらそう? と女は小首を傾げた。
「お友達は運命を受け入れたようだけどね」
ケイスケから表情が消えた。やめろ。現実に押しつぶされる。
「伝手でなんとかならないのか?」
俺は女に聞こえないよう囁いた。ケイスケは首を振った。いやいるだろう? 議員のお父さんが本気を出すべき危機が今ここにあるでしょう?
「うちの伝手でどうにかなる相手じゃない。君だってマイクロコーポレーションくらい知ってるだろ?」
「CM流しまくってる? PCやらスマホやら」
「ザ・グローバル企業『小さな巨人』。総資産額は世界五指。とてもじゃないが、地方議員じゃ手に余るでしょ。彼女は汚れ仕事を担う暗部だと思うよ。首の刺青」
雄叫びをあげているような禍々しい大根のような刺青がこれみよがしに彫ってある。見てはならないものを見てしまった気がする。
「マンドラゴラって知ってる? 引っこ抜くと悲鳴をあげて、それを聞いたら絶命する伝説の植物」
それが彫られていると。君はそう言うんですか? それって一般人が見ちゃダメなやつじゃない? 秘密を知るものは消されるアレな流れじゃない? 違う?
「よくご存知ね。県議のお坊ちゃまが知っていても得する話じゃないと思うけど?」
女はチラリと振り向いて、鋭い視線を放ってきた。その言い方はいけませんね、マドモワゼル。このバカに火が付きますね。
ようし、ケイスケ君やめとこ? マンドラゴラだかコンドロイチンだか知らんけど、今はそういうのいいから。乗らなくていいから。今だけは俺の心の声を読んで?
「創業家の執事一族の家紋が確か、マンドラゴラでしたよね?」
だからいらねえって。知りたくもなければ、この先役に立ちそうにないトリビアだよ。それをよりにもよって、どや顔で言うのかお前。撃たれるから。すごく撃たれそうな気配だから。マンドラゴラの雄叫び聞いちゃう運びになるから。
「軽口はそこまでにした方が身のためよ?」
「ですよね。こらケイスケ。憶測でものを言っちゃ」
「事実よ。元々は創業家の執事だったらしいけど、今じゃ色々請け負ってるの」
揺りかごから墓場まで色々とね、と念を押されました。氷の微笑で。主に墓場方面が明るいんですよね? 多分。
いやあ、ケイスケ氏の発言は事実でしたか。なるほどですね。マの付く奴らの競合他社ですよと、そういう事ですね。把握しました。
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