【カーテンコール】御剣透 × 御剣イツキ


 古いがよく手入れをされている調度品に囲まれた食事室に、質素だが美味しそうな食事が続々と運ばれてくる。メイドたちは統制の取れた動きで、無駄な動き一つせず淡々と仕事をこなしていく。その機械的な動きとは裏腹に視線は透とイツキの方にチラチラと向けられ、そして誰もがその後嬉しそうに微笑むのであった。

 ステラバトルが終わり、無事に戻ってきた2人に対する喜びが、静かな部屋の中に充満していた。最後に食前酒が父と母のグラスに注がれると、メイドたちは一礼して部屋を出て行った。

「お前たち、よくやり遂げたな」父は2人を交互に見ながら頷く。めったに笑わない厳しい人であるが、今日はその口元が緩んでいるように見える。


透:「父様…ありがとうございます。イツキが初めてだったにも関わらず頑張ってくれたおかげです」と満面の笑みで答える。

イツキ:「緊張しましたけど、透さんが助けてくれたのでなんとかなりました」と透の顔を眺めてから、父の方を見やると、すぐに目をそらしてしまう。子供ながらに自分の初めての快挙を家族に認めてほしい部分はあるが、普段は厳格な父にはあまり似つかわしくない微笑みに、どこか違和感を感じてしまう。

透:(母)「お二人が無事に戻ってきてくれて、嬉しいわ。さあ、お話も聞きたいけれど、まずは冷めないうちにいただきましょう」母は父とは反対に柔和な笑みを浮かべて、優しく声をかける。


 和やかな雰囲気の中、食事が始まる。会話の内容はもっぱらステラバトルの内容についてであり、ロボットに乗り込んだ少女のことや、舞台の様子、共に戦ったブリンガーについてが透とイツキの身振り手振り付きで詳細に語られた。ピンチの場面の話になると、母が真っ青になり、それを父がそっと支える様子も見られた。初めてステラバトルに参加した際は、母は卒倒していたので多少は慣れてきたのかもしれない。


 戦闘中は無我夢中であまり記憶になかったので、最初は透の話を聞いていたイツキ。自分の活躍を誉められることはあまりない経験のため、どこかくすぐったいような気恥ずかしいような気持ちになっていた。が、透の口から順序だてて話される今日の戦闘を聞くにつれ、今夜の死闘の様子が整理されながら少しずつ思い起こされ、次第に自身の口からも体験した出来事を父母に語りだす。そのテンションも徐々に上がり、臨場感を増して語る彼の心には、ステラナイツとしてこれから世界を守ってゆくのだという矜持めいたものが実感されつつあった。


 普段は両親に対してどこかよそよそしさや遠慮があるイツキであったが、興奮冷めやらぬ様子で語る姿は本来の年頃の少年らしさが現れていた。イツキの話を真剣に聞き入る両親の姿とイツキの姿を交互に見比べながら、透はなんと微笑ましい光景だろうと思った。

「世界の崩壊を防ぐだなんて大層な理由はあるけど、結局のところこの手で守りたいものは自身の手のひらの中にあるものなの」

 ふと彼女の言葉が通り過ぎて、透は微笑んだ。そして彼女が普段からやっていたようにイツキの頭を撫でる。


イツキ:頭に手を置かれたとき、「あっ……」と少し驚いて話すのを止め、透の方を見上げる。その後、少し俯いてしまうが恥ずかしさの中にも隠しきれない嬉しさが滲み出ているような表情だ。

透:「あ、すまない、つい」と少し恥ずかしそうに手を引っ込める。

イツキ:そこで、はっと気付いたように、「あ、僕ばっかり夢中になって喋りっぱなしで……ごめんなさい」

透:(母)「ふふっ、何を謝ることがあるの? イツキがこの家に来てから、最初は元気がなくてとても心配でしたけど、元気が出てきてからもどこか遠慮しているところがあったでしょう? 今のあなたは元気で輝いていて、私たちにも子供らしい表情を見せてくれる。その事がとっても嬉しいわ」

イツキ:(父)「お前はもう我が家に名を連ねたのだ。私の息子なら堂々と振る舞うことだな」

透:(母)「そうですね。私も弟ができて嬉しいですし、大事にしたいと思っています。ハルカの分まで」

イツキ:家族になった人たちからの暖かい言葉に「は、はい! ありがとうございっ、あっ……わ、分かりましたっ!」と整理できていない返事を伝える。この場での『ありがとう』の言葉は、どこか他人行儀であり堂々としていないという印象を、自ら口に出しておきながら悟ったようだった。


 その後は他愛のない話が少しばかり続き、季節のフルーツがあしらわれたタルトと穏やかで深い味わいのミルクティーに舌鼓をうち、夕食を終えたのであった。透とイツキが連れ立って席を立つと、部屋の入り口で待機していたメイドのアザミが「イツキ様…」と声をかけてくる。


透:(アザミ)「明日のお弁当のメニューですが、いかがいたしましょう」

イツキ:「えーと、エビフライ! ……だけじゃなくて、今度は透さんの好きなものも入れてもらって、また一緒にお昼食べたいな。透さん何がいい?」

透:「ああ、またいつもの場所で落ち合おう。好きなものか。ミートボールなんかを入れてくれるとうれしいな…それから…」ちらっとメイドの方へ目配せする。


 存じております、とメイドは目を伏せ「うさみんでございますね。次はうさみん×ステラバトルでご用意させていただきます」

 うさみんとは最近、女性人気の高い可愛らしいうさぎのキャラクターである。透も大層気に入っており、ベッドサイドにはうさみんのぬいぐるみが置いてあったりするのであった。


透:「うん。楽しみにしているよ」溢れんばかりの笑顔で透が答える。

イツキ:「透さん、意外と可愛いキャラクターとかに目がないよね?」

透:まあな。とやや恥ずかしそうに肯定する。

イツキ:「じゃあ明日のお昼楽しみにしてる! あっ、そうだ、これからも、たまにはお弁当誘ってもいい……? 俺、もっとステラバトルのこととか勉強したいし……」

透:「ふふ、喜んで」

イツキ:「やった! あ、お弁当の中身は交替で考えようね!」


 決闘の前にはあんなに心配そうにしていたイツキだが、今では吹っ切れたかのように生き生きしている。これから続くステラナイツとしての生活も彼なら乗り越えられる、透はそう思った。2人の戦いはまだ始まったばかりだが、一緒なら乗り越えられる。そんな手ごたえを感じながらイツキの背を見送るのであった。


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