第11話
「あの子……あの容姿でしょ? 昔から変なのに付きまとわれることが多くて……」
「そうなのか。まぁ、確かに容姿は良い方だな」
「でしょ……だから、自分から誰かを好きになるなんて無かったのよ……それどころか、少し前までは男の人が怖かったの」
雄介は話しを聞きながら、少し自分と似ているなと思ってしまった。
「だから、あの子が心を許せるのが今村君なら……なんとか考えてあげて欲しいの……優子には幸せになって欲しいから」
「……悪いな、俺はそんな事を言われても答えは変わらない」
「……どうして?」
「単純だ……俺は女性恐怖症なんだ」
「え……」
雄介の言葉に沙月は驚いた様子で目を見開く。
「で、でも……普通に話せてるじゃない?」
「俺の場合は女性と近距離で近づいたり、触られたりすると拒絶反応を起こして倒れるんだ。信じられないかもしれないが事実だ」
なんでこんなことまで自分はペラペラ話しているのだろうか?
雄介はそんな気持ちだった。
優子が昔、男性が苦手で自分と少し似ていると思っただろうか、雄介は沙月にも自分の体質の説明をした。
「そ、そうなんだ……じゃあ、今の状況も……」
「あぁ……若干な……」
実を言うと、雄介は少し前から具合が悪くなってきていた。
沙月と二人きりというこの状況も雄介にとってはあまり良くない状況だった。
今は、少し頭痛がしてきたくらいで済んでいるが、そろそろ雄介は限界だった。
「悪いけど、そう言うことだからこの話は終わりだ。俺は保健室で寝る」
「あ、待って!」
「なんだ?」
「……今村君は優子が嫌い?」
「……さぁ、どうだろうな……今まで無関心だったからな……好きでも嫌いでもない、今はただ迷惑な奴って感じだ」
雄介はそう言って屋上を後にした。
雄介は体調の悪さを感じ、そのまま保健室に向かった。
保健室の先生は雄介の体質を知っており、時折ベッドを貸してくれる。
「先生すいません」
「あら、雄介君どうしたの? また例のあれ?」
「はい、先生すいませんベッド貸して下さい……」
「良いわよ、じゃあ私も職員室の方に行ってて上げるから、ゆっくり休みなさい」
「はい」
保健室の先生である明実倖(あけみ さち)先生はそう言うと俺が入ってきて直ぐに隣の職員室に引っ込んで行ってくれた。
「はぁ……参ったな……二日で二回も……」
今までは気を付けていたので、普通に生活出来ていたのだが、優子に告白されてからは少し拒絶反応が出るのが多い。
「今日は……ちゃんと帰れるかな?」
雄介はそんな事を考えながら目を閉じた。
*
夢を見ていた。
俺はその夢に見覚えがあった。
そうだ、これは昔の夢だ。
思い出すのも嫌なくらいの忌々しい記憶……。
『ほら、さっさと立ちな』
『う……げほっげほっ………』
『ほらほら! ぼーっとしてると死ぬよ!!』
『ぐっ! あがっ!!』
ナイフを持った女に5歳の俺が殴られている。
なんでこんな夢を見るんだか……。
『あがっ!』
あの地獄の日々は忘れることが出来ない。
だから、時折こんな夢を見るのだろうか?
嫌な記憶ほど鮮明に覚えているものだ……。 俺はそんな事を思いながら、ボコボコにされる自分を見ていた。
そして……5歳の俺をボコボコにしている女を睨み付ける。
「あいつだけは……絶対に許さない……」
そうだ。
許してはいけない。
許す事なんてできない。
どこに居る……。
一体この女は今……どこに……。
俺がそんな事を考えていると、俺を呼ぶ声がどこからから聞こえてくるのを感じた。
「……ら……」
「ん……誰だ?」
「……むら!」
声はどんどん大きくなっていく。
その瞬間、過去の記憶はどんどん薄くなって消えて行く。
そして、俺は目を覚ました。
*
「ん……先生」
「先生じゃねー、今何時だと思ってやがる?」
「え? あ……」
スマホで時間を確認すると、時刻は既にお昼過ぎだった。
「たく……午前中サボりやがって」
「すいませんっす……午後からは出ます」
「また発作か?」
「はい……」
「……無理はするなよ、なんだったら早退するか?」
「いえ、大丈夫です」
「そうか? なら、念のため今日はお前は姉と一緒に帰れ」
「え? 里奈さんとですか?」
「そうすれば、何かあっても安心だろ? お前の姉には俺から……」
「いや! それは絶対にやめて下さい!!」
雄介はそう言って石崎を止めた。
里奈にこんな事が知れたら、いろいろと面倒な事になると思い、雄介は里奈にこの事が知れるのを恐れた。
「そ、そうか? ま、まぁそう言うなら……でも気を付けて帰れよ?」
「はい、じゃあ俺は受業に行きます」
「おう、気を付けてな」
俺は石崎にそう言われ、雄介は保健室を出て教室に向かう。
今朝の教室の雰囲気から、あまり教室に戻りたくはない雄介だったが、受業に出なければ勉強が遅れると思い教室に戻った。
「あいつら……まだ殺気だってるかな?」
男子生徒も心配だったが、雄介はそれよりも優子の事が心配だった。
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