【第1章】ミリア・デルティア × ナツミ・イワナミ
ミリア:デルティア家の一人娘。何でもそつなくこなす優等生。あまり人生で苦労をしたことがないので周囲からは羨ましがられるが、自分は単に要領が少しいいだけだと思っている。抜群の才能さえあれば他は何もいらなかったのに、とないものねだりをしている。自分のことがあまり面白い存在だと考えらないので余計にそう思う。 基本的に無趣味だが、花を一輪挿しにして部屋に飾るのがちょっと好き。きれいな花瓶があればパッと部屋の雰囲気を変えられるのがいい。ただできれば全力で打ち込めるものがほしいとも思っている。
ナツミ:僕の名はナツミ・イワナミ。0区と呼ばれる社会の掃きだめで暮らしている。生まれつき記憶力が長けていることを利用して、生計を立てるために探偵業などをしている。ミリアとはシトラ女学院で起こったゴールデンサファイヤ窃盗事件を担当した際に知り合った。僕から見れば家族・資金・才能すべてを持っているように見えるのに、彼女はどこか物憂げで、目が離せないと思ってしまう。彼女が求めているものが何なのか知りたくて、今日も彼女の部屋の窓をたたく。
✿ ✿ ✿
夕食を終えて人心地ついた時間、シトラ女学院の二階の角部屋。
ミリア:「ふう。今日も平穏な一日だったな」と机上の花を見やります。この場合の平穏は誉め言葉ではないです。
ナツミ:コンコンと小さな音が窓のほうからする。
ミリア:腰かけていたベッドから立ち上がってカーテンを開けます。
ナツミ:「やあ、ミリア。今日も月がきれいだよ」慣れた様子で、窓をくぐり、帽子を脱ぐ。
ミリア:「ナツミ! 元気そうでよかった。……とはいっても、一週間ぶりかな? ここの生活ってちょっと退屈だから、久しぶりに感じちゃう」
ナツミ:「そうか、もう一週間もたったのか」そして挨拶もそこそこに、慣れた様子で棚に置いてある紅茶の茶葉に手をかける。
ミリア:「そうだよ。ナツミからしたらあっという間だったかもしれないけどね」と言いながらお湯を沸かします。
ナツミ:「君のところを訪れないと曜日の感覚がずれていけないな」
ミリア:「探偵さんに土日はないもんねえ」お湯が沸くのを待っている。
ナツミ:「まあね。探偵業なんて、安定しないつまらない仕事さ……」しばらく沈黙ののち、ぐつぐつとやかんの音がする。
ミリア:「うーん、少なくともここの生活よりは楽しみがあると思うけどなあ……」ティーカップにお茶を注ぎます。ティーカップは同じものを用意してある。友達に渡すものともまた別のもの。
ナツミ:ティーポットにきっかりティースプーン2杯分の茶葉を入れ、茶葉が踊るようにお湯を注ぐ。
ミリア:その様子を黙って見ています。ひとつの儀式のようなものです。
ナツミ:内ポケットから懐中時計を取り出し、きっかり3分。「さて、そろそろかな」パチンと懐中時計の蓋をしめる。そして恭しく、二つのカップに出来たての紅茶を注ぎます。
ミリア:「どうもありがとう。毎度見事なお手並みね」と香りを嗅ぎながら言います。
ナツミ:「そうだ、今日はお茶菓子も持ってきたんだ」とかばんの中からかわいらしい箱に収められたクッキーを取り出します。
ミリア:「へえ……」と言いながらクッキーを眺めます。甘いものは好きなのでうれしい。
ナツミ:「いま抱えている件で、セントラル・グラン(百貨店)に立ち寄ってね。おいしそうだったから買ってきたんだ」
ミリア:「ありがと、ナツミ。物を買ってきてもらうことはできるけど、いつかは自分で選びに行ってみたいなあ……」
ナツミ:「いつも同じセリフで飽き飽きしているかもしれないが、そういうものかい。僕から見れば君はすべてを持っているようにみえるがね」
ミリア:「そうかもね。豪勢な鳥かごに住んでいる自覚はあるよ」
ナツミ:クッキーをほおばり、香りを十分に楽しんでから紅茶に口をつける。
ミリア:「でも多分さ、ここを出たらまた色々考えるんだろうなって。結局。あの事件も解決してもらっちゃったしね」紅茶を少しずつ飲みます。
ナツミ:「ふふ、そんなこともあったね」と少しだけ物思いにふけるような表情になります。
ナツミ:しばらく穏やかな沈黙が続く。「さて、と。今日も、事件についての話をききたいかい? ミリア」
ミリア:「ええ、お願いしようかな」
外の話を聞くのはいい刺激になるので好き。聞かなければ知らない誰かに嫉妬もしなくて済むけれど、井の中の蛙でいても意味がないことも知っている。
