第7話

 人目も多くなってきたことに気がつき、雄介はさっさと教室に向こうと優子を無視して歩き始める。


「あ、まってよ。一緒に行こうよ」


「なんで、そうなる。勝手に行けよ」


「同じ教室じゃん」


「まぁそうだが……はぁ……良いか、俺の半径一メートル圏内に入ってくるな」


「何よそれ! 人を危険人物みたいに!」


 雄介と優子が校門前でそんな話しを繰り返していると、里奈が間に入って笑顔で言う。


「加山さん、雄介。登校するみんなの邪魔よ。校門前ではあまり騒がないようにね」


「あ、居たんですかお姉さん」


 里奈がそう言って間に入ると、優子は嫌そうな顔で里奈にそう言った。

 

「加山さん、ごめんなさいね、弟に少し話しがあるから、貴方は先に学校に行っててもらえる?」


 里奈はそう言うと、雄介を連れて校門の前を離れた。

 雄介は正直助かったと思った。

 家ではあんな感じだが、いざとなった時に頼りになると雄介は里奈に感謝していた。


「もうユウ君! ダメでしょ! あの子と話しちゃ!」


「………あ、ありがとうございます……助けてくれて……あの……でも離してもらえます?」


 里奈は校舎の裏に行くと直ぐに雄介に抱きついた。

 雄介はやっぱりこうなるのかと思いながらため息を吐き、里奈に言う。


「里奈さん、いい加減に離して下さい」


「え? なんで?」


「なんでじゃないです、このままだと遅刻です」


「あぁ、それもそうね」


 学校だからか、里奈は素直に雄介の言うことを聞いた。

 雄介は制服のシワを直し、鞄を持って里奈の元を離れようとする。


「良い? 絶対に加山さんとは関わっちゃダメよ! あの子何するかわからないから!」


「わかってますよ……さっきの事であいつが危険だって事もわかりました」


「何かあったら直ぐにお姉ちゃんの教室に来るのよ!」


「はいはい、じゃあ俺はもう行きます」


「待って」


「なんですか?」


「朝しなかったから、言ってきますのちゅーを……」


「さよなら」


 雄介は里奈の言葉を無視して、教室に向かって歩き始める。

 

「はぁ……朝から勘弁して欲しいな……」


 雄介は教室の前にたどりつき、ため息を吐きながら教室の戸を開ける。


「ん? なんだ今村、ギリギリか? さっさと席に付け」


「はいっす」


 雄介はそう言って、自分の席に付いた。

 前の席に相変わらず優子が座っている。

 雄介は外を見ながら、これからの学校生活について考える。


(加山とは極力距離を置いた方が良いな……あいつのスキンシップで発作を起こしても面倒だし……とりあえず慎辺りに協力を頼んで……)


 雄介がそんな事を考えてるうちにホームルームが終わった。

 

「んじゃ、今日はも一日勉学に励めよー。それと……今村」


「はい?」


「後で職員室に来い」


「あ、はいっす」


「んじゃ、号令」


「きりーつ、例」


 ホームルームが終わり、雄介は直ぐに職員室に向かった。

 優子から逃げる口実が出来て良かったと考えながら、雄介は職員室に向かった。


「失礼します」


「おー、こっちだこっち」


「先生、話しってなんですか?」


「あぁ……まぁいつものだ、発作が出るような事は最近あったか?」


「あぁ……いつものですか」


 石崎は雄介の発作の事を知っていた。

 女性に触れられると気絶する。

 珍しい症状ということと、発作が起きた時の危険性を考え、石崎は雄介が一年生の頃から石崎に定期的にこうして話しを聞いて貰っていた。


「あぁ……まぁ……つい昨日有りましたね……しかも気絶したし……」


「なんだ、女っ気の無いお前に何かあったのか?」


「女っ気が無いのは先生もでしょ?」


「おーし今村、二学期の成績表楽しみにしておけよぉ~」


「冗談ですよ……まぁ、色々ありまして……」


 俺は石崎に昨日起こった出来事を大まかに話した。

 石崎は雄介が信頼する人間の一人だった。 だから優子の事も相談出来ればと思っていた。


「なるほどな……モテ期が来たのか」


「俺にはそんなの必要無いですよ……」


「まぁ、別に恋をする事は悪い事じゃ無い。それに、加山の言うこともあながち間違いでも無い。この先の事を考えたら、荒療治でもその体質を治した方がいいだろ?」


「それはそうですけど……なんかあいつ積極的すぎて……」


「それをうちのクラスの馬鹿共が聞いたら、お前を殺しに掛かるぞ?」


「まぁ、そうでしょうね……うちのクラスの男子は……」


「まぁ、あれだ。少し様子を見て見たらどうだ? 体質の事は言ったんだろ?」


「まぁ、言いましたけど……」


「じゃあ、少しは加山の事を考えてみろ、それも勉強だ」


「まぁ……そうかもしれませんけど……」


 雄介は石崎にそう言われ、ため息を吐きながら職員室を出た。


「勉強か……」


(俺にそんな勉強はいらないと思ったんだけどな……)


 雄介がそんな事を考えながら歩いていると、後ろから背中を叩かれた。


「雄介!」


「イデッ! な、なんだよ慎……」


「職員室に呼び出しってなんかやらかしたのか?」


「ちげーよ……ただの連絡事項だ」


「なんだ、説教じゃねーのか~」


「つまらなそうな顔すんな」

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