誰もが一度は経験したことがあるのではないでしょうか。
まわりに認めてもらえず、理解してくれるものもいない――絡みつく鎖のような孤独。誰かと繋がる手段の増えた現代でも、孤独はこころの隙に忍びこみ、じわりじわりと蝕んできます。
そうした孤独を抱えたものたちが迷いこむとされる、《シルバーラビットの霧の館》――妖魔の館に捕らわれたものは帰らない。何故ならば、そこはとても幸福だから。
その夜も、孤独にさいなまれた若者がひとり、館の扉をたたき、闇に消えた。
妖魔を倒すことのできるハンターの少女《アイン》は、行方不明になった若者を捜して、シルバーラビットの霧の館を訪れます。ですがこの《アイン》こそが、他の誰よりも深い孤独を胸に隠しているのです。彼女を取りまく複雑な事情は物語が進むにつれて、段々とあきらかになっていきますので、敢えてここでは語りません。
ですが、身を斬るような孤独にさいなまれながらも、強かに戦い続ける彼女の姿には、何度惚れそうになったかわかりません。
この《アイン》の魅力からもわかるように、こちらの小説は登場する人物のひとりひとりが実に個性的です。特に、わたしがぐっときたのは館の管理人たる《シュヴァル》です。喋りかたといい、優しいようなこわいような、時々みせるなんともいいがたい凄みといい、ほんとうに魅力にあふれています。妖魔である彼にも、《孤独》があります。
登場人物それぞれの《孤独》を丁寧にすくいあげ、物語のなかに落としこむ、橘紫綺さんの筆力は感嘆の一言です。
孤独にさいなまれたことのある、いま現在、孤独だという御方には是非とも、この物語を読んでいただきたいです。
「ひとは、見せたいものだけ見せ、見たいものだけを見る」
孤独というものは、他でもないひとのこころが産みだす迷いの霧なのかもしれません。霧が晴れて視野が拡がれば、なにか優しいものが、みえてくる――わたしは、読み終えて、そんな気がしました。
ほんとうに優しい、物語です。
幼いながらも腕利きの孤高のハンターとして生きる少女・アイン。
そんな彼女に舞い込んだ依頼は、霧の夜、孤独な人間を攫って行くという妖魔・シルバーラビットに攫われ、霧の館へと連れていかれた青年・ハイネスを連れ戻してほしいというものだった。
心配する友人、フルフレアの手を振り切り、霧の館へと足を踏み入れたアインを出迎えたのは、変わり者の妖魔・シュヴァル。
依頼を果たすため、アインはシュヴァルとともに霧の館を探索し始める――。
いつもながらの端正な文章に、今回はアクションシーンも加わって、いったいどうなるんだろうとハラハラと連載を追っていました!(≧▽≦)
不思議な霧の館の部屋は、どこもかしこも不思議な部屋ばかりで。
頑ななほどに依頼を遂行しようとするアインちゃんが眩しくもあり、切なくもあり……。応援したくなってしまいます。
霧の館に隠された秘密は何なのか。
アインは無事に依頼を果たすことができるのか。
気になった方は、そっと霧の館の扉を押し開けてみてください。
……鍵は、かかっていませんから。