ナツミ:「そうだな。今週はいろいろあったから……とりあえず大きなところといえば、あの有名オペラ歌手・リーヴェルトの不倫疑惑を追ったところからかな」
ミリア:「へえ! ナツミ、色恋沙汰には全然興味ないんだと思ってたよ」と目を丸くします。
ナツミ:「仕事になるなら興味は二の次だね。僕の場合は。働けばこうしておいしい紅茶とクッキーを食べられるんだから」
ミリア:「ふうん」と頷いて、年のわりにしっかりしてるなあなんて思いを馳せます。
ナツミ:貧民街出身なので、仕事を選ぶという感覚はあまりありません。いやあもう苦労したよと。まったく苦労を感じさせない表情で語りだす。「色恋沙汰だと思って追っていたんだが、実はリーヴェルトの熱狂的なファンによるストーカー事件だったことがわかってね」
ミリア:「そもそも、不倫じゃなかったってこと?」
ナツミ:「そうさ。つまり、リーヴェルトは自身の身を守るため、友人の家を訪れていた。ただそれだけだったのさ」
ミリア:「なるほどねえ。本人もそれじゃあ泣きっ面に蜂だったろうね。ストーカーから逃げたらパパラッチに追われるだなんて」
ナツミ:「ははは、その通りさ」
ミリア:「じゃ、ナツミはまた人助けしちゃったんだ」と少しいたずらっぽく笑います。「——ねえ」
ナツミ:ん? と雰囲気が変わるのを感じて顔を上げます。
ミリア:「ナツミはさ、私といて楽しい?」悲しいというより、大真面目に聞いています。「ほら、外の世界って広いし、ナツミなら知り合いだって色々いるだろうし……。私なんて単なる箱入り娘に過ぎないのかなー、なんてさ。「もちろん、ペアになるぐらいの親しさはあるってわかってるけどね」と笑います。単に前から自分と一緒にいてくれることをちょっと不思議に思っていたので聞いています。
ナツミ:きょとんとした表情をしてからくすりと笑います。「ミリアは時々おもしろいことを言うな」
ミリア:「ええ? 私は結構真面目なんだけどなあ」ちょっとふてくされ。
ナツミ:「外の世界が広くったって、ミリアはここにいるだろう」
ミリア:「う~ん、それはプロポーズ的に受け取っていいのかな」と首をかしげます。
ナツミ:「おや、そんな気恥ずかしい風に聞こえたかな」
ミリア:「もちろん、私が世界一だって褒めてくれるならうれしいけどね」笑ってクッキーに手を伸ばします。
ミリア:「ふふ、私も外に出たらいろんな人と知り合いになっちゃおっと」少し怪しい笑みを浮かべて。「そしたら、私もナツミが一番でした。って言うからさ」
ナツミ:「おやあ、それは嬉しいね」そうだ、と何かに気が付いて、突然思いついたように言う。「次に来たときはきみに面白いものをプレゼントすることにするよ」
ミリア:「ハードル上げるねえ」と独り言のように。
ナツミ:「ふふ、存外一番だといわれるために努力するのは悪くない気がしてきたからね」
ミリア:「なるほどね。それじゃあ、一流の努力を見せてもらいましょうか」
ナツミ:と言いながら帽子をかぶります。「これは面白い仕事だな……」
ミリア:部屋の外から足跡が聞こえます。おそらく別室の友人がこちらに向かってきているのでしょう。おっと、という顔をしてナツミの方を見やります。ちょっと寂しげに微笑む。
ナツミ:すでに退出の準備が整えられており、窓へ向かって歩き出している。「じゃあミリア。近いうちにまた来るよ」
ミリア:「ありがと、ナツミ。楽しみに待ってる」笑顔で見送ります。
ナツミ:窓をくぐり、バルコニーに出たと思うと闇の中にスッと消えていく。
ミリア:完全に姿が見えなくなるまで目で追ってから窓を閉めます。外からはノックの音と、小声ながら騒がしい音。「ちょっとミリアー! 抜け出してきたから早く入れて!」と級友デーニャの声。はいはい、と答えながらカップを片づけてクッキーをしまう。
ミリア:「ちょっと部屋片づけててさ! デーニャ、もう少し待ってて!」急いで片づけてデーニャを出迎えます。でもまだナツミのことを考えている。「おもしろいもの、ね……。ステラバトルより、そっちの方が楽しみかな」と独りごちます。
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観客2:ちょっと激エモじゃないですか。ブーケ20個!!
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