第二章 逃げる草食系

第6話

 優子が帰った後、雄介は家で大変な目に藍っていた。

 風呂に入れば、里奈が乱入してきたり。

 ソファーで座ってテレビを見ていれば、必要以上にくっついて来たり。

 最終的には一緒に寝ようとしてきたのだが、雄介が一時間説得をしてなんとか一緒に寝る事は阻止出来た。

 そして、現在は朝の6時。

 雄介の部屋の目覚まし時計が音を立てて、柚須受けの目を覚ました。

 雄介は目を擦りながら、目覚ましを止め、ベッドから立ち上がる。


「……ねむ」


 まだ寝ていたい雄介だが、そうもいかない。 自分と里奈の朝食と弁当を作らなければならないし、朝が弱い里奈さんを起こしにいかなければならない。


「はぁ~あ……」


 背筋を伸ばし、大きく欠伸をした後、雄介は着替えをして里奈の部屋に向かった。


「昨日は散々だったなぁ……」


 優子が帰った後の事を思い出しながら、雄介は里奈の部屋に向かい、里奈の部屋のドアをノックする。


「里奈さん、起きてますか?」


 返事が無い。

 こんな事は毎日の事だ。

 

「開けますよ」


 雄介はそう言って里奈の部屋の扉を開け、中に入って行った。

 部屋の中は女性らしい明るい部屋になっており、何体かぬいぐるみも置かれていた。

 部屋のベッドの上には、布団を蹴飛ばし、ベッドで丸まっている里奈の姿があった。


「里奈さん、起きて下さい」


「う~ん……誰? ユウ君?」


「早く起きて下さい」


「う~ん……お早うのキスわぁ?」


「下に居るので、着替えてさっさと下りてきて下さいね」


「む~、ユウ君の意地悪ぅ~」


 雄介は里奈の言葉を無視して、一階のリビングに下りて行った。

 エプロンを付けると、雄介は冷蔵庫の中から食材を出して調理を始めた。

 里奈が生徒会の役員をしているため、雄介より早く家を出るので、雄介はいつも里奈の食事と弁当を先に作る。


「うん、今日も美味しいよ~、ユウ君!」


「それはありがとうございます」


 制服に着替えた里奈が、雄介の作った朝食を食べてそう言った。

 雄介は里奈が食事をしている間に、自分の分の食事と弁当を作る。


「ごちそうさま! じゃあお姉ちゃん先行くね」


「分かりました、それじゃあ気を付けて行って下さい」


 雄介はそう言いながら、里奈を見送るために家の玄関に里奈と一緒に向かう。


「じゃあ、行ってらっしゃいのチュ~……」


「はい、さっさと学校に行って下さいねぇ~」


「あん! ユウ君の恥ずかしがり家さん……」


「別に恥ずかしがってはねーよ……」


 雄介は無理矢理里奈を学校に行かせ、リビングに戻って自分の登校の準備を始める。


「さて……弁当も作ったし……あ、そう言えば今日は検診の日か……」


 雄介はカレンダーを見ながら、そう呟いた。 カレンダーには今日の日付のところに赤い丸が付いていた。


「早く帰ってこないとな……」


 雄介はそんな事を考えながら、身支度を済ませて、里奈が出た三十分後に家を出た。


「今日も暑いな……」


 雄介は朝からの猛暑にため息を吐きながら、学校までの道を歩く。

 歩きながら雄介は昨日の優子の発言に付いて考えていた。


(あいつ……昨日の今日で何かして来るかな? でもあいつも流石に人目の多い学校じゃあなにもしてこないか?)


 雄介がそんな事を考えながら歩いているとようやく学校の校門が見えてきた。

 校門の前では生徒会の役員が朝の挨拶をして立っていた。

 もちろんその中には里奈もいた。

 家とは違い生徒達に笑顔で挨拶をしている。 里奈はこの学校では美少女副生徒会長として男子の中では人気が高い。

 成績優秀でスポーツも出来る、おまけに責任感があり、生徒会の副会長もしており、男子だけでなく女子生徒や先生達からも信頼されていた。

 まさか里奈が家ではブラコンの変態なんて誰も夢にも思わないだろう。


「おはよう、里奈さん」


「あら雄介、おはよう。さっきも家で言ったじゃ無い」


「いや、一応だよ。頑張ってね」


「うふふ、ありがとう」


 里奈は基本的に学校内では普通の姉として振る舞っている。

 雄介が同じ高校に入学すると決まった時、雄介は自分が入学することで、里奈さんの本性が学校中にバレて、里奈さんの評価を落としてしまうのでは無いかと心配になり、学校では普通の呼び方にして、極力関わらないようにしようと里奈に提案したのだ。

 里奈は渋々その提案にのったが、今でも納得はしていないらしい。


「ほら、早く行かないと遅刻よ?」


「あ、そうですね。それじゃ……」


 そう雄介が言いかけた瞬間、雄介は何やら甘い香りと右腕に柔らかい感覚を覚えた。

 何かと思い、匂いの方向に目をやるとそこには満面の笑みを浮かべた優子がいた。


「おはよう! 雄介!」


「げ! 加山……」


「げって何よ、失礼ね!」


 雄介は思わず飛び退き、優子から距離を取る。


「あ、あぁすまん……おはよう」


「うん、おはよ!」


「言いながら俺に近づこうとするな……」


 優子は雄介の腕に抱きつこうと雄介の腕に手を伸ばす。

 しかし、雄介はそんな優子から逃げまくり、優子から距離を取る。


「もう! そんな事言ってたらなおらないよ? 女嫌い」


「順序があるだろ!」


 優子と雄介が揉めていると、いつの間にか周りの生徒が優子と雄介の様子を見ていた。


「おい! なんだあいつ! 加山さんとイチャイチャと!!」


「あれって、たしか……副会長の弟だろ? うらやましい奴!!」


「どうせ、夜は副会長の部屋の下着を漁ってるに決まってるぜ」


(なんか、有らぬ誤解を受けているな……)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る