第3話

「な……んで……」


「え?」


「そんな理由で振られたの……私……」


 優子は俯きながら静かに話し始める。

 雄介は申し訳なさそうな顔をしながら、優子に答える。


「いや……すまん、俺にとっては結構重要なことなんだ……」


 雄介はそう言うと、優子の脇を通って家の中に入ろうとする。

 しかし、そんな雄介の腕を優子がギュッと掴んだ。

 雄介は腕を掴まれ、ビクッと体を震わせる。

「な、なんだ……加山? ま、まだ何かようか?」


「………めない……」


「え?」


「諦めない!」


「は?」


「だから諦めないって言ってるの!!」


 優子は顔を上げて声を荒げながら雄介にそう言う。 

 いつもの優子では考えられない反応に雄介は驚く。

 しかし、雄介にとってはそれどころではなかった。


「な、何がだ? てか……は、はやく離せ!」


「私さ……結構モテるんだよ!」


「そ、それは知ってる! てか、さっさと離せ!」


「あんな理由で断られる理由がわからないの! なんで私じゃダメなの?」


 雄介の腕を掴んで離さない優子。

 そんな優子に雄介はアタフタしながら答える。


「だから言ってるだろ! 俺は女性が苦手なんだ! 良いから手を離せ! じゃないと……」


「じゃないと何?」


「んっ!? お、お前!!」


 優子はそう言うと雄介の腕を抱きしめ、自分の胸に押し当ててきた。

 

「は、早く離せ!!」


「どう? 女の子の体って柔らかいでしょ?」


「そ、そんな事はどうでも良いんだよ! 良いから離せ!!」


「うふ、照れちゃって可愛い」


「照れてねぇ!! 良いから離せ!!」


 雄介はそう言いながら、腕を振りほどこうとする。

 しかし、抱きしめられた腕はなかなかその拘束から抜け出すことが出来ずにいた。


「本当に離せ!! マジで俺はダメなんだよ!」


「じゃあ、その女性嫌いが無くなったら、私と付き合ってくれる?」


「なんでそうなる!? 良いから離せ!!」


「どうなの!!」


「た、多分大丈夫だけど……た、頼むからもういい加減離してくれ……」


 雄介の顔は次第に青白くなってきていた。

 しかし、そんな雄介の顔色の変化にも気がつかず、優子は雄介を誘惑する。


「じゃぁ……私が雄介のその体質……直して上げる……」


「そ、そんな事……出来るわけないだろ……」


「そんなのやってみないとわからないじゃん……」


 優子はそう言いながら、雄介の腕を掴む力を強める。

 

「ねぇ……私が雄介のその女嫌いを直してあげる。それなら良いでしょ?」


「な、なんでそうなる!」


「それと同時に雄介が私を好きになれば良いのよ」


「待て! 俺の女嫌いが治る保証なんてどこにもないんだぞ!」


「やってみなきゃわからないじゃない!」


 自信たっぷりに言う優子に雄介は深くため息を吐く。

 雄介はそんな事出来る訳が無いと思っていた。

 今まで色々な方法を試したのに、ダメだった。

 それを考えると、やる前から結果はわかっているようなものだった。


「無理だ、やるとしてもどうやって治す気だ」


「それはもちろん……こうするの!!」


「おわっ!!」


 優子はそう言った瞬間雄介へ抱きついた。

 雄介は突然の事に驚き、身動きが取れなくなってしまった。


「お、おい! 離れろ!!」


「うふふ~、こうしてれば女嫌いも無くなるでしょ?」


「そ、そんな訳あるか!! は、はやく離れ……や、やばい……」


「えぇ~本当は嬉しいくせにぃ~」


「う、嬉しいわけ……あるか……」


「もう~照れなくても言いにぃ~」


 雄介の顔色は更に悪くなっていった。

 顔は青白くなり、どんどん血の気が引いて行く。

 嬉しそうに抱きつく優子を他所に、雄介はフラフラし始めた。

 

「も……もう……ダメ……」


「え? ゆ、雄介!?」


 雄介はそう言うと、そのままその場に倒れ込んでしまった。

 




 夢を見ていた。

 その夢は雄介が幼い頃の夢だった。

 まだ雄介があの場所に居た時の夢だった。


 いやだ、痛い……やめて!


 夢の中の雄介は自分の目の前に立っている女性にそう叫びながら泣いていた。

 雄介はそんな昔の光景をみていた。

 なぜだかわからないが、雄介の体はまるで重しを付けららているかのように重たく、金縛りにあっているようだった。


「………!」


 誰かが雄介を呼んでいた。

 雄介は呼ばれた方を振り向くが誰も居ない。

「………!!」


 雄介を呼ぶ声は次第に大きくなっていった。 誰かが自分を呼んでいる。

 そう思った瞬間、雄介は目を覚ました。


「あ、ユウ君起きた>?」


「何やってるんですか? 里奈さん」


 雄介はソファーの上に寝かされていた。

 その上には女性が一人、覆い被さるようにいして雄介の顔を見ていた。


「里奈さん……離れて下さい」


「いや」


「なんでですか」


「ユウ君の顔を見ていたいから」


「えぇ~良いじゃん、姉弟なんだしぃ~」


 雄介の上に乗っている女性の名前は今村里奈(いまむら りな)、雄介と同じ高校の三年生で雄介の姉だ。


「そんなの関係ありません。てか俺、なんでソファーに……あ、そうだ……加山に抱きつかれて……」


「そうだよぉ~、倒れたユウ君をその子が家まで運んでくれたんだよぉ~。感謝しなきゃねぇ~」


「元々加山のせい何ですけどね……で、加山は?」


「あぁ、そこに居るよぉ~」


 里奈の指さす方には優子が座ったいた。

 雄介の目の前のソファーに座り、申し訳なさそうに雄介の方を見ていた。


「ごめん雄介……やり過ぎちゃった……」


 優子の様子から反省している事がよくわかった。


「まぁ、良いよ……てかまだ居たのか?」


「そ、その言い方は無いでしょ! 心配したのに……」


「元凶はお前だろ」


「うっ……そ、そうだけど……」


 雄介と優子がそんな話しをしていると、里奈が笑顔で雄介に尋ねてくるが、里奈の目は笑っていなかった。


「まぁ、なんでも良いけど……ユウ君この子は誰?」

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