第15話 アトランティスでボクと握手 5

『どういうことよ……やめなさいよ』

 ハルの声が震えている。

「姉さん、聞こえるでしょう? 私と一緒に」

「やめなさいよ!」

 ハルがヘッドセットを投げ捨てて、愛梨に詰め寄った。

「今その歌は関係ないでしょ⁈」

「姉さん、思い出して。私たちにはアトランティス王家の末裔として、民を守る義務があるわ。このイルカやシャチたちを悪の組織の手先にするわけにはいかないでしょ!」

「私にここで歌えっていうの? できっこないじゃない。それはアイリンが一番わかってるでしょ?」

「できるよ。今のハルルンならできる。ううん、今の『リトルマーメイド』ならできるんだよ」

 愛梨とハルのイヤリングから水色の光が迸り、シャボン玉のようにふたりを包んだ。

「説明しよう。アトランティス王家の末裔、ハルルン、アイリン姉妹が再会したことで、王家の秘宝『リトルマーメイド』の封印が解けたのだ。秘宝の力で、防御力はもちろん身体能力も強化され、今の二人はおおよそパンプキンマンの2倍の強さなのだ」

 ブラックさんが手短に説明してくれました。

 えぇもう、俺空気じゃん。もうパンプキンマン要らないじゃん。2倍の勢いで要らないじゃん。というか、ハルルン、アイリン、リトルマーメイドってそういうことかよ、ケイスケ。昔、おまえに連れられて行ったことあったなあ、ライブ。

 月を象った水色のアイドルたちの出現に、ミスターバズーカと女の子たちは大盛り上がりである。ひらひらのスカートに白い手袋とピンクのパンプス。

 どこからどうみてもアイドルだし、女の子たちの目の輝き半端じゃないし、なによりも大迫社長満面の笑みだし、もうこの流れは誰にも止められない。誰も俺のこと見てないから、あぐらかいて眺めてる。

「それじゃあみなさん聞いてください。リトルマーメイドで三日月人魚」

 キランて効果音が出そうなくらい見事なウィンクでしたよ、ハルルンさん。ああ、バズーカの旦那、振り付け完璧じゃないですか。そちらの3列奥のお父さん、イカ焼き振り回したら汁が飛びますよ? サイリウムじゃありませんよ? そして、ケイスケはおとなしく見てろ。踊るな。

「さあアイリン! 私に力を!」

 歌い終わったと思ったら、ハルはイヤリングからステッキを取り出した。博士はすごいなあ。すごいけど、もっとアイドルらしい画がよかったんじゃないかな。

「はい、姉さん! アトランティス滅亡の恨み、今こそ!」

 いやいや。八つ当たりだから。ブラックパンプキンさんは滅亡関係ないからね? そんな強引に設定拾いに行かなくていいよ? 相手は所詮カボチャなんだからさ。

 愛梨の体が水色に輝き、その光がハルのステッキへ乗り移る。

「ムーンエクスプロージョン!」

 月爆発させちゃだめだろ。月の民大迷惑だよ。というかステッキを思い切り振りかぶってパンプキンヘッドをジャストミートって、月じゃなくてカボチャが破裂しますよ? 

 いやはや万感の思いが詰まった見事なスウィングでした。俺、無印パンプキンでよかった。

 ケイスケのマスクはダルマ落としのように吹っ飛んで消えた。よろよろと立ち上がったその顔には一筋の涙が見えた。とんだご褒美だな? このアイドルオタクめ。

「相手にとって不足はなかった……いい夢見させてもらったよ」

 本音を言うんじゃない。満ち足りた顔で倒れこむんじゃないよ。バズーカ氏ほぞを噛んでるじゃないか。そして、ハルは上気した顔で客席に手を振って、観客もそれに応えていた。

 舞台裏に引っ込んだ俺たちを待ち受けていたのは賞賛の拍手だったし、ハルとケイスケは固い握手で和解して、むしろ意気投合していたし、それをみて愛梨は涙ぐんでいた。このままではいかん。早急に手を打たねば、ギャラとしての取り分が減るどころか、大変なことになると俺の本能が告げていた。

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