第4話


 優子と雄介の話しを聞いていた里奈が会話に割って入ってきた。

 笑顔を浮かべては居るが、里奈の顔は笑ってはいなかった。


「いや、加山はただのクラス……」


「彼女です!」


「おい!」


 雄介の言葉を遮り、優子が宣言する。

 その言葉を聞いた瞬間、雄介は咄嗟に打鍵だ。


「何言ってんだよ!! んなわけねーだろ!」


「だって~、いつかは彼女になるんだしぃ~」


「天地がひっくり返る方が確率が高い」


「ぶー、照れなくても良いのにぃ~」


「照れてねぇ!」


「言っておくけど、私は諦めてなんかないからね」


「だから、無理だって言ってるだろうが……」


 優子と雄介の言い争いを始め、里奈はその様子を黙って静かに見つめていた。

 

「へーそうなんだ……」


「里奈さん違いますからね! 里奈さんも知ってるでしょ? 俺が女の人ダメなの!」


「うん知ってるよぉ~、大丈夫だよ、お姉ちゃんはちゃんとわかってるから」


 ニコニコしながら里奈は雄介にそう話す。

 その言葉を聞いて雄介は安心したのか、思わず笑みを溢す。


「私は本気です! 私は本気で雄介の事が好きなんです!!」


 ストレートに言われて、雄介は思わず頬を赤く染める。

 優子のあまりにもストレートな告白に、少しドキッとしてしまったのだ。


「うーん……加山さんだっけ? そう言っても当の本人のユウ君が付き合えないって言ってるんだよ? ここは大人しく引き下がるべきじゃない?」


「大丈夫です! 絶対に落とします!」


「崖から?」


「いや、なんでですか……」


 里奈の言葉に、雄介は思わずツッコミを入れてしまうった。

 雄介の話をしているのにも関わらず、雄介を置いて、優子と里奈は話しを進める。


「大丈夫です! 私だったら一ヶ月で落とせます!」


「油汚れを?」


「確かに落ちにくいですけどそうじゃないです!! 雄介をです!!」


「でも、雄介は困ってるみたいよ?」


「そんなの照れてるだけですよ!」


 自分を放って話しをする優子と里奈。

 雄介は我慢できず、自分から話しを切り出した。


「加山、お前の気持ちは嬉しいよ。でも俺は……無理なんだ……」


「ユウ君待ちなさい、そこから先は私が言うわ、その方が信憑性も高いでしょ?」


「里奈さん……」


 雄介の言葉を遮り、里奈が真面目な表情で話しに入ってきた。

 里奈は少し天然なところもあるが、いざという時には凄く頼りになる姉だと雄介は思っていた。

 里奈は学校でも生徒会副会長を務めたり、茶道部の部長をしていたりと、友人やクラスメイトからの信頼も厚かった。

 そんな里奈からの説明なら、自分よりも上手く説明してくれるかもしれない。

 雄介はそう思って里奈に説明して貰うことにした。


「加山さん。つまりね……」


「な、何ですか?」


 先程とは違い、真面目な雰囲気の里奈に優子は少したじろいでしまう。

 そして、里奈はゆっくり話し始めた。


「……ユウ君はね………」


「は、はい……」


「お姉ちゃんと結婚するから貴方とは付き合えないのよ!」


「……は?」


「………へ?」


 里奈の言葉に、雄介と優子は思わず変な声を出してしまう。

 

「あ、あの……里奈さん……な、何を言ってるんですか?」


「もぉ~恥ずかしがらなくて良いのよぉ~、お姉ちゃんも恥ずかしいけど、本当の事を言ってあげなきゃね~」


 里奈はそう言いながら、雄介を自分の元に抱き寄せた。

 そう、里奈は重度のブラコンなのだ。

 雄介もその事実は知っていたが、まさかここまでとは思っておらず、頬をヒクヒクさせながら、苦笑いをしていた。


「あ、あの……里奈さんまで何馬鹿な事を言ってるんですか……」


「そんな事無いわよ、お姉ちゃんは本気だもの~」


「そもそも姉弟なんだから無理です」


 雄介は里奈を引き剥がそうとするが、里奈がガッチリと雄介をホールドしており、まったく離れる様子がなかった。


「大丈夫よ~、血縁関係が無ければ、姉弟でも結婚出来るのよぉ~」


「え? 血縁関係が無い?」


 里奈の言葉に優子は不思議そうに雄介と里奈を見る。

 雄介はため息を吐きながら、仕方なしに説明をする。


「実は、俺と里奈さん……てか、俺は今村家に養子としてやってきたんだ。だから俺だけがこの家では血が繋がっていないんだ」


「そ、そうなんだ……知らなかった」


「言うなよ、秘密にしてる訳じゃないけど、知られたくないんだ」


「わ、わかった」


 雄介が優子に説明している間も、里奈は雄介にしがみついて離れない。

 雄介は『はぁ~』と大きくため息を吐き里奈に言う。


「そもそも、俺は里奈さんとは結婚しません」


 そう言った瞬間、里奈の表情は一気に暗くなった。

 まるで『がーん』と言う効果音が聞こえてきそうなほどにその表情は暗くなった。

 あまりにも衝撃が強すぎたのか、里奈の力が緩み、その瞬間に雄介は里奈のホールドから脱出した。


「な、なんで……お、お姉ちゃんのこと大好きって言ったじゃない!?」


「何年前の話ですか……」


「いつも起こしてくれるじゃない!」


「そうしないと、里奈さんがいつまでも起きてこないからです」


「いつも朝ご飯作ってくれるじゃない!」


「二人で暮らしていて、里奈さんが料理が出来ないからです」


「一緒に買い物に行くじゃない!」


「家族だからです」


「一緒に旅行に行くじゃ無い!」


「家族だからです」


「毎日一緒にお風呂に入るじゃない!」


「家族だか……って一緒になんて入らないでしょ!!」


 里奈の言うことをすべて否定する雄介。

 結婚したいなんて、子供の頃に言った冗談のようなものだと雄介は思っていたが、里奈にとってはそうではなかったらしい。


「い、一緒に……お、お風呂!?」


「加山、違うからな!」


 半分空気になりかけていた優子がそう呟き、顔を真っ赤に染めていた。

 雄介はそんな優子の言葉を間髪入れずに否定する。


「そ、そんなぁ~、お姉ちゃんはユウ君の事をこんなに愛しているのに!」


「だから、俺たちは姉弟で……」


「お姉さんも振られてるじゃないですか! じゃあ、雄介は私が貰うんで……」


「おい、なんでそうなる」

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