【幕間】御剣透 × 御剣イツキ
満月に照らされて、よく手入れがなされているイングリッシュガーデンの片隅にある東屋にイツキと透の姿がある。近くの噴水の水音が聞こえるが、それ以外は静寂に包まれている。執事が入れてくれた暖かい紅茶がまだ熱気を残したままだ。
透:「さて、そろそろ時間だ」
イツキ:「う、うん……緊張してきた……」
透:「それ、つけてくれているんだな」とイツキの耳に着けられているイヤリングに手を伸ばす。
イツキ:「大事にしまっておこうかとも思ったんだけど、今日は特別だから。これを付けていると、透さんとハルカ姉さん、2人とも俺のそばにいてくれるような気がして」
透:「ああ、ハルカと3人で乗り越えよう」
イツキ:「俺、一生懸命頑張るよ! 大切な人たちのために」
透は立ち上がり、東屋から1歩外に出て月を見上げる。イツキも透の後を付いて同じく天を仰ぐ。
イツキの耳に着けた青いイヤリングが揺れる。空はきれいな満月。美しさの中にもどこかもの悲しいような印象を感じる。
ハルカが隣に立っていたころは何も怖くないと思っていた。彼女がいなくなって、もう自分には世界を背負う戦いに立ち向かうことはできないと、こんなにも自分は弱いのだと絶望したこともあった。でも……。今隣に立つ、一人の少年。自身の肩の高さをようやく超えたくらいのまだ幼き存在が、自身の歩みを後押ししてくれていることに、驚きとともに頼もしさを感じるのだ。
透:「さあ、決戦の地へ行こう」透はイツキに微笑みかけると歩みを進める。
イツキ:「う、うん」と透の後を付いていく。
バラが咲き誇る庭をくぐると、屋敷の正面が見えてくる。玄関の前には屋敷の使用人がそろって迎えに出ており、整然と立ち並んでいる。白い大理石の床は、月明かりに照らされて、それ自体が淡い光を放っているようだ。
母親がゆっくりと近づいてきて、二人に声をかける。「二人とも気を付けてね」
父親もそれに呼応するように頷く。
透:二人を安心させるように微笑む。「父上、母上。行ってまいります」
イツキ:「は、はい! 頑張ります!」
使用人の側を通りに抜けるときに、老齢の執事が一言「お嬢様、お坊ちゃま。いってらっしゃいませ」と礼をする。それと同時にすべての使用人が首を垂れるのであった。
透:「ああ、みんな。行ってくる」
屋敷から門へ向かう大理石の道、その両側に使用人やメイドたちが並び、老齢の執事の言葉の後、順々にお辞儀をして、正門への道が開かれていく。その道を正門へ向かって歩いていくふたり。正門前にたどり着いたところで、透は手をイツキの前に出と、イツキはその手を取って透の目を見つめる。
イツキ:「世界を護る剣として!」
透:「戦いを始めよう!」
二人の姿が光に包まれ、イツキは光の粒子となって、透の周囲に漂う。直後、彼女の衣装がみるみる変わり、青を基調とした礼装に姿を変え、両耳には青のイヤリングがきらりと輝く。光の収束した透の手に握られしは鋭いレイピア。次の瞬間、ひとつとなった姉弟の姿は異空間へとかき消えたのであった―――決戦の地へ。
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