第8話 It's SHOWTIME! 3

「いや! 離して! 助けてお父様!」

 大げさに喚くお嬢様を黒ずくめのいかにも怪しい男たちが黙らせる。

「くっ! 愛梨! 愛梨ーっ!」

 血を流しながら父親がよろよろと立ち上がる。これ、やりすぎなのでは? しかし、観客席の親子連れたちは割と見入っている。

『ぼーっとしてないで!』、ヘッドセットからハルが呼びかけてくる。『お客のつかみは大丈夫だから!』

『血糊多すぎじゃない?』

『コンセントレーション!』

 仕事だからそうしますけどね。でもね。

「大迫社長。娘さんは預かりましたよ。返して欲しくば、御社の株式の51%と、近日発表される『P3』の諸権利を引き渡して頂きたい」

「そ、そんな! それは法外だ……」

 崩れ落ちる社長を、ケイスケが抱き留める。

「社長、お気を確かに! 社長!」、ケイスケが拳を握りしめる。

「ちくしょう……外道め!」

 悪役を睨みつける小足立圭介は意外と演技派であった。そして俺も今、舞台の上で完璧な演技を見せている。カボチャのオブジェとして、テーブルに頭を載せてね。

『なあ、プロデューサー殿』、ハルに問いかける。『いくらなんでも、話が生々しくないか?』

『最近はね……リアル路線がウケるのよ』

『にしたって、本人たちが出演する必要性あるんですかね?』

『コンセントレーション!!』、ハルが喚く。

『仕方ないでしょ! 出るってきかなかったんだから!』

 自社商品のプロモーション、しかもヒーローショーもどきにわざわざ出演しようなど、セレブたちの考えることは分からない。社長親娘が本人役で茶番、もとい寸劇を演じているなんて、観客は夢にも思わないだろう。

 いや、そんなことはどうでもいいのかもしれない。ただ目立ちたいだけなのだ。なぜなら社長親娘ノリノリだから。

 楽しそうでなによりです、社長。ここ多分ホワイト企業だな。俺、今度面接受けようかな。

「貴様等……どうやって『P3』の存在を知った? マイクロ社のセキュリティは万全のはず」

「もちろんです社長。弊社はいつだって鉄壁の防御陣を敷いています。ペンタゴンもびっくりのね。その為に、私が出向しているのですから」

 ケイスケの台詞を聞いて、社長は何度も頷いた。大迫社長は最高級のスーツを血糊で汚してまで渾身の演技を見せている。

 社長、あなたの心意気に応えてみせますよ。俺は自我を捨てて、カボチャの妖精になってみせますから。

「総統閣下はことのほかプリンがお好きでね」

 今や影の薄い本職のアクターが大仰な仕草で悪役をアピールをする。

 プリン。なるほど、この仕事のいきさつが見えてきた。

「『P3』いや、新作プリプリプリン! 是が非でも我が組織が頂く」

 プリプリプリン? え? どういうこと?

「我が大迫製菓(株)が三年の月日をかけて開発したハロウィン用新商品プリプリプリン。厳選素材を集めに集め、国内工場で職人たちが精魂込めて作り上げた、上質なシルクを思わせる食感のプリンを濃厚な卵の風味とキレのあるカラメルでまとめ上げたプリプリプリンを、貴様等のようなゲスにおめおめと渡すわけには」

 社長すごいな。というかこれあれだな。例の博士がプリン食べたいだけだな。だからコラボ企画ごり押したんだろうな。というかこの為だけに俺たちはカボチャに、いややめよう考えてもしかたない。

「ふふ、社長。そこまで言われては、ますます欲しくなるのが人間の業というもの。力づくで奪い取るまで」

「やめて! お父様に手を出さないで!」

 愛梨お嬢様の絶叫に被せて、お姉さんを助けなくていいの? という観客の少年の率直な問いが刺さる。少年。よく言えました。

『聞いたかプロデューサー? 見事に脚本突っ込まれたぞ?』

『いいから集中! あんた見せ場よ!』

 愛梨お嬢様が悪役の手をふりほどき、舞台の中央で観客を見渡す。

「みんな! よい子のみんな、お姉さんに力を貸して! みんなの正しい心が、愛の力が奇跡を呼ぶの! だからお姉さんと一緒に正義の味方を呼ぼう! せーの!」

 ピンポンパンポンパンプーキン。会場が一つになった。大変上手に仕込めました。

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