《孤独》の館にようこそ

誰もが一度は経験したことがあるのではないでしょうか。
まわりに認めてもらえず、理解してくれるものもいない――絡みつく鎖のような孤独。誰かと繋がる手段の増えた現代でも、孤独はこころの隙に忍びこみ、じわりじわりと蝕んできます。

そうした孤独を抱えたものたちが迷いこむとされる、《シルバーラビットの霧の館》――妖魔の館に捕らわれたものは帰らない。何故ならば、そこはとても幸福だから。

その夜も、孤独にさいなまれた若者がひとり、館の扉をたたき、闇に消えた。

妖魔を倒すことのできるハンターの少女《アイン》は、行方不明になった若者を捜して、シルバーラビットの霧の館を訪れます。ですがこの《アイン》こそが、他の誰よりも深い孤独を胸に隠しているのです。彼女を取りまく複雑な事情は物語が進むにつれて、段々とあきらかになっていきますので、敢えてここでは語りません。
ですが、身を斬るような孤独にさいなまれながらも、強かに戦い続ける彼女の姿には、何度惚れそうになったかわかりません。
この《アイン》の魅力からもわかるように、こちらの小説は登場する人物のひとりひとりが実に個性的です。特に、わたしがぐっときたのは館の管理人たる《シュヴァル》です。喋りかたといい、優しいようなこわいような、時々みせるなんともいいがたい凄みといい、ほんとうに魅力にあふれています。妖魔である彼にも、《孤独》があります。
登場人物それぞれの《孤独》を丁寧にすくいあげ、物語のなかに落としこむ、橘紫綺さんの筆力は感嘆の一言です。

孤独にさいなまれたことのある、いま現在、孤独だという御方には是非とも、この物語を読んでいただきたいです。
「ひとは、見せたいものだけ見せ、見たいものだけを見る」
孤独というものは、他でもないひとのこころが産みだす迷いの霧なのかもしれません。霧が晴れて視野が拡がれば、なにか優しいものが、みえてくる――わたしは、読み終えて、そんな気がしました。

ほんとうに優しい、物語です。