第2話



 放課後、雄介は帰る準備をしていた。

 教科書を鞄に入れ、スマホで時間を確認していた。

 すると、そこに慎がやってきた。


「雄介、行こうぜ」


「あぁ、そうだな」


 帰り支度を済ませ、雄介が慎にそう言うと、前の席の加山がなんだか急いで席を離れ、教室を後にしていった。

 

「なんだあいつ?」


「なんか急いでるみたいだったけど……加山さんが直ぐ帰るなんて、珍しいな」


「用事でもあったんだろ? それより、さっさと行こうぜ」


「それもそうだな」


 雄介と慎は揃って教室を出て、そのままバッティングセンターに向かった。

 そして、二時間ほど雄介は慎に付き合って、バッティングセンターで遊んだ後、慎と別れて一人で帰宅をしていた。


「あいつ……二時間も付き合わせやがって……」


 まだ九月の始めと言うこともあり、日は高い。

 住宅を夕日が綺麗に照らし、周囲がオレンジ色に広がっていた。

 雄介はそんな住宅街を一人歩き、自宅を目指す。

 ようやく自宅が見えてきて、雄介は一つため息を吐く。


「はぁ……やっとか……早くシャワー浴びよ……」


 バッティングセンターで体を動かし、汗を掻いてしまった雄介は、早く家に帰ってシャワーを浴びたかった。

 雄介は自宅が見えた瞬間、急ぎ足で自宅への足を進める。

 すると、自宅前に誰かが立っているのが確認できた。

 

「ん? 誰だ?」


 夕日の逆光で誰かはわからなかったが、そのシルエットから髪の長い女性であることが予想出来た。

 どんどん近づいて行くと、家の前に立っている人物の正体がわかってきた。

 

「ん? 加山? お前何やってるんだ?」


 そこには何故かわからないが、優子が立っていた。

 雄介が優子にそう尋ねると、優子はゆっくりと雄介の方を向いた。


「あ……今村君やっと帰ってきた」


「ん? やっと? 俺に何か用事か?」


 雄介は疑問だった。

 入学当初から雄介は優子とほぼ会話をした事が無かった。

 優子はクラスの人気者。

 それに比べて雄介はクラスでもあまり目立たず、しかも女子とはほとんど会話をしない、草食系男子で通っていた。

 だからこそ、雄介はこの状況が不思議でならなかった。


「うん……ちょっと今村君に話しがあって……」


「話し? すぐに終わるか? この後飯を作らなきゃならないんだ。長くなるようなら、明日学校で頼む」


「大丈夫! 一言だけだから! あ、でも一言では済まないかも……」


「なんだそれ……」


 とびきりの笑顔で雄介にそう言う優子。

 雄介は何を言われるのか想像が出来なかった。

 優子に何かしただろうかと雄介は考えながら、優子が話すのを雄介は待った。


「んで、なんだ? 用って」


「うん……言いたい事があって……」


「なんだ?」


「うん……あ、あのね!」


 夕日のせいか、優子の頬が赤く染まっていた。

 雄介が優子の言葉を待っていると、優子は少しづつ雄介に近づいてきた。

 どんどん近づいてくる優子に、雄介は少しづつ距離を取ろうとゆっくり後ろに下がる。

 しかし、背後には既にブロック塀があり、もうこれ以上は下がれない。

 優子は少しづつ雄介に近づき、雄介との距離はすでに10センチほどになっていた。


「か、加山……ち……近い……」


「今村君……今……付き合ってる人とか……居る?」


「い、居るわけないだろ……とりあえず離れろ……」


 雄介は変な汗が出るのを感じた。

 平常心を保とうと、キョロキョロと辺りを見回したり、深呼吸をするが、雄介はの心は落ち着くことがなかった。


(や、ヤバイ……これ以上は……)


 雄介は内心でそんな事を思っていた。

 これ以上はまずい。

 雄介は焦っていた。

 そんな雄介を他所に優子は雄介を大きな瞳で見つめる。


「私……今村君の事が好きなんだけど……」


 小悪魔のような笑みを浮かべ、優子は更に雄介に近づく。

 その表情はいつもの優子の顔ではなく、完全に女性の顔をしていた。

 雄介は聞きを感じ、優子を引き剥がして距離を取る。


「ま、待て!! 話しが急すぎる! 状況がさっぱりわからないし、大体なんで俺なんだ!」


「私、今結構勇気出して告白したんだけど……雄介大丈夫?」


「大丈夫な訳あるか!! てか、いきなり呼び捨てにすんな!」


「良いじゃん別に」


 涼しい顔でそう言う優子。

 そんな雄介と対照的に雄介は焦りと混乱で熱くなっていた。


「もう、それで返事は?」


「は? 何の?」


「だから告白の!」


「ま、待て!! なんで俺なんだ! 今まで俺と接点なんて無かっただろ!!」


 そう言うと優子は、またしても小悪魔のような笑みを浮かべながら、雄介の耳元に向かって囁くように言った。


「忘れちゃったの? あ・の・こ・と」


「は、はぁ!? な、何の事だよ!!」


 雄介はパニックになり、優子から距離を置く。

 

「お、俺はお前と何かあった覚えなんてない! お前の勘違いだろ!」


「何よぉ~、私のことをこんなに夢中にさせたくせにぃ~」


「何もしてねーよ! そもそも俺は女子が苦手なんだ、好んで関わりを持とうなんて思ったことなんてない! だからお前の気のせいだ!」


「まぁ、昔の話しだし覚えてないか……とりあえず付き合おっか!」


「なんでそうなる!! そして近づいてくるな!」


「えぇ~そんな嫌がら無くても良いじゃ~ん」


 優子は話しながらゆっくり雄介に近づいて来る。

 雄介はそんな優子から離れながら、優子に反発し続ける。


「わ、悪いが俺は加山と付き合えない!」


 雄介がそう言うと、優子はピタリと動きを止め、戸惑ったような表情で雄介に尋ねる。


「え……わ、私じゃ……ダメ? な、なんで?」


「い、いや……その……気持ちは嬉しいんだが……」


 優子が一気に寂しそうな表情に変わり、その様子は雄介にも伝わってきた。

 そんな優子を見て、雄介もどうしたら良いのかわからなくなり、少し戸惑ってしまう。 

「わ、悪いんだが……俺は女子が苦手なんだ……だから付き合うとかはちょっと……」


 優子は寂しそうな顔をしながら、俯いてしまった。

 雄介はどうしたら良いのかわからず、アタフタしながら優子の様子を見ていた。


「いや、でも加山はモテるし……俺じゃ無くても相手なんていっぱい……」


 フォローのつもりでそう言った雄介だったが、それが逆効果だと言うことを雄介は気がついていなかった。

 

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