第7話 It's SHOWTIME! 2

 アパートの外にはご大層にリムジンが停まっている。築三十年の東雲荘とのコントラストがシュール極まりない。というか生リムジン初めて見た。こっそり写真に撮っておこう。

 チンピラに押し込められて、転がるように車に乗った。優雅に乗ってきたハルはタバコに火をつけ、豪快に鼻から煙を吐き出した。

 素晴らしい。清々しいほどのビッチではなかろうか。ビッチというか場末のスナックのママのそれだ。ポケットからピスタチオ出しそうな気配すらある。

 チンピラは用心棒兼運転手としてついてきたらしい。合図もなしで乱暴にアクセルをふかした。リムジンも俺たちも丁重に扱え、この野郎。これからどこに連れて行かれるか心配になるじゃないですか。

 聞くところによると、ケイスケは早朝に帰ったらしい。こいつ合い鍵いつ作ったんだ? まあそれはいい。問題は隣のカボチャがどうしてかように萎びてしまったのかという顛末の方だ。

 疲れた顔のまま窓外の看板をケイスケは機械的に唱えている。徹夜明けでもこうはなるまい。

 最近、何かを被らないと落ち着かないとケイスケは言う。悲しいな。慣れって怖いな。少し分かってしまう自分がいる。意外と快適なパンプキンヘッド恐るべしと言える。ひょっとするとあの博士ただ者ではない可能性が出てきている。

 ともあれ、カラーコーンを被ってご陽気に強襲してきたのもおそらくその奇妙な慣れのせいだし、コーンを忘れてやむを得ず秘密の呪文を唱えて、カボチャ頭を呼び出したのも、酔っていたとはいえ悲しい性なのだろう。ただそれが運の尽きだったとケイスケは自嘲気味に言った。

 朝日と共に訪れた唐突なヘッドショット。訳も分からずふっとんで、見事水路にチップイン。なるほど、えげつない生臭さはそのせいか。

 冷静に考えるとライフルの狙撃に耐えるパンプキンヘッドの凄みたるや、なにをかいわんやである。やはりあの博士、ただのお子さまではない可能性がそれなりに高くなってきている。

 ただしその耐久力はカボチャ部分に限る。これは肝に銘じておかねばならない。であるから、このビッチはモーニングショットよろしく、ケイスケの頭に鉛玉をぶち込んだ訳だし、さかのぼって、もし俺の頭じゃなく体に発砲されていたら、このような独白もしてはいまい。

 水路から這い上がったケイスケは、無駄な抵抗を試みたものの見事ビリビリマシーンに返り討ちと相成った。のたうち回ってのたうち回って、昨日の酒をカボチャの中にぶちまけながら、再び水路に転げ落ち、結果、桃太郎の如くサングラスのおじいさんとハルばあさんに拾われてしまったのだと告げられては、こちらも返す言葉がない。

 明日は我が身だ。身の毛もよだつ嫌がらせだと言い切れる。

「しかし、忘れた頃にやってくるのがいやらしい」

 窓の外を眺めながらケイスケがぼやいた。

「ほんとにな」本当に俺も心からそう思う。

 例の事故から半月が経とうとしていた。そして俺たちの悲しみを乗せたまま、リムジンは駅前の百貨店前で停まった。有名な幕末から続く老舗だ。お買い物だったらいいなあ。

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