第9話

 何やら自分たちの事を言っているなと雄介は思いながら、優子の手を無理矢理振り払う。

「良いから離せよ!」


「じゃあ、私も行く」


「付いてくるな!」


「別に良いじゃん!」


「良くねーよ!!」


 雄介ははそう言いながら、教室を飛び出してどこかに向かった。


「あ……もう!」


 残された優子は不満そうな顔で自分の席に戻って行った。

 そんな優子にクラスメイトは詰め寄り、質問攻めにする。


「か、加山さん! い、今村と仲良かったっけ?」


「てか、どんな関係なんですか!!」


「え? うーん……」


 優子は少し考え、笑顔でクラスメイトに話す。

 

「昨日告った関係……かな?」


「「「「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」」」」


 優子の爆弾発言により、クラスの男子生徒の叫び声が学校中に響き渡った。

 もちろんその声は雄介にも聞こえていた。

 

「な、なんだ?」


 一体何があったのだろう?

 そんな事を雄介が考えていると、後ろから慎がやってきた。


「おい、雄介」


「ん? なんだよ慎」


「お前、当分はクラスに戻らない方が良いぞ?」


「は? なんでだよ」


「良いから来い、身を隠さないと危険だぞ」


「だからなんなんだよ……」


 雄介の手を引っ張り階段の踊り場に連れて行く。

 そして、今教室で何が起きているかを話す。

「はぁ!? あいつ……言いやがったのか!」


「あぁ、公表してたな」


「じゃあ……さっきの叫び声は……」


「クラスの男共の悲鳴」


「そんなにかよ……」


「まぁ、お前が告白してきた相手はそれだけの奴だってことだ。どうだ? うちの学校の男子生徒の七割を敵にした気分は?」


「最悪だっつの」


「だろうな」


 雄介は深いため息を吐きながら、これからの事を考える。

 

「教室帰りたくねぇーな」


「受業サボるか?」


「それはちょっと……はぁ……助けてくれよ慎」


「俺がどう助けるんだよ。まぁ、モテる男は辛いってことだ」


「お前が言うと説得力あるな」


「うるせぇよ。てか、お前がいつも俺に言ってることだからな」


「そうだっけ?」


 慎はそう言いながら、雄介の背中を叩いた。

「ま、これも良い経験だ、自分でなんとかすることだな」


「おいおい、俺を見捨てるのか?」


「見捨てる? ちょっと違うな、俺はお前の女嫌いがこれを機に治れば良いなと思ってるんだよ」


「で、本音は?」


「面白そうだから」


「おい!!」


 雄介がそう言ったのとほぼ同時に授業開始のチャイムが鳴った。


「お、ヤバイな。早く教室戻ろうぜ」


「あ! おい! 待てよ!」


 雄介と慎は急いで自分たちのクラスに戻った。

 授業には問題無く間に合った二人だったが、教室で待っていたのは、教科担当の先生では無く、クラスの男子生徒達だった。


「あ……」


「やぁ、今村君……」


「僕たちちょ~っと今村君に話しがあるんだけど……」


「ちょっと屋上まで来ようか……」


「いや、今から授業だろ……そんな時間……」


 そう雄介が話している間に、次の数学担当の石崎が教室に入ってきた。


「おーし……お前ら授業始め……おいお前ら……」


「ほ、ほら……先生も来たし、みんな席に……」


「お前ら、ヤルなら教室の外でヤレよ? あと、面倒だから血は流させるなよ」


「「「はい、先生!」」」


「アンタ本当に教師か!!」


 まさかの先生からの裏切り。

 雄介が石崎に叫ぶと、石崎はやれやれと言った感じでこう続けた。


「ま、二学期の成績表が怖い奴らはしっかり受業を聞いた方がいいけどな」


「「「うっ……」」」


 石崎のその言葉に雄介に詰め寄っていたクラスの男子生徒達は大人しくなり、自分の席に戻り始めた。


「よーし、じゃあ静かになったところで教科書の120ページを開けー」


 雄介も席に着き、受業を聞き始める。

 なんとか聞きは脱したが、本番はここからだろう。

 受業が終わった後、絶対にクラスの男子達は雄介に詰め寄ってくる。

 雄介はそう考え、どうやってクラスの男子達から逃げるかを考えていた。


「なんで俺がこんな目に……」


 雄介は授業中もため息が止まらなかった。





「で……今村君説明して貰おうか……」


「だから、加山が勝手に……」


 受業が終わった後、雄介は直ぐにクラスの男子達に捕まり、尋問を受けていた。

 逃げられないように周りを囲まれ、昨日の事など聞かれた。


「だから! 俺にそんな気はない」


「なんだと!」


「加山様に向かってなんて口の聞き方だ!」


「お前の息子を切り離してフランクフルトにしてやろうか!」


(俺のクラス……こんなに物騒だったっけか?)


 雄介はそんな事を考えながら、深いため息を吐く。

 クラスの女子達も優子の好きな相手が気になるようで、雄介の尋問光景を見ていた。


「大体、お前らに何か言われる理由がないだろ……」


「ある!」


「なんでだ?」


「お前がただ憎いからだ!」


「理不尽……」


 雄介がクラスメイト達の理不尽な罵声に耐えていると、クラスの男子が涙を流しながら話し始めた。


「今村……俺たちはお前の事は信用してたんだぞ……」


「なんでだ?」


「クラス内でもあまり目立たず、女子ともそんなに会話をしない……お前は絶対にライバルにならない唯一の男子生徒だと思っていたのに!!」

